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第14話 サツキという女
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シャワーの水滴が体をつたう─
ほどきたての纏めていた髪がウエーブして体に張り付いている。
私は仕事から帰ったら直ぐにシャワーを浴びる。獣どもの相手をした後は、体に染み付いた匂いや汚れをすぐに洗い流す。
(私の獣は一人だけで充分─)
仕事着も洗濯機に放り込む。
自動で乾燥からアイロン掛けまで素晴らしい。汚れが落ちて仕上がってゆくその様子を眺めないと、1日が終わった気がしない。
以前の私は、ここに洗濯機一台さえあれば独りで充分だなんて思っていたっけな…
濡れた髪を拭きつつ感慨にふける。
「サツキー、帰ったぞー!」
(私の可愛い獣が帰って来た。)
この子が私の養子になるまでは、私は一人で生きていきたいと思っていた。
私は26歳でこの子の保護者になった。結婚適齢期だと期待されていた私は、実家の家族にとても反対された。
(それに毎日相手をする獣どもで手一杯で結婚なんて興味がわかないわ…)
養子とはいえ、子どもがいては婚期が延びる。ましてや元動物と籍をいれるなんてと散々言われ、実家とは絶縁することにした─
「おかえりなさーい。何か楽しいことでもあったんでしょー。声が弾んでるぞ。」
「べ、別に?ふつーだし。」
(照れてて、とても可愛いけど…昔より刺々しく無くなっちゃった…)
この子は中等部の時はすごく荒れて、私が学校へ呼び出されたことなんてよくあることだった。けれど、謝る私は密かにこう思っていた…
(私の分まで暴れてほしい、私の代わりに色んなものを破壊してくれ…)と。私の心もかなりやさぐれていた。
(私も大学生まではキラキラしてたと思うんだけどな…)
手がかかる子程、可愛いと言ったものだけど、最近は何だか楽しそうで、あまり手がかからなくなって…なんだか…複雑。
「ごめんね、迎えに行けなくって。」
「いいよサツキは早く寝なきゃいけないんだからさ!いやー、思いの外…いい体験したかも…」
(いけない笑顔が崩れそう。だけど、社会人になって染み付いた笑顔はそう簡単には崩れない─)
「えーいいなぁ、私も有給取って自然体験しにいきたい!」
この子は私の恩人でもある。
私の仕事は命の危険もある。その事を日々同じ作業を繰り返すうちに、すっかり失念していたのだった。獣に襲われそうになった時に、助けてくれた。まだこの子が動物だった時に─。
「サツキー、お土産!何か館長が作ったプラスチック製の骨なんだけど、何と焼肉のたれの香りつき!」
「お揃いの…ストラップ?」
「そーだよ♪」
獣はこの子以外は可愛いくない─
「何処につけよーかなー。(本当は永久保存したいけど…)」
「行きたいならさ、次サツキも来ればいいじゃん。多分人手が多い方が喜ぶと思う。あの館長のことだから…。」
「そうねえ…次休み取れたら、付いていこうかしら!」
(絶対いくわ!何がなんでも休み取ってやる!)
許せない…最近、私からこの子を奪おうとしてるやつが館長なのかしら?
いや、この子が気になる子が出来たと言っていたのはクラスメートだった筈。その子の実家の博物館に行ってきて、すっかり気に入ったみたいね…。
その子の何処に、この子を惹き付けさせている魅力があるというのだろうか……
私はここで独りで住むのは慣れている。だけど……この子が他の人を気にいって、ここを出ていく日が来るのかしら…私を置いて…
「…ミートちゃんをそそのかしてる奴がいる…」
「ん?サツキ、何か言ったか?」
もっとこの子には、私が必要だと思わせないといけないみたいね…依存させて離れなくなるくらいに…めちゃくちゃに甘えさせて─
◇
「おーい、サツキも呼んできたぞ。」
「ようこそ…お出でくださいました。」
「いえいえー。」
私は笑顔を崩さない。
(この子が気になってる子?なんだ…この子凄くか弱そうだから、ミートちゃんの庇護欲をくすぐってるだけね。飽きるのも時間の問題かしら…)
そして、館内から館長らしき奴がやって来た。
「あれ?君…会ったことある様な?」
「え、…………小池先生?」
そこには、大学時代のゼミの先生が居た─
「そうか、斎藤さんだったか!思い出したよ。」
「お久しぶりです。斎藤皐月です。」
「今日は、子供たちの夏の自由研究の為の自然体験学習なんだけど、頼もしい助っ人が来てくれて嬉しいよ。」
これは…………運命!?
「ええ雰囲気のところ悪いけどよーこっちは宿題かかっとるから、しっかり頼みますーゆうてな。」
「コユズちゃん!その口調は家の中だけにしましょうね…」
「ちゃんづけすんなや!なんで付き添いが豚姉なんじゃい!」
「あっ用務員さんじゃん!相変わらず、美味しそうですね!」
「ひっ…わたっ私は、食べられないオコメですので!」
「私最近…お米食べられる様になった。」
「レトルトちゃん!?」
「あのー…今日は子ども達が主役ですので、皆さんちょっと落ち着きましょう。…本当に斎藤さん来てくれて助かったよ…」
先生は私に耳打ちをした。
(顕義先生が…私を頼りにしてくれている!)
サツキのロマンス編…もとい、賑やかな夏の自由研究編はつづく─
ほどきたての纏めていた髪がウエーブして体に張り付いている。
私は仕事から帰ったら直ぐにシャワーを浴びる。獣どもの相手をした後は、体に染み付いた匂いや汚れをすぐに洗い流す。
(私の獣は一人だけで充分─)
仕事着も洗濯機に放り込む。
自動で乾燥からアイロン掛けまで素晴らしい。汚れが落ちて仕上がってゆくその様子を眺めないと、1日が終わった気がしない。
以前の私は、ここに洗濯機一台さえあれば独りで充分だなんて思っていたっけな…
濡れた髪を拭きつつ感慨にふける。
「サツキー、帰ったぞー!」
(私の可愛い獣が帰って来た。)
この子が私の養子になるまでは、私は一人で生きていきたいと思っていた。
私は26歳でこの子の保護者になった。結婚適齢期だと期待されていた私は、実家の家族にとても反対された。
(それに毎日相手をする獣どもで手一杯で結婚なんて興味がわかないわ…)
養子とはいえ、子どもがいては婚期が延びる。ましてや元動物と籍をいれるなんてと散々言われ、実家とは絶縁することにした─
「おかえりなさーい。何か楽しいことでもあったんでしょー。声が弾んでるぞ。」
「べ、別に?ふつーだし。」
(照れてて、とても可愛いけど…昔より刺々しく無くなっちゃった…)
この子は中等部の時はすごく荒れて、私が学校へ呼び出されたことなんてよくあることだった。けれど、謝る私は密かにこう思っていた…
(私の分まで暴れてほしい、私の代わりに色んなものを破壊してくれ…)と。私の心もかなりやさぐれていた。
(私も大学生まではキラキラしてたと思うんだけどな…)
手がかかる子程、可愛いと言ったものだけど、最近は何だか楽しそうで、あまり手がかからなくなって…なんだか…複雑。
「ごめんね、迎えに行けなくって。」
「いいよサツキは早く寝なきゃいけないんだからさ!いやー、思いの外…いい体験したかも…」
(いけない笑顔が崩れそう。だけど、社会人になって染み付いた笑顔はそう簡単には崩れない─)
「えーいいなぁ、私も有給取って自然体験しにいきたい!」
この子は私の恩人でもある。
私の仕事は命の危険もある。その事を日々同じ作業を繰り返すうちに、すっかり失念していたのだった。獣に襲われそうになった時に、助けてくれた。まだこの子が動物だった時に─。
「サツキー、お土産!何か館長が作ったプラスチック製の骨なんだけど、何と焼肉のたれの香りつき!」
「お揃いの…ストラップ?」
「そーだよ♪」
獣はこの子以外は可愛いくない─
「何処につけよーかなー。(本当は永久保存したいけど…)」
「行きたいならさ、次サツキも来ればいいじゃん。多分人手が多い方が喜ぶと思う。あの館長のことだから…。」
「そうねえ…次休み取れたら、付いていこうかしら!」
(絶対いくわ!何がなんでも休み取ってやる!)
許せない…最近、私からこの子を奪おうとしてるやつが館長なのかしら?
いや、この子が気になる子が出来たと言っていたのはクラスメートだった筈。その子の実家の博物館に行ってきて、すっかり気に入ったみたいね…。
その子の何処に、この子を惹き付けさせている魅力があるというのだろうか……
私はここで独りで住むのは慣れている。だけど……この子が他の人を気にいって、ここを出ていく日が来るのかしら…私を置いて…
「…ミートちゃんをそそのかしてる奴がいる…」
「ん?サツキ、何か言ったか?」
もっとこの子には、私が必要だと思わせないといけないみたいね…依存させて離れなくなるくらいに…めちゃくちゃに甘えさせて─
◇
「おーい、サツキも呼んできたぞ。」
「ようこそ…お出でくださいました。」
「いえいえー。」
私は笑顔を崩さない。
(この子が気になってる子?なんだ…この子凄くか弱そうだから、ミートちゃんの庇護欲をくすぐってるだけね。飽きるのも時間の問題かしら…)
そして、館内から館長らしき奴がやって来た。
「あれ?君…会ったことある様な?」
「え、…………小池先生?」
そこには、大学時代のゼミの先生が居た─
「そうか、斎藤さんだったか!思い出したよ。」
「お久しぶりです。斎藤皐月です。」
「今日は、子供たちの夏の自由研究の為の自然体験学習なんだけど、頼もしい助っ人が来てくれて嬉しいよ。」
これは…………運命!?
「ええ雰囲気のところ悪いけどよーこっちは宿題かかっとるから、しっかり頼みますーゆうてな。」
「コユズちゃん!その口調は家の中だけにしましょうね…」
「ちゃんづけすんなや!なんで付き添いが豚姉なんじゃい!」
「あっ用務員さんじゃん!相変わらず、美味しそうですね!」
「ひっ…わたっ私は、食べられないオコメですので!」
「私最近…お米食べられる様になった。」
「レトルトちゃん!?」
「あのー…今日は子ども達が主役ですので、皆さんちょっと落ち着きましょう。…本当に斎藤さん来てくれて助かったよ…」
先生は私に耳打ちをした。
(顕義先生が…私を頼りにしてくれている!)
サツキのロマンス編…もとい、賑やかな夏の自由研究編はつづく─
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