王太子妃に興味はないのに

藤田菜

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 その日ひと通り城内を案内した後で、無事国王陛下への謁見も済ますことができた。
 陛下もアンのことを気に入ってくれたようで、私としては一安心。

 メアリーさまは相変わらずの対応だったけれど、おそらくどんな人物であっても、私の家の人間というだけでお気に召すことはないだろう。
 国王陛下と第一王子が気に入ってくれたというだけで、十分満足しておこう。
 後はアンがうまく役割を務め上げてくれるよう、しっかり支えてあげなくては。

「今日は色々疲れただろう。ゆっくり休みをとってくれ」

 その晩、レオさまはいつにもまして優しかった。

「あら、疲れてなんておりませんわ。アンのほうがよほど疲れたことと思います。うまくなじむことが出来ると良いのですが……」
「いやいや、さすが君の従姉妹だよ! 父さんも兄さんもあの子をいたく気に入ったようで、色々と褒めていて……――」

 レオさまは更に言葉を続けようとしたけれど、まずいと思ったのかまた言葉尻を濁す。

 陛下やロイさまが何と褒めていたのか、何となく察しがついてしまう。
 きっと私とは違って優れた見目に身体だと、そう仰っていたのだろう。
 白く柔らかな頬に大きな瞳、華奢な身体に豊満な胸。そして口元に艶っぽいほくろを持つアンは、私から見ても魅力的な容姿をしていると思う。
 陛下やロイさま、女性らしい女性が好きなお二方の好みでもあるだろう。

「い、いやあ、父さんも兄さんも君とは似ていないと言っていたが……僕は似ている部分を感じたな。たとえばそう……同じ深い色の瞳とか。二人ともその瞳から、なんというかそう……志の真っすぐさを感じるよ。それにほら……そう、骨格! すらりとした手脚なんか、君たちはそっくりだったよ、うん」
「……ふふっ」

 思わず笑いが漏れてしまった私を見て、レオさまは申し訳なさそうに頬をかいた。

「…….いやすまない……どうにも僕は口下手で……。でも本当に、君たちは似ていると、僕はそう思うよ。そうだな――……うんそうだ、骨格が似ているんだからコルセットをもっとこう、きつく締めたりして――……」
「ふふ、無理なさらないで。それとも、私が彼女のような見目になったほうがお好みですか?」
「いやいや、違う! そうじゃないんだ、そういう意味じゃ……」

 レオさまは慌てて否定する。
 もちろんそういう意図で言ったわけではないと、否定されずともわかっている。

「ごめんなさい、意地悪を申しました。レオさまがそんなつもりではないことは、よくよくわかっておりますわ」
「まいったな……でも僕の言い方が良くなかったのは間違いない。僕がその……昔から兄さんと比べられてきたものだから。君も彼女と比べられて、嫌な思いをしたことがあったんじゃないかと……すまない、いらない気を回してしまった」

 私はそっとレオさまの手を取って、その嘘のつけない瞳を見つめる。

「私は気にしておりません。だって私にはあなたがいるんですもの。あなたが私の夫で良かった……あなたさえいれば、周りになんと言われようとも気になりません」
「アイリス……こんな僕にそんなことを言ってくれるなんて……なんだか今日は、君の瞳がことのほか大きく見えて……そう、まるで今日来た彼女みたいに……ってああ違う、そういう意味じゃなくてっ……」
「ふふ、わかっております」

 この人はこういう人なのだ。
 他人のことばかり考えながら、それでいて口下手で、嘘がつけずに純粋な人。

 アンにはまだ、この人の良さはわからないだろう。
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