【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
3 / 105
魔法が使えなくたって仕方ないじゃない

温室での出会い 2

しおりを挟む
 リーゼロッテは、しばらくの間月に見惚れていたが、ちょうど胃の辺りに違和感を覚える。叱責を受けること以上に我慢できないのは空腹だ。
 バルタザールから逃げるために、食事を抜くことは初めてじゃない。ただ、回数を重ねたからといって慣れるものでもないのが、問題だ。
 今にもうなり声を上げそうな自分の腹の虫を恨めしく思う。
 リーゼロッテは空腹をこらえながら、何も食べずに逃げ出してきたことを後悔していた。

(寝ちゃえば、すぐに明日になるわ)

 いつまでもくよくよしているわけにもいかず、リーゼロッテはそのまま目を瞑り、睡魔に身を委ねようとする。
 空腹は気になるものの、目を瞑っていれば徐々に眠気が意識を占拠していく。睡魔によって、頭の中がゆらゆらと揺らめき始めた時だった。
 聞き慣れない音が耳の中へと入り込む。

 睡魔によるゆらめきに心地よさを感じていたリーゼロッテは、瞑っていた目を大きく見開き、遠くに聞こえているその音に神経を集中させた。その音に耳をすましていれば、遠かったはずの音が徐々に近づいてきているのがわかる。
 堅い地面を一歩ずつ踏み締めるような足音。
 花を愛でているのか、時折そのペースが不自然に止まり、そしてまた近づいてくる。
 バルタザールがリーゼロッテを探しにきているのなら、そのように止まるはずがない。目的には、自ら先陣を切って突き進んでいく気質の持ち主だ。

 足音が近づいてくるのを聞きながら、物音をたてないように、そっと木の根本から四つん這いで移動する。
 もうはしたないなんて気にしてもいられない。リーゼロッテは茂みの影にしゃがみ込んだ。

 足音に全神経を集中させ、息を呑んで様子を伺っていると、その足音は更にリーゼロッテの側へと近寄ってくる。
 このままでは間違いなく見つかってしまう。
 もし足音の持ち主がバルタザールであれば、観念して出ていった方が良いのかもしれない。バルタザールでなければ、探し物をしていたとでも言ってかわそう。
 そんなことを考えながら、足音の主を確認しようとそっと顔を上げた。
 
「ひっ!」

 リーゼロッテの口から驚きにも叫び声にも聞こえる声が漏れる。
 足音の主の顔の上半分、ちょうど鼻のあたりまで白い仮面で隠れていたからだ。

 リーゼロッテは慌てて、もう一度茂みの中へしゃがみ込んだ。仮面をつけた顔にも驚いたが、その奥に光る瞳と目があったように思う。
 心臓の音が聞いたこともない速さで、頭の中に響き渡り、耳のすぐそばで鼓動を感じていた。

「ベルンハルト・ロイエンタール伯爵! こんな所にいたのか!」

 リーゼロッテの耳元で聴こえていた鼓動が、もう一段階速くなる。
 この声は間違いなくバルタザールのものだ。

「国王陛下、何か御用でしょうか?」

「いや、私は娘を、リーゼロッテを探している。この辺りで見かけなかったか?」

 バルタザールの言葉に、リーゼロッテは覚悟を決めた。
 さっきベルンハルトと目が合ったはず。リーゼロッテの居場所はすぐにでもベルンハルトの口からバルタザールへと告げられるだろう。
 
「リーゼロッテ王女ですか? 温室の中にいらっしゃると?」

「それがわからんのだ。あれはすぐに逃げ出すからな。今日という今日は許すことはできぬ。明日、貴族達が来る前に探さなければ」

「温室の中では見かけませんでした。私もご一緒にお探しします」

 ベルンハルトの言葉に耳を疑った。
 ベルンハルトが嘘をついてまでリーゼロッテの居場所を隠す必要はない。
 目が合ったというのは、きっと思い過ごしだったのだろう。そうでなければ、今のやり取りに説明がつかない。
 
「手間をかけるな。城の者も探してはいるのだが、どうにも逃げ足が早い」

「いえ。周りの貴族達よりも一足先にお世話になっておりますので、それぐらいのことさせていただきます。さ、参りましょう」

 ベルンハルトの言葉に促され、バルタザールは元来た道を戻るつもりのようだ。
 二つの足音が微妙に重なり合いながら、リーゼロッテの隠れる茂みから遠ざかって行くのが聞こえる。
 足音がかなり遠くから聞こえるようになった頃、間違いなく二人が遠くに離れたことを確認しようと、リーゼロッテはそっと頭を上げた。そして足音の方へと視線を動かす。

 ちょうどその時、まるでリーゼロッテの行動が見えていたかのように、ベルンハルトがリーゼロッテを振り返った。
 そして、顔の中で唯一素肌の見えている口元へ人差し指を静かに当てたのが見える。その口元には、わずかに微笑みが浮かんでいた気がした。

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

処理中です...