29 / 97
29
しおりを挟む
ミリーの一件から特に何事もなく日が過ぎていった。そして、いよいよレオンとドロシーの婚儀があと3日と迫った今日、ヴォルフは朝早くから騎士の詰所で書類に目を通していた。
今日から婚儀に参列する賓客が到着するので、最終確認をしていたのだ。
「よう、ヴォルフ!」
椅子に座っていたヴォルフは明るい声と共に、頭に重みを感じてため息をつく。朝から元気なアードが腕を頭に乗せたのだ。いちいち振り払うのも面倒なので、ヴォルフはアードの好きなようにさせておく。
「今日の俺の仕事は何ー?」
「…俺と一緒に城門で賓客の出迎えだ」
「あらー、それは一番忙しいところじゃん」
城門では賓客のチェックが行われる。主に身元の確認、入城する人数、危険物の有無などを調べる。やることは多いし、重要な役回りだ。しかも、相手は王族や貴族で気を使わなければならないし、次々と到着する賓客達を素早くさばいていかないと城門に長い列が出来る羽目になる。
「ちゃんと働けよ」
「分かってるって!」
相変わらずヴォルフの頭に腕を乗せたまま、アードが軽い調子で返事をする。いつもこんな感じではあるが、仕事に関しては意外と真面目なのでヴォルフはそれ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「はいよー」
立ち上がればようやくアードの腕が離れた。そのまま城門へと向かえば、アードが後ろからついてくる。
城門はまだ朝早くとあって人影は騎士以外いない。ヴォルフは見張りに立っている騎士達と交代すると、アードと騎士達に指示を出し始めたのだった。
♢
まだ3日前ということもあって賓客はそれほど多くはなく、割とすぐに忙しさが落ち着いた。リストを確認して今日到着予定でまだ来ていない賓客をチェックしていく。そうしていれば、暇になったらしいアードがにやにやした笑みを浮かべて、近寄ってきた。
「相変わらず女性の視線を独り占めしてたな、ヴォルフ」
頭の後ろで腕を組みながらアードが、からかうようにそんな事を言った。顔立ちが整っているヴォルフは、賓客の女性達の視線を集めていたのだが、そんなものに興味がないヴォルフはアードの言葉に首を傾げる。
「そんなことはないだろう」
「あー…、相変わらず無頓着なことで」
やれやれ、といった様子のアードにヴォルフはバサリと手に持っていたリストを押し付けた。慌てて紙の束を受け取ったアードは、不満そうに唇を尖らせる。…正直、騎士の男がそんな事をしても可愛くはない。
「あ!なんか失礼な事考えただろ!」
「…いや?それより残りはお前に任せる。俺は少し用事があるからな」
「はいはい、任せときな」
アードの返事にヴォルフは頷いて、城門を後にする。
少し前にプリローダの王太子が弟である第四王子を探していると報告を受けていた。その対応に向かうためにアードに後を任せたのだ。
ザックは国王達の護衛に付いているので、ヴォルフが動くしか無い。ヴォルフがプリローダの王太子の元へ早足で向かっていれば、その途中で騎士から第四王子の居場所が分かったという報告を受けた。
「王太子殿下」
困った様子で立っていたプリローダの王太子…フィーリアンにヴォルフは声を掛けた。ヴォルフに呼ばれたフィーリアンは視線をこちらに向ける。
「君は確か騎士の…」
「ヴォルフと申します。…第四王子殿下をお探しと伺いましたが…」
「あぁ、そうなんだ。勝手にどこかに行ってしまってね…。忙しいのに手間を掛けさせてすまないね」
「いえ、お気になさらず。…居場所は先程判明いたしましたので、ご案内いたします」
「あぁ、頼むよ」
フィーリアンが頷くのを見届けて、ヴォルフはくるりと身を翻す。第四王子を探していた騎士によると侍女達がよく仕事で使う井戸におり、レフィーナが側に付いているらしい。元公爵令嬢であったレフィーナならば第四王子に失礼も無いだろうと任せているようだ。
ヴォルフはフィーリアンを連れ立ってそこへ向かう。
「こちらです、王太子殿下」
井戸はもうすぐそこ、という所でヴォルフは振り返って、後ろにいたフィーリアンにそう声を掛けた。そうすればフィーリアンがヴォルフを追い越して歩いていく。ヴォルフもそれに続いて井戸が完全に見える場所まで移動した。
そこには恐らく探していた第四王子と思われる子供と、その子供を抱きしめるレフィーナがいて、ヴォルフは思わず不機嫌そうに眉を寄せる。
レフィーナへの気持ちを自覚した今、例え子供とはいえ、男が彼女と抱きしめ合っているには嫉妬してしまう。
「驚いた。レイが誰かにこんなになつくとは」
「兄上…何かご用ですか」
驚いた様子のフィーリアンに、第四王子…レイは素っ気無く言葉を返す。それからレイはヴォルフに視線を移した。
自分を値踏みするような、威嚇するような、そんな視線を受けて、ヴォルフもまた同じような視線をレイに向ける。それだけで、お互いがレフィーナに同じ感情を向けているのを感じ取って、レイとヴォルフは同時にふいっと視線を逸らしたのだった。
今日から婚儀に参列する賓客が到着するので、最終確認をしていたのだ。
「よう、ヴォルフ!」
椅子に座っていたヴォルフは明るい声と共に、頭に重みを感じてため息をつく。朝から元気なアードが腕を頭に乗せたのだ。いちいち振り払うのも面倒なので、ヴォルフはアードの好きなようにさせておく。
「今日の俺の仕事は何ー?」
「…俺と一緒に城門で賓客の出迎えだ」
「あらー、それは一番忙しいところじゃん」
城門では賓客のチェックが行われる。主に身元の確認、入城する人数、危険物の有無などを調べる。やることは多いし、重要な役回りだ。しかも、相手は王族や貴族で気を使わなければならないし、次々と到着する賓客達を素早くさばいていかないと城門に長い列が出来る羽目になる。
「ちゃんと働けよ」
「分かってるって!」
相変わらずヴォルフの頭に腕を乗せたまま、アードが軽い調子で返事をする。いつもこんな感じではあるが、仕事に関しては意外と真面目なのでヴォルフはそれ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「はいよー」
立ち上がればようやくアードの腕が離れた。そのまま城門へと向かえば、アードが後ろからついてくる。
城門はまだ朝早くとあって人影は騎士以外いない。ヴォルフは見張りに立っている騎士達と交代すると、アードと騎士達に指示を出し始めたのだった。
♢
まだ3日前ということもあって賓客はそれほど多くはなく、割とすぐに忙しさが落ち着いた。リストを確認して今日到着予定でまだ来ていない賓客をチェックしていく。そうしていれば、暇になったらしいアードがにやにやした笑みを浮かべて、近寄ってきた。
「相変わらず女性の視線を独り占めしてたな、ヴォルフ」
頭の後ろで腕を組みながらアードが、からかうようにそんな事を言った。顔立ちが整っているヴォルフは、賓客の女性達の視線を集めていたのだが、そんなものに興味がないヴォルフはアードの言葉に首を傾げる。
「そんなことはないだろう」
「あー…、相変わらず無頓着なことで」
やれやれ、といった様子のアードにヴォルフはバサリと手に持っていたリストを押し付けた。慌てて紙の束を受け取ったアードは、不満そうに唇を尖らせる。…正直、騎士の男がそんな事をしても可愛くはない。
「あ!なんか失礼な事考えただろ!」
「…いや?それより残りはお前に任せる。俺は少し用事があるからな」
「はいはい、任せときな」
アードの返事にヴォルフは頷いて、城門を後にする。
少し前にプリローダの王太子が弟である第四王子を探していると報告を受けていた。その対応に向かうためにアードに後を任せたのだ。
ザックは国王達の護衛に付いているので、ヴォルフが動くしか無い。ヴォルフがプリローダの王太子の元へ早足で向かっていれば、その途中で騎士から第四王子の居場所が分かったという報告を受けた。
「王太子殿下」
困った様子で立っていたプリローダの王太子…フィーリアンにヴォルフは声を掛けた。ヴォルフに呼ばれたフィーリアンは視線をこちらに向ける。
「君は確か騎士の…」
「ヴォルフと申します。…第四王子殿下をお探しと伺いましたが…」
「あぁ、そうなんだ。勝手にどこかに行ってしまってね…。忙しいのに手間を掛けさせてすまないね」
「いえ、お気になさらず。…居場所は先程判明いたしましたので、ご案内いたします」
「あぁ、頼むよ」
フィーリアンが頷くのを見届けて、ヴォルフはくるりと身を翻す。第四王子を探していた騎士によると侍女達がよく仕事で使う井戸におり、レフィーナが側に付いているらしい。元公爵令嬢であったレフィーナならば第四王子に失礼も無いだろうと任せているようだ。
ヴォルフはフィーリアンを連れ立ってそこへ向かう。
「こちらです、王太子殿下」
井戸はもうすぐそこ、という所でヴォルフは振り返って、後ろにいたフィーリアンにそう声を掛けた。そうすればフィーリアンがヴォルフを追い越して歩いていく。ヴォルフもそれに続いて井戸が完全に見える場所まで移動した。
そこには恐らく探していた第四王子と思われる子供と、その子供を抱きしめるレフィーナがいて、ヴォルフは思わず不機嫌そうに眉を寄せる。
レフィーナへの気持ちを自覚した今、例え子供とはいえ、男が彼女と抱きしめ合っているには嫉妬してしまう。
「驚いた。レイが誰かにこんなになつくとは」
「兄上…何かご用ですか」
驚いた様子のフィーリアンに、第四王子…レイは素っ気無く言葉を返す。それからレイはヴォルフに視線を移した。
自分を値踏みするような、威嚇するような、そんな視線を受けて、ヴォルフもまた同じような視線をレイに向ける。それだけで、お互いがレフィーナに同じ感情を向けているのを感じ取って、レイとヴォルフは同時にふいっと視線を逸らしたのだった。
26
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる