【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
4 / 105
魔法が使えなくたって仕方ないじゃない

温室での出会い 3

しおりを挟む
 はぁっ! リーゼロッテは忘れていた息をようやく吐き出した。
 二度目はベルンハルトと間違いなく目が合った。やはりリーゼロッテが茂みに隠れていることに気がついていた。
 それならなんで、バルタザールにそれを報告しなかったのだろう。国王に隠しごとをしたなどと、後々バレたら大問題になるのに。
 去り際に振り返ったベルンハルトの微笑みの意図が見出せなかった。

 足音が聞こえなくなり、辺りがまた静寂に包まれると、リーゼロッテはさっきまでの木の根元にもう一度戻ることにした。
 茂みの中の方が安心ではあるが、芝生の触り心地や、木の幹を背もたれにするとすっぽりと収まりの良い場所が、どうにも居心地が良い。
 今夜の寝床と決めたその場所で心を落ち着けようと、闇に包まれた夜空にくっきりと浮かんだ丸い月を見上げた。

 ベルンハルトはリーゼロッテを庇ってくれたのだろうか。会うのも初めてのはずの小娘を、庇う必要がどこにあるのだろうか。
 それとも何か他に意味があるのだろうか。

 月を見上げながらも、やはり思い起こすのはベルンハルトのこと。
 仮面を付けた伯爵のことなど、一度でも会っていれば忘れるわけがない。リーゼロッテの記憶の中に、あの姿は存在しない。
 ただ、以前お茶会で耳にした噂を思い出していた。

『ロイエンタール家の方はこの様な場にはなかなか出て来られないんですって』

『あぁ。あの仮面の伯爵ね。こうした社交の場はお嫌いな様よ』

 そんな風に他の貴族の婦人達が話した噂話。あれが、噂の仮面の伯爵。ベルンハルト・ロイエンタール伯爵か。
 他の貴族よりも一足早く城に来たと言っていたのはなぜだろうか。城に何か用があるのだろうか。
 リーゼロッテのことを知っているのだろうか。

 リーゼロッテの頭の中には、ベルンハルトについての疑問が次から次へと浮かんでは消え、堂々巡りする。そのうちにゆらゆらと心地良い揺らめきを感じ始め、リーゼロッテは今度こそ深い眠りに落ちていった。


 瞑っているはずの瞼の上から、容赦なく降り注ぐ朝陽のシャワーの眩しさに、リーゼロッテはついに観念して目を開けた。
 木の根元に座り込んで寝たことで、身体中が固まっていて、多少の痛みを感じる。思いっきり手を伸ばし、背筋を伸ばすと、体の上から何かが滑り落ちていったのがわかった。

(何? これ。)

 滑り落ちたものを拾い上げると、それが柔らかくて温かい毛布だと気づく。間違いなくリーゼロッテがかけたものではないが、それをかけてくれる相手に心当たりもない。
 城で日常的に使うものとは少し質が違う様で、普段リーゼロッテが使っているものより温かいように感じた。
 温室の中だから心地よく感じていたが、今の季節にベッドの上でこれをかけていたら、少し熱いぐらいだろう。だけど、この温かさのお陰で、朝までぐっすり眠れたのかもしれない。
 誰かもわからない犯人に感謝をしながら、毛布を綺麗に畳み、一晩お世話になった温室を抜け出した。

 昇ったばかりの朝陽は目にはあまり優しくないが、その柔らかな温もりがリーゼロッテの体を包み込む。そんな穏やかな温もりを感じながら、早朝の静かな城の廊下を音を立てないように歩いた。
 ようやく自室に辿り着き、部屋着へと着替え、お気に入りのソファに腰を下ろす。
 木の根元の芝生の上も悪くない座り心地ではあったが、ソファの心地よさは別格だ。そんなソファに座りながら、手に取るのはさっき温室から持ち帰ってきた毛布。
 柔らかな手触りを味わうように撫でながら、毛布の持ち主を考えようとする。温室を確認にきた使用人のものだろうか。
 いや、もし使用人であればリーゼロッテを起こすだろう。それならば、誰?

 リーゼロッテの頭の中には、人差し指を口元に添えて、わかりづらく微笑んだベルンハルトの顔が浮かび上がる。
 それこそあり得ない話だ。ベルンハルトが毛布をかける理由がないし、温室からバルタザールと一緒に出て行って、もう一度戻ってくるなんて、意味がない。
 リーゼロッテは頭を左右に振りながら、浮かび上がったベルンハルトの顔を追い出そうとする。

(ダメだ。わかるわけがない)

 ふぅ。とひと息ため息を漏らすと、ソファから立ち上がり毛布を引き出しへとしまい込んだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...