王太子妃に興味はないのに

文字の大きさ
3 / 13

3

しおりを挟む

 食堂に厨房、応接室、そして侍女が住まう部屋。
 今日から侍女としてお仕えすることになったアンに、順々に城内を案内していく。

「素敵……! 本当に素敵だわ! なんて立派なお城……!」

 アンは目を輝かせながら、見慣れぬ豪奢な作りの調度品たちに目を奪われている。
 父の援助もあって、アンの家だってそこそこ立派なお屋敷だ。けれどさすがに、一国の城には敵わない。

「ふふふ、本当に伯父さまには感謝しかないわ。私、今日からここに住めるのね! しかも次期王妃さまの侍女として……――なんて幸せ者なのかしら! ああでもそれに比べてアイリスお姉さまときたら、お気の毒ったらないわ。こんな素敵なお城に嫁げたとはいえ、お相手があんな第二王子なんて……――」

 アンは眉根を寄せながら、けれどもどこかおかしそうに私に言う。

「アン、城内でそんな言葉遣いをしてはいけないわ。そしてどこであっても王家の方へは敬意を払わなくては…….――」
「……――やあアイリス妃、ご機嫌はいかがかな」

 はしゃぐアンを嗜めようとした私の後ろに、どこからともなく第一王子のロイさまが姿を現した。
 アンの失言を聞かれていないかと冷や冷やする。

「やあやあ君かい? 今日から僕たちのところで、侍女として働いてくれるのは」

 まだ日も高いというのに、口元からはウィスキーの香りがする。酔っていらっしゃるのか砕けた調子で、お召し物も少し気崩している。
 けれどその着こなしや佇まいにも品があって、さすが洒落者や文化人とうたわれるだけのことはある。

「――ごきげんよう、ロイさま。本日からお世話になる、従姉妹のアンですわ。アン、ロイ第一王子さまにご挨拶を」

 アンは突然現れた王子然としたロイさまに一瞬怯んだものの、すぐに取り繕ってとても優雅に挨拶をした。

「お初にお目にかかります、ロイさま。私、本日よりこちらで仕えさせていただくアン・ポーターと申します。私ごときが侍女としてお仕えできるなんて身に余る光栄ではございますが……どうかみなさまのお役に立てますよう、精一杯ご奉仕して参ります。どうぞよろしくお見知り置きくださいませ」

 ロイさまは品定めするかのように、アンに向かって上から下まで目線を向ける。
 そして口元に笑みを浮かべると、機嫌良さそうにアンの頭を撫でながら言った。

「いやあ、随分しっかりした子だ! 妻はいくぶんか気分屋なんだけどね、君ならうまくやっていけそうだ。こちらこそよろしく頼むよ」

 ……ああ良かった、アンのことを気に入ってくれたようだ。
 アンはアンで、ロイさまの言動に対して大袈裟に喜ぶそぶりをする。

「まあ……なんてもったいないお言葉……! 私、ロイさまやメアリーさまにお仕えすることができて、本当に幸せ者でございますわ」

 大きな瞳を潤ませて、涙が溢れそうな勢いだ。
 その様子を見てロイさまは更に満足そうに頷いて、鼻歌混じりに去っていった。

「なんて優美な方……! 話に聞いていたより、ずっと素敵な方ねロイさまって! 私、早く国王陛下にもお会いしたいわ。陛下も立派なお方なんでしょう? 今日中にご挨拶できる機会はあるかしら? ああそれにしても本当に……アイリスお姉さまはお可哀想! あんな素敵な第一王子がお側にいながら嫌にならないの? 夫が冴えない第二王子なんて!」

 アンは先ほど嗜めたにもかかわらず、また口さのないことを言う。
 全く、まだまだ子供なのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

姑に嫁いびりされている姿を見た夫に、離縁を突きつけられました

碧井 汐桜香
ファンタジー
姑に嫁いびりされている姿を見た夫が、嬉しそうに便乗してきます。 学園進学と同時に婚約を公表し、卒業と同時に結婚したわたくしたち。 昔から憧れていた姑を「お義母様」と呼べる新生活に胸躍らせていると、いろいろと想定外ですわ。

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

必要ないと言われたので、私は旅にでます。

黒蜜きな粉
ファンタジー
「必要ない」 墓守のリリアはある日突然その職を失う。 そう命令を下したのはかつての友で初恋相手。 社会的な立場、淡い恋心、たった一言ですべてが崩れ去ってしまった。 自分の存在意義を見失ったリリアに声をかけてきたのは旅芸人のカイだった。 「来る?」 そうカイに声をかけられたリリアは、旅の一座と共に世界を巡る選択をする。 ──────────────── 2025/10/31 第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞をいただきました お話に目を通していただき、投票をしてくださった皆さま 本当に本当にありがとうございました

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。 ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。 というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。 そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。 周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。 2022/10/31 第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。 応援ありがとうございました!

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

処理中です...