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それぞれの入団
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春風が頬をなでる穏やかな日和の騎士団前。
ミラは背筋を伸ばして歩いていた。一見派手な顔つきだが彼女の真面目で凛とした姿は群衆の中でもひときわ目がいく。
「ミラ、今日からよろしくね!ギルバート団長も期待してたわよ!」
声をかけたのは、ミラの先輩にあたる同じ事務職の女性だった。ミラは微笑んで応えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。ギルバート団長にも恩返しができるよう、がんばります。」
サラを幼少期に人身売買の手から助けてくれた騎士ギルバートは30半ばにして今や騎士団を率いる団長となっていた。
ちょうどそのギルバートが、騎士団の門から出てくるところに遭遇した。きれいなブロンドの髪を短く刈り上げており、団長の名にふさわしい体格をしている。
「……ミラか。ずいぶん立派になったな。」
静かだが力強い声。ミラは深く一礼する。
「ギルバート団長…私のこと覚えていてくださったのですか?」
「ああ。あの時泣きながら"騎士を支える人になります"と言っていた少女が、今日こうして来てくれて本当にうれしいよ。」
ギルバートは優しく微笑んで、ミラの肩に軽く手を置く。
「ここでの仕事は決して楽じゃない。だけど、お前ならきっとやり遂げられる。事務は裏方ではあるが、だからこそ支えられる命がある。よろしく頼んだぞ、ミラ。」
「はい!全力で努めます!」
その言葉にミラは胸を熱くしながら気を引き締めなおした。
一方、門の向こう側、訓練場では新人騎士たちが集められ、訓練用の木刀が配られていた。
165㎝と集まっている周りの新人騎士たちよりも小さめではあるが、ミラよりも5㎝高いところが唯一クラウドの誇れるところだ。
三白眼の目つきは幼いころと変わらずだが、今の立ち姿に迷いはない。
「え、あのチビが騎士? まさか冗談だろ」
若い騎士たち数人の笑い声が聞こえる。
それを聞いたクラウドは怒りが燃え上がる。
「あぁ?なんだてめえ?」声のした方に睨みをきかせる。
「なんだよ、チビ、やんのか?」
言葉を発したと思われる、サラサラの肩までの黒い髪を靡かせた青年の手がクラウドの前に出てきて胸ぐらをつかむ。
なんだなんだ?と周りに野次馬が集まってくる。
「おい、離せよ。ロン毛、似合ってねーぞ。」
相手の顔が真っ赤になり、持っていた木刀が振り降ろされようとした瞬間、クラウドの木刀が相手の木刀を払い落としたかと思うと足を払い、相手の体が地面に叩きつけられる。
「俺の身長が低いのは認める。だが、それで俺を舐めんなよ。」
一瞬で相手を軽く薙ぎ払ったクラウドに、周囲は息を呑む。
「なんだ、こいつ……動きが速い!」
相手も驚きを隠せなかった。
そんな騒ぎの中、ひときわ鋭い声が飛ぶ。
「クラウド! いい加減にしなさいよ! そんなガキみたいな喧嘩、騎士団でやるんじゃないの!」
声の主はミラだった。クラウドは一瞬言葉を失い、顔を赤くしてタジタジになる。
「え、あ、ああ……ご、ごめん!ミラ!」
ミラは腕を組み、厳しい目でじっと見つめる。
「そんなにムキになるのが本当に強い騎士だと思ってるの? それじゃただの子供よ。そこのあんたもよ。」
体を起こし座り込んでいる青年にも声を掛ける。
クラウドは「ぐぬぬ」と唇を噛む、
ミラはため息交じりに少しだけ柔らかくなって言った。
「わかるけど……もう少し冷静になりなさい。感情に振り回されてどうするの。」
そのやり取りの直後、場に静かな圧が走る。
ギルバート団長が、いつの間にかその場に立っていたのだ。一瞬その場の空気が凍る。ざわついていた騎士団員達も、思わず姿勢を正した。
「楽しそうだな、お前たち。」
低く落ち着いた声に、場の緊張が一段階高まる。ギルバートの視線が、まず喧嘩相手の青年へと向けられた。
「グレン、だったな?からかうような言動があったのは確かだな?」
「…はい、申し訳ありません。団長」
「挑発も暴力の種になる。見た目で誰かを貶めて笑うこと、それは誇りある騎士のすることではない。反省しろ。」
次に視線がクラウドへと移る。
「クラウド。お前の動きは良かった。だが、結果として同輩に手を出したのは事実だ。」
「…すみません」
ギルバートは二人をじっと見据えた後、口を開いた。
「今回の件、責任は双方にある。喧嘩を起こした以上、始末書を提出してもらう。もちろん、二人ともだ。」
「はい!」
「ちぇっ…」と小声で舌打ちしたクラウドに、ミラは横からピシャリとたしなめる。
「当然でしょ。手を出した時点でアウトなの。文句を言うなら自分に言いなさい」
「わーってるよ…」
ギルバートは二人に近づくと、最後にこう言った。
「始末書は“自分の非を客観的に書く”ものだ。言い訳の作文ではないぞ。字が読めるなら意味も理解しろ」
ミラが苦笑いして小声でクラウドにささやく。
「大丈夫、クラウドには“簡単な書き方”を教えてあげるから」
「なんだよ”簡単な“って…馬鹿にしてんのか…」
ぼそぼそとつぶやくクラウドに、ギルバートが目を細めながら言った。
「期待しているぞ。騎士である前に、大人としての自覚を持て。これはその第一歩だ」
そういって、ギルバートは背を向けて去っていった。
残されたクラウドは、気まずそうに頭をかきながら呟いた。
「ちょっとはマシな始末書にしてやるからな…。おい、グレンだっけ?お前も一緒に行くぞ。」
隣に立っている喧嘩相手のグレンにも声を掛ける。
ミラはふっと笑い、書類を取りに事務棟へと3人で歩き始めた。
ミラは背筋を伸ばして歩いていた。一見派手な顔つきだが彼女の真面目で凛とした姿は群衆の中でもひときわ目がいく。
「ミラ、今日からよろしくね!ギルバート団長も期待してたわよ!」
声をかけたのは、ミラの先輩にあたる同じ事務職の女性だった。ミラは微笑んで応えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。ギルバート団長にも恩返しができるよう、がんばります。」
サラを幼少期に人身売買の手から助けてくれた騎士ギルバートは30半ばにして今や騎士団を率いる団長となっていた。
ちょうどそのギルバートが、騎士団の門から出てくるところに遭遇した。きれいなブロンドの髪を短く刈り上げており、団長の名にふさわしい体格をしている。
「……ミラか。ずいぶん立派になったな。」
静かだが力強い声。ミラは深く一礼する。
「ギルバート団長…私のこと覚えていてくださったのですか?」
「ああ。あの時泣きながら"騎士を支える人になります"と言っていた少女が、今日こうして来てくれて本当にうれしいよ。」
ギルバートは優しく微笑んで、ミラの肩に軽く手を置く。
「ここでの仕事は決して楽じゃない。だけど、お前ならきっとやり遂げられる。事務は裏方ではあるが、だからこそ支えられる命がある。よろしく頼んだぞ、ミラ。」
「はい!全力で努めます!」
その言葉にミラは胸を熱くしながら気を引き締めなおした。
一方、門の向こう側、訓練場では新人騎士たちが集められ、訓練用の木刀が配られていた。
165㎝と集まっている周りの新人騎士たちよりも小さめではあるが、ミラよりも5㎝高いところが唯一クラウドの誇れるところだ。
三白眼の目つきは幼いころと変わらずだが、今の立ち姿に迷いはない。
「え、あのチビが騎士? まさか冗談だろ」
若い騎士たち数人の笑い声が聞こえる。
それを聞いたクラウドは怒りが燃え上がる。
「あぁ?なんだてめえ?」声のした方に睨みをきかせる。
「なんだよ、チビ、やんのか?」
言葉を発したと思われる、サラサラの肩までの黒い髪を靡かせた青年の手がクラウドの前に出てきて胸ぐらをつかむ。
なんだなんだ?と周りに野次馬が集まってくる。
「おい、離せよ。ロン毛、似合ってねーぞ。」
相手の顔が真っ赤になり、持っていた木刀が振り降ろされようとした瞬間、クラウドの木刀が相手の木刀を払い落としたかと思うと足を払い、相手の体が地面に叩きつけられる。
「俺の身長が低いのは認める。だが、それで俺を舐めんなよ。」
一瞬で相手を軽く薙ぎ払ったクラウドに、周囲は息を呑む。
「なんだ、こいつ……動きが速い!」
相手も驚きを隠せなかった。
そんな騒ぎの中、ひときわ鋭い声が飛ぶ。
「クラウド! いい加減にしなさいよ! そんなガキみたいな喧嘩、騎士団でやるんじゃないの!」
声の主はミラだった。クラウドは一瞬言葉を失い、顔を赤くしてタジタジになる。
「え、あ、ああ……ご、ごめん!ミラ!」
ミラは腕を組み、厳しい目でじっと見つめる。
「そんなにムキになるのが本当に強い騎士だと思ってるの? それじゃただの子供よ。そこのあんたもよ。」
体を起こし座り込んでいる青年にも声を掛ける。
クラウドは「ぐぬぬ」と唇を噛む、
ミラはため息交じりに少しだけ柔らかくなって言った。
「わかるけど……もう少し冷静になりなさい。感情に振り回されてどうするの。」
そのやり取りの直後、場に静かな圧が走る。
ギルバート団長が、いつの間にかその場に立っていたのだ。一瞬その場の空気が凍る。ざわついていた騎士団員達も、思わず姿勢を正した。
「楽しそうだな、お前たち。」
低く落ち着いた声に、場の緊張が一段階高まる。ギルバートの視線が、まず喧嘩相手の青年へと向けられた。
「グレン、だったな?からかうような言動があったのは確かだな?」
「…はい、申し訳ありません。団長」
「挑発も暴力の種になる。見た目で誰かを貶めて笑うこと、それは誇りある騎士のすることではない。反省しろ。」
次に視線がクラウドへと移る。
「クラウド。お前の動きは良かった。だが、結果として同輩に手を出したのは事実だ。」
「…すみません」
ギルバートは二人をじっと見据えた後、口を開いた。
「今回の件、責任は双方にある。喧嘩を起こした以上、始末書を提出してもらう。もちろん、二人ともだ。」
「はい!」
「ちぇっ…」と小声で舌打ちしたクラウドに、ミラは横からピシャリとたしなめる。
「当然でしょ。手を出した時点でアウトなの。文句を言うなら自分に言いなさい」
「わーってるよ…」
ギルバートは二人に近づくと、最後にこう言った。
「始末書は“自分の非を客観的に書く”ものだ。言い訳の作文ではないぞ。字が読めるなら意味も理解しろ」
ミラが苦笑いして小声でクラウドにささやく。
「大丈夫、クラウドには“簡単な書き方”を教えてあげるから」
「なんだよ”簡単な“って…馬鹿にしてんのか…」
ぼそぼそとつぶやくクラウドに、ギルバートが目を細めながら言った。
「期待しているぞ。騎士である前に、大人としての自覚を持て。これはその第一歩だ」
そういって、ギルバートは背を向けて去っていった。
残されたクラウドは、気まずそうに頭をかきながら呟いた。
「ちょっとはマシな始末書にしてやるからな…。おい、グレンだっけ?お前も一緒に行くぞ。」
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