悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

文字の大きさ
28 / 97

28

しおりを挟む

 あの後、ヴォルフはレフィーナと城に戻り、すぐに上に報告をした。そしてその翌日、ヴォルフはザックと共に話し合いの場に顔を出していた。
 防音も警備も厳重な、機密性の高いこの部屋にいるのは国王のガレンを始めとし、王妃のレナシリア、王太子のレオン、レオンの婚約者のドロシー、騎士団長のザック、そして、副騎士団長のヴォルフだ。昨日のミリーの報告を受け、ガレンがもうけた場だった。

 部屋の中心にある丸いテーブルの席に腰を落ち着けていたヴォルフは、扉が開いてそちらに視線を移す。入ってきたのは侍女服姿のレフィーナだ。彼女も関係があるのでこの場に呼ばれていた。


「さて…今日集まって貰ったのは他でもないミリー=トランザッシュの事だ」


 レフィーナが席に付いたのを見届けて、ガレンがゆったりと口を開いた。それに続くようにレナシリアが話し出す。


「…軽い嫌がらせをしてくるくらいならまだ良いのですが…ヴォルフの報告によると、どうやら裏稼業の者と絡んでいるようなのです。…ドロシーに危害を加えるかもしれません」

「父上、トランザッシュ公爵家への抗議は?」

「……娘はそんな事をしていない、の一点張りだな。むしろ、レフィーナとヴォルフのでっち上げだと騒ぎ立てている。裏稼業の者についても追求しているのだが、証拠がないからな」

「あの狸には前から困っているのですが…。なにせ揉み消すのが上手くて、手を焼いています」


 レナシリアがため息混じりに言葉を吐き出しながら、不愉快そうな表情を浮かべた。
 そんなレナシリアの表情を見ながらヴォルフは、面倒な親子だな、と内心ため息をつく。しかし、証拠がなければいくら王とはいえ、トランザッシュ親子を裁くことは出来ない。ヴォルフとレフィーナの証言だけでは、いくらそれが本当であっても公爵家を追い込める物にはならないのだ。


「ドロシーには優秀な騎士をつけます。ヴォルフは実力があるので余程大丈夫でしょうが…レフィーナ、貴方が一番危険ですね」

「…しかし、一介の侍女に護衛を付ける訳にはいかんのだ」

「そ、そんな…ガレン陛下、どうかレフィーナ様にも護衛を付けてください!」

「ドロシー、落ち着いて」


 ガレンの言葉に取り乱したドロシーをレオンが宥める。そんなドロシーにガレンは悩ましそうな表情を浮かべた。
 ただの侍女に護衛を付けることなどできない。特に今はレオン達の結婚を控えており、警備も見回りも強化している為に自由に動ける人員も少ない。新人騎士達なら空いているが、ヴォルフとやり合える裏稼業の者には太刀打ちできないだろう。


「…あの」

「なんですか、レフィーナ」

「私は最低限、自分の身を守ることくらいは出来ます。それに城では一人になることの方が少ないですし、護衛がなくても大丈夫です」

「あっはっはっ!まぁ、あのダンデルシア家に連れてかれた侍女長を転ばせるくらいだからな!」


 レフィーナの言葉にザックが豪快に笑う一方で、ヴォルフは眉間に皺を寄せた。あんな動きのにぶそうな太った侍女長と、裏稼業の者では比較にもならない。


「しかし、レフィーナも女性です。いくらなんでも裏稼業の者から身を守るのは難しいでしょう」

「…ヴォルフ様…」

「…ふむ。レオンの婚儀が終われば、あの令嬢も少しはおとなしくなるだろう。それまでは、騎士の見回りの回数を増やそう。レフィーナ、お前は一人では絶対に出歩くではない。それと、ヴォルフ。忙しいだろうが、可能な限りはレフィーナの様子を見るように」

「はい」


 ガレンの言葉にしっかりと答える。気持ちを自覚した今、レフィーナの事を守りたいと思っているし、出来るなら自分がレフィーナの護衛をしたいくらいだ。しかし、ヴォルフにも立場がある。もどかしいが、個人の感情で動くことはできない。


諜報員ちょうほういんにミリーやトランザッシュ公爵の監視と、裏稼業の者を調べるように命令を出しましょう。…この場にいる全員、このことは口外無用です。良いですね?」


 レナシリアのその言葉で話し合いは終わった。ヴォルフは立ち上がり、部屋を出ていくガレンとレナシリアを見送る。その後、レオンとドロシーが連れ立って部屋を去って行った。
 その場に残ったのが三人になった時、レフィーナがザックに近づいて口を開く。


「あの、ザック様」

「ん?なんだ?」

「実は昨日、ダットさんのお店に行きまして。…今度、一緒にお酒でも飲みに行きましょう、と伝えて欲しいと」

「…そうか」


 レフィーナの言葉に、ザックはどこか嬉しそうににかっと笑った。ヴォルフはそんなザックから、レフィーナに視線を移した。
 どこか寂しそうな表情のレフィーナの頭に、ヴォルフはぽんっと優しく手を置く。寂しそうな表情を浮かべて欲しくなど無くて、思わずなぐさめるようにそんな行動を取っていた。


「騎士団長、先に戻っていてくれ。念のためレフィーナを送っていく」

「……ふっ、分かった。じゃあ後でな、お嬢ちゃんも伝言ありがとな!」

「あ、はい…」

「じゃあ、俺達も行くか」

「はい。ありがとうございます」


 部屋を出て行ったザックを見送って、ヴォルフ達も部屋を出る事にした。ヴォルフは、少し名残惜しく感じながらも、そっとレフィーナの頭に乗せていた手を離したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...