【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

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魔法が使えなくたって仕方ないじゃない

温室での出会い 1

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「お前は相変わらず役に立たないな。その髪の色は飾りか?」

「申し訳ありません。お父様」

 日常的に受ける叱責でも、その言葉に慣れることなんてない。心はいつだってズタズタに傷つけられた。
 何度も繰り返される自分を責める言葉に、リーゼロッテの目もとには涙が光る。だけど、それが流れ落ちるのを、ぐっと唇を噛みしめてこらえた。
 以前、こらえきれずにこぼれ落ちた涙を見た国王バルタザールに、これでもかというほど叱りつけられたからだ。

「その点、エーリックは相変わらず優秀だな。次は風を起こして見せてくれ」

「わかりました。父上」

 エーリックは、その場で立ち尽くしているリーゼロッテから目を逸らし、バルタザールに言われた通りの魔法を出現させる。
 その表情からは何の感情も読み取れない。相変わらず、作りものみたいだ。
 ただ、風を起こすのは兄であるエーリックの得意な魔法。言われた通りにその手から巻き起こされた風は、周りの窓ガラスに音を立てさせ、リーゼロッテの髪の毛を揺らし、もう一度エーリックの手に吸い込まれていく。
 そんな様子を見た後で、リーゼロッテは、火も水も風も起こすことのできない自分の手のひらをじっと見つめた。

(何度叱られようとも、使えないものは仕方ないじゃない)

 バルタザールの思い通りに、リーゼロッテが落ち込んでいたのは既に何年も前の話。
 何度も繰り返される叱責に、その度に傷つけられた心はいつしか、かさぶたとなって厚くなり、そして痛みに鈍感になる。落ち込んでいるそぶりなど、望まれればいくらでも。
 痛みを見てみぬふりなど、慣れたもの。謝罪の言葉を用意して、心も込めずに口先だけ。噓泣きさえも、得意になっていた。

 色素の薄い髪の色は強い魔力の証拠のはずだった。歴史に名前を残す偉大な魔術師達は皆、白く見えるほどの金髪か、銀髪。
 髪の色だけはエーリックにもバルタザールにすら負けてない。
 それなのに、生まれた直後にあれほど大きな期待を受けたリーゼロッテは、未だに一つも魔法を使うことができない。

 二人の仲睦まじい様子を横目に、リーゼロッテは魔法練習部屋を静かに出て行く。
 目元に浮かべた涙は既にどこかへ消え去り、口元にはせいせいしたと言わんばかりに微笑みが浮かんでいた。そんな表情を誰かに見られるわけにはいかず、慌てて廊下を走る。
 王女としてはしたないのはわかっている。それでも、見つかる前に一刻も早くこの場から立ち去らなければいけない。こんな顔を見られたら、また叱られてしまう。

 廊下の別れ道に来る頃には、その足取りは既に軽く、スキップでもし始めてしまいそうだった。
 エーリックがバルタザールの気をひいてくれたお陰で、いつもよりずっと練習の時間が短く済んだ。
 そのことに心の中で精一杯感謝しながら、自室への道と庭への道、どちらに進むべきかを悩む。
 自室に閉じこもってしまっても……と考えるが、それをした先月、逃げ出したことに激怒したバルタザールにこっぴどく叱られたことを思い出す。同じように叱られてはたまらないと、リーゼロッテは庭へ出る道を進んだ。

 同じ逃げるにしても、せめて見つからない可能性に賭けたい。
 明日は周辺の貴族達が挨拶に来る予定のはずだから、なんとかして今日を逃げ切れば、もう今月は叱られずに済むかもしれない。

 バルタザールとの魔法習得の練習は月に一度。別に決まっているわけじゃない。バルタザールと会うのがおおよそ月に一度というだけのこと。

 庭へと続く扉から外に出れば、既に夕日で真っ赤に焼けた空が見えた。
 リーゼロッテは腕を伸ばして、大きく息を吸い込む。鼻から肺へと入ってくる空気はまだ冷たさを含んでいて、春の始まりよりも冬の終わりを強く感じさせた。
 季節は冬から春へと変わり始めてはいるものの、日が暮れればさすがに冷える。庭で一晩過ごすわけにもいかず、リーゼロッテは庭の隅に設置された温室の中へと入って行った。

 温室の中は外に比べほんのり暖かくて、この中ならば一晩明かすことが出来そうだと、リーゼロッテの顔には、安心感が浮かび上がる。

(どこにしようかな)

 温室内を歩き回りながら、座り心地の良さそうな場所を探す。通路の床は堅く、座り込むには痛そうだ。
 温室の中に咲き乱れる、色とりどりの花たちは、リーゼロッテに逃げ出してきたことすら忘れさせ、どんどん楽しい気持ちにさせてくれる。花たちを見ながら温室の奥の方へと進んでいくと、目に入ったのはちょうど良く生えそろった芝生。

 ここなら腰を下ろしても痛くはなさそう。
 地面に座るなどはしたないと自覚しているからこそ、誰もいないとわかっていても、何となく左右を見渡し、人の影が目に入らないのを確認する。
 そして誰もいないことがわかると、リーゼロッテは芝生に足を踏み入れた。

 綺麗に整えられた芝生は、予想通りふわふわしていて、足の下に広がるその感触を味わいながら、芝生の真ん中に生える木の根元に腰を下ろす。
 風も避けられ、ちょうど良い温度、座り心地の良い芝生、一晩明かすのにこれほど良い場所はないと、別れ道で庭に出ることを選んだ自分の選択を素晴らしいと思う。

 木の幹を背もたれにし空を見上げれば、さっきまで茜色だった空が既に暗い闇に包まれようとしていて、その真ん中には黄色い月が顔を覗かせていた。
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