【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

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魔法が使えなくたって仕方ないじゃない

温室での出会い 2

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 リーゼロッテは、しばらくの間月に見惚れていたが、ちょうど胃の辺りに違和感を覚える。叱責を受けること以上に我慢できないのは空腹だ。
 バルタザールから逃げるために、食事を抜くことは初めてじゃない。ただ、回数を重ねたからといって慣れるものでもないのが、問題だ。
 今にもうなり声を上げそうな自分の腹の虫を恨めしく思う。
 リーゼロッテは空腹をこらえながら、何も食べずに逃げ出してきたことを後悔していた。

(寝ちゃえば、すぐに明日になるわ)

 いつまでもくよくよしているわけにもいかず、リーゼロッテはそのまま目を瞑り、睡魔に身を委ねようとする。
 空腹は気になるものの、目を瞑っていれば徐々に眠気が意識を占拠していく。睡魔によって、頭の中がゆらゆらと揺らめき始めた時だった。
 聞き慣れない音が耳の中へと入り込む。

 睡魔によるゆらめきに心地よさを感じていたリーゼロッテは、瞑っていた目を大きく見開き、遠くに聞こえているその音に神経を集中させた。その音に耳をすましていれば、遠かったはずの音が徐々に近づいてきているのがわかる。
 堅い地面を一歩ずつ踏み締めるような足音。
 花を愛でているのか、時折そのペースが不自然に止まり、そしてまた近づいてくる。
 バルタザールがリーゼロッテを探しにきているのなら、そのように止まるはずがない。目的には、自ら先陣を切って突き進んでいく気質の持ち主だ。

 足音が近づいてくるのを聞きながら、物音をたてないように、そっと木の根本から四つん這いで移動する。
 もうはしたないなんて気にしてもいられない。リーゼロッテは茂みの影にしゃがみ込んだ。

 足音に全神経を集中させ、息を呑んで様子を伺っていると、その足音は更にリーゼロッテの側へと近寄ってくる。
 このままでは間違いなく見つかってしまう。
 もし足音の持ち主がバルタザールであれば、観念して出ていった方が良いのかもしれない。バルタザールでなければ、探し物をしていたとでも言ってかわそう。
 そんなことを考えながら、足音の主を確認しようとそっと顔を上げた。
 
「ひっ!」

 リーゼロッテの口から驚きにも叫び声にも聞こえる声が漏れる。
 足音の主の顔の上半分、ちょうど鼻のあたりまで白い仮面で隠れていたからだ。

 リーゼロッテは慌てて、もう一度茂みの中へしゃがみ込んだ。仮面をつけた顔にも驚いたが、その奥に光る瞳と目があったように思う。
 心臓の音が聞いたこともない速さで、頭の中に響き渡り、耳のすぐそばで鼓動を感じていた。

「ベルンハルト・ロイエンタール伯爵! こんな所にいたのか!」

 リーゼロッテの耳元で聴こえていた鼓動が、もう一段階速くなる。
 この声は間違いなくバルタザールのものだ。

「国王陛下、何か御用でしょうか?」

「いや、私は娘を、リーゼロッテを探している。この辺りで見かけなかったか?」

 バルタザールの言葉に、リーゼロッテは覚悟を決めた。
 さっきベルンハルトと目が合ったはず。リーゼロッテの居場所はすぐにでもベルンハルトの口からバルタザールへと告げられるだろう。
 
「リーゼロッテ王女ですか? 温室の中にいらっしゃると?」

「それがわからんのだ。あれはすぐに逃げ出すからな。今日という今日は許すことはできぬ。明日、貴族達が来る前に探さなければ」

「温室の中では見かけませんでした。私もご一緒にお探しします」

 ベルンハルトの言葉に耳を疑った。
 ベルンハルトが嘘をついてまでリーゼロッテの居場所を隠す必要はない。
 目が合ったというのは、きっと思い過ごしだったのだろう。そうでなければ、今のやり取りに説明がつかない。
 
「手間をかけるな。城の者も探してはいるのだが、どうにも逃げ足が早い」

「いえ。周りの貴族達よりも一足先にお世話になっておりますので、それぐらいのことさせていただきます。さ、参りましょう」

 ベルンハルトの言葉に促され、バルタザールは元来た道を戻るつもりのようだ。
 二つの足音が微妙に重なり合いながら、リーゼロッテの隠れる茂みから遠ざかって行くのが聞こえる。
 足音がかなり遠くから聞こえるようになった頃、間違いなく二人が遠くに離れたことを確認しようと、リーゼロッテはそっと頭を上げた。そして足音の方へと視線を動かす。

 ちょうどその時、まるでリーゼロッテの行動が見えていたかのように、ベルンハルトがリーゼロッテを振り返った。
 そして、顔の中で唯一素肌の見えている口元へ人差し指を静かに当てたのが見える。その口元には、わずかに微笑みが浮かんでいた気がした。

 
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