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しおりを挟む食堂に厨房、応接室、そして侍女が住まう部屋。
今日から侍女としてお仕えすることになったアンに、順々に城内を案内していく。
「素敵……! 本当に素敵だわ! なんて立派なお城……!」
アンは目を輝かせながら、見慣れぬ豪奢な作りの調度品たちに目を奪われている。
父の援助もあって、アンの家だってそこそこ立派なお屋敷だ。けれどさすがに、一国の城には敵わない。
「ふふふ、本当に伯父さまには感謝しかないわ。私、今日からここに住めるのね! しかも次期王妃さまの侍女として……――なんて幸せ者なのかしら! ああでもそれに比べてアイリスお姉さまときたら、お気の毒ったらないわ。こんな素敵なお城に嫁げたとはいえ、お相手があんな第二王子なんて……――」
アンは眉根を寄せながら、けれどもどこかおかしそうに私に言う。
「アン、城内でそんな言葉遣いをしてはいけないわ。そしてどこであっても王家の方へは敬意を払わなくては…….――」
「……――やあアイリス妃、ご機嫌はいかがかな」
はしゃぐアンを嗜めようとした私の後ろに、どこからともなく第一王子のロイさまが姿を現した。
アンの失言を聞かれていないかと冷や冷やする。
「やあやあ君かい? 今日から僕たちのところで、侍女として働いてくれるのは」
まだ日も高いというのに、口元からはウィスキーの香りがする。酔っていらっしゃるのか砕けた調子で、お召し物も少し気崩している。
けれどその着こなしや佇まいにも品があって、さすが洒落者や文化人とうたわれるだけのことはある。
「――ごきげんよう、ロイさま。本日からお世話になる、従姉妹のアンですわ。アン、ロイ第一王子さまにご挨拶を」
アンは突然現れた王子然としたロイさまに一瞬怯んだものの、すぐに取り繕ってとても優雅に挨拶をした。
「お初にお目にかかります、ロイさま。私、本日よりこちらで仕えさせていただくアン・ポーターと申します。私ごときが侍女としてお仕えできるなんて身に余る光栄ではございますが……どうかみなさまのお役に立てますよう、精一杯ご奉仕して参ります。どうぞよろしくお見知り置きくださいませ」
ロイさまは品定めするかのように、アンに向かって上から下まで目線を向ける。
そして口元に笑みを浮かべると、機嫌良さそうにアンの頭を撫でながら言った。
「いやあ、随分しっかりした子だ! 妻はいくぶんか気分屋なんだけどね、君ならうまくやっていけそうだ。こちらこそよろしく頼むよ」
……ああ良かった、アンのことを気に入ってくれたようだ。
アンはアンで、ロイさまの言動に対して大袈裟に喜ぶそぶりをする。
「まあ……なんてもったいないお言葉……! 私、ロイさまやメアリーさまにお仕えすることができて、本当に幸せ者でございますわ」
大きな瞳を潤ませて、涙が溢れそうな勢いだ。
その様子を見てロイさまは更に満足そうに頷いて、鼻歌混じりに去っていった。
「なんて優美な方……! 話に聞いていたより、ずっと素敵な方ねロイさまって! 私、早く国王陛下にもお会いしたいわ。陛下も立派なお方なんでしょう? 今日中にご挨拶できる機会はあるかしら? ああそれにしても本当に……アイリスお姉さまはお可哀想! あんな素敵な第一王子がお側にいながら嫌にならないの? 夫が冴えない第二王子なんて!」
アンは先ほど嗜めたにもかかわらず、また口さのないことを言う。
全く、まだまだ子供なのだから。
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