オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道

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5.和紗side

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「やっと番になったか」
『はい、お互いにかなり粘っていましたが……。昨夜、番になりました』
「昨夜? 腐っても俺と彰の運命だったということか……。自身の運命とは二度と番になれないと、本能で分かったのかもしれないな――心底、おぞましいものだ」


 実は……俺と彰の運命には、とっくに出会っている。

 中学三年の時、新入生に俺の運命がいた。
 彰が委員会で、それが終わるのを裏庭で待っていた時だ。
 その裏庭の近くを歩いていたオメガから、むせ返るような甘い匂いがした。直ぐに、あれは俺の運命だと気が付いた。
 相手もそれに気が付き、喜びの表情で俺に向かって駆け寄って来た。

 だが――即座に威嚇フェロモンを出し、制圧した。

 運命は下位オメガだった。だから簡単に制圧出来たのだ。もし上位オメガだったら、威嚇フェロモンが無効となっていただろう。

 けど、仮にも運命だ。近くまで来られて、その運命のフェロモンを多く嗅ぎ、ラットを起こす可能性もゼロではない。
 冗談じゃない。俺が一生を共にしたいのは、彰だ。ただ遺伝子上で相性がいいだけのオメガだなんて、なんの魅力も感じない。

 もし番となってしまったなら、事故に見せかけて殺すしかなかった。
 番を解除するには、番となった相手が死ななければ解除出来ないからだ。
 だが通常、いくら無理やり番にされ、非常に嫌悪していても、傷付けることは不可能だ。それは、上位アルファや上位オメガだから出来ることなのだ。

 俺だって、出来れば人殺しをしたくはない。だから、番となるのを未然に防げて良かった。

 その後――匂いを嗅がないよう、仕切りをした個室で話をした。
「俺が愛しているのは、彰だ。君が運命だとしても、愛することは一生かけても出来ない。諦めて欲しい」……と。

 だが、運命は諦めなかった。
「僕たちは運命です。運命は絶対的なもので、ただのオメガなんかに負けません。僕の匂いをちゃんと嗅いで下さい。僕なしではいられなくなるはずです」――と言い。いくら話しても、堂々巡りだった。

 だから、その運命を買い取ることにした。
 運命の家庭環境は破綻寸前で、ちょうど取引先に裏切られて借金まみれだった。
 運命の両親は、大金を見せると目を輝かせ。即、運命を売った。

 それで学校を退学させて、人里離れた別荘の個室に閉じ込め。万が一にも彰に接触させないようにした。
 彰にあること無いこと吹き込まれたら、堪ったものではないからだ。

 買い取った後は、閉じ込めることしか出来なかった。
 出来れば他のアルファの番にして、早く手の内から離したかったが……。アルファ達は、オメガと遊ぶことに目がないが、番になるならば、何処にいるかも分からない運命としたがっている。
 結局は見つからず、手頃なオメガと番になるくせにだ。

 だから、番に先立たれたアルファを探しているが……。なかなかそんなアルファはいない。

 その時――彰の運命の番に出会った。

 ちょうど彰と買い物中で、階段を上がろうとしていたら。
 上の階から、ひとりのアルファが彰を見ながら駆け降りて来ていて、それは俺の運命と同じ目をしていた。

 ――だから直ぐに、物を買い忘れしたと言って、彰の手を掴んで走った。

 匂いは上の方に行く。彰にはまだ分からなかったようだが、そのアルファには匂いが届いていたのだろう。

 そして、常に彰につけている護衛に指示を出し、そのアルファを拘束させた。
 彰の運命は、アルファとしての力は強くなく、威嚇フェロモンを出すこと自体が出来なかったから、簡単に捕まえられたようだ。

 彰に『いきなり、なんだよ』とか『なんで俺も一緒に……』とか言われていたが――俺はちゃんと言葉を返せないくらい、早くあそこから離れなければ……としか考えられなかった。

 調査によると、彰の運命は孤児院出身のようであり、もろもろの根回しは必要なく事が楽に済んだ。
 それで直ちに、俺の運命と同じ部屋に閉じ込めた。絶対に、この2人で番になってもらうつもりでだ。

 そう決めたのも、彰の運命とも一応は話をしたが……俺の運命と同じことを言ったからだ。
『ガタイが良くても、運命なのだから気にしない。とても大事にする』……と言ったのだ。

 急に出てきたアルファが、彰の番に……? そんなの、許せない。

 運命の番なんて、気持ち悪い。
 笑い合って過ごしてきた日々や、今まで積み重ねてきた数々の愛情すらも全てゼロになる程、運命とは素晴らしいものなのか?
 あり得ない、俺達は人間だ。理性があり、記憶を重ねていく生き物だ。
 誰かも分からない奴と一生過ごしていく契約を、簡単に結べるわけがない。

 俺の運命と、仕切りをしたまま何度か対話をした。だが、やはり……全く魅力を感じなかった。

 匂いで恋をするだなんて、ただの獣だろう。こいつらのように、そんなものに俺はなれない。

 俺は、彰が好きだ。
 初めて意思が出来た時から、彰が好きで好きで堪らなかった。
 小さな頃は、四六時中べったりしていたようで。両親が帰ろうとしたら、離れたくないと泣きわめいていたと聞く。

 ずっと、ずっと、彰しか目に入らなかった。

 彰は努力を惜しまず、勉学は俺と同じくらいに優秀だった。
 テストで俺に負けても、次は勝つと言い。けど、ライバルであるはずの俺に「ほんと、和紗は凄いな。努力してたもんな」と、周囲の人間のように『アルファだから、出来て当たり前だ』と言ったことは一度も無い。いつも人の努力を認め、褒めていた。

 オメガだからを理由に、嫌なことから逃げず、積極的に掃除当番などもしていた。

 彰は、とても高潔な人間なのだ。

 けど雷や暗闇が苦手で、無意識に袖を摘まんでくるのが可愛い。
 もっと色々な彰を、一生をかけて見ていたい。

 昔から……自分の番にするのは、彰しか考えられなかった――。



 ***


 寝室に戻り、寝ている彰に視線を向ける。

 筋肉が落ちスラリとした彰は、美しくて綺麗なオメガとなっていた。

 ほとんどのアルファは、大柄で背が高い。彰の背はアルファの目線より少し下くらいで、ちょうど良い背丈だった。

 細くて小柄なオメガが多いなか、背のある彰は非常に目立ち。アルファ達からすると、魅力的に映る可能性が高い。
 普通のオメガは壊してしまいそうで、アッチの方で乱暴に扱えないからだ。
 その面、彰ならその心配は無いと狙われると思うのだ。

 だから、彰がすぐに俺の番になってくれて安心した。
 今いる護衛を、もっと増やさなければと思っていたから……――。


「……ん、和紗? 起きてたんだ。早いな……」

 ふわぁと欠伸をし、俺の身体にスリスリとすり寄ってくる。恐らくは、無意識の行動だろう。
 確かオメガは、番のアルファの匂いに癒されると聞いたことがある。

 その彰の行動に、胸がキュンとする。

「可愛い、可愛い」

 頬っぺたにチュチュとしていると、彰は暫くはボーとしていたが「もう、しつこい」と顔を退かされた。

「――あっ、そういえば……。なし崩し的に番になっちゃったけどさぁ。ときめくようなシチュエーション、してくれんじゃなかったのかよ~?」

 彰は、ニヤニヤと笑う。
 本気でそれを期待している顔ではない。ただ面白くて、そう聞いたのだろう。

「来週の連休に予約してるから、楽しみにしてて」
「へ……? はははっ! だから、本人に言ったら意味ないだろ? お前、ほんと変だよな!」
「そうかな?」
「そうだよ! 面白い奴~!」

 大爆笑する彰を見て、俺もと微笑んだ。


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