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すれ違いとアピール
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騎士団に入って、早くも三ヶ月。
初日に失敗はしたものの、
クラウドは順調に頭角を現し、訓練場では実力者として注目され始めていた。
ちなみにクラウドに喧嘩を仕掛けてきた相手の男、グレンとは同期で一番仲が良くなっていた。あの事件の後、グレンは髪を短く切った。似合わないといわれたことを気にしていたらしい。
一方、ミラはと言えば、騎士団の書類地獄の渦中にいた。
「……なんで毎回、“殲滅報告書”と“追跡報告書”の区別がつかない人がいるのよ……」
机の上に積まれた書類を睨みつけながら、ミラはペンを走らせる。
「ミラさん、大丈夫ですか?手伝いましょうか?」
同じ事務の同期であるフェリスが話しかける。少しウェーブがかったダークブラウンの髪色が似合う美青年だ。
「ええ、大丈夫よ、なんとかするわ。」
真面目な彼女は、自分の仕事に妥協を許さない。眉間には自然としわが寄る。
その様子を、扉の隙間からこっそり覗く男が一人——
「お~……今日もキリッとしてるなあ、ミラ……書類にすら威圧感与えてる……かっけぇ……てか、フェリスあいつ近くないか?」」
もちろん、クラウドである。
その時、部屋の中からふいにミラの声が飛んできた。
「クラウド、そこにいるのわかってるから。入ってきなさい」
「ひゃいっ!」
ビクッと肩を震わせて、クラウドはおそるおそる扉を開ける。
「ご、ごめん……なんか話しかけるタイミング見失って……」
「毎回それ言ってるわよね。で、何の用?」
ミラはペンを止めずに尋ねる。きっぱりとした声音。だが、それは拒絶ではなく「急ぎの仕事中だから要点を言いなさい」というだけ。
クラウドはちょっと安心して、持ってきた小さな包みを差し出した。
「差し入れ。孤児院の近くで売ってたやつ。……ほら、ミラって甘いの好きだろ?」
「……誰から聞いたの?」
「この前、オルガさん(孤児院の先生)に会ったとき……」
「…………」
「べ、別に変な意味じゃなくてさ! ただ……ちょっとでも楽になればなって……」
クラウドの声が尻すぼみになるのをよそに、ミラは包みを受け取って中を確認する。中身は、小さな焼き菓子の詰め合わせ。香ばしい匂いが広がる。
「……ありがと。あとで食べる」
「ほ、ほんとに?」
「ええ。私、もらいものは粗末にしない主義だから」
クラウドは目を丸くした。
ここ最近忙しさのせいか、ずっと軽く流されたり、真面目な返答だけで終わっていたのに。今日は初めて、ほんのり笑ったような気がする。
(今、笑った? いや、気のせいか? いやでも確かに口角が上がってた!)
勝手に盛り上がるクラウドを見て、ミラは一言だけ付け加えた。
「でも勘違いしないでよ。これは好意じゃなくて、仕事仲間への礼儀だから」
「う、うん、分かってる……それでも、もらってくれて嬉しい……!」
「……単純なんだから、まったく」
小さく笑うミラの横顔に、クラウドの心臓はまたも高鳴った。
「ほら、ミラさん忙しんです。クラウドさんもう帰ったらどうですか?」
「うるせえ、フェリスは黙ってろよ。」
「あんたがうるさいのよ。ほら、用が済んだら早く行って。」
「…はーい。」
そしてそのやり取りを、廊下の角でこっそり見ていたグレンを含めた他の団員たちは思った。
「……あいつ、マジでミラを落とす気か?」
「っていうか、ミラさん笑ってたよな……あれ、俺らに見せたことねえぞ……?」
騎士団内の噂に新たな火がつくのだった。
初日に失敗はしたものの、
クラウドは順調に頭角を現し、訓練場では実力者として注目され始めていた。
ちなみにクラウドに喧嘩を仕掛けてきた相手の男、グレンとは同期で一番仲が良くなっていた。あの事件の後、グレンは髪を短く切った。似合わないといわれたことを気にしていたらしい。
一方、ミラはと言えば、騎士団の書類地獄の渦中にいた。
「……なんで毎回、“殲滅報告書”と“追跡報告書”の区別がつかない人がいるのよ……」
机の上に積まれた書類を睨みつけながら、ミラはペンを走らせる。
「ミラさん、大丈夫ですか?手伝いましょうか?」
同じ事務の同期であるフェリスが話しかける。少しウェーブがかったダークブラウンの髪色が似合う美青年だ。
「ええ、大丈夫よ、なんとかするわ。」
真面目な彼女は、自分の仕事に妥協を許さない。眉間には自然としわが寄る。
その様子を、扉の隙間からこっそり覗く男が一人——
「お~……今日もキリッとしてるなあ、ミラ……書類にすら威圧感与えてる……かっけぇ……てか、フェリスあいつ近くないか?」」
もちろん、クラウドである。
その時、部屋の中からふいにミラの声が飛んできた。
「クラウド、そこにいるのわかってるから。入ってきなさい」
「ひゃいっ!」
ビクッと肩を震わせて、クラウドはおそるおそる扉を開ける。
「ご、ごめん……なんか話しかけるタイミング見失って……」
「毎回それ言ってるわよね。で、何の用?」
ミラはペンを止めずに尋ねる。きっぱりとした声音。だが、それは拒絶ではなく「急ぎの仕事中だから要点を言いなさい」というだけ。
クラウドはちょっと安心して、持ってきた小さな包みを差し出した。
「差し入れ。孤児院の近くで売ってたやつ。……ほら、ミラって甘いの好きだろ?」
「……誰から聞いたの?」
「この前、オルガさん(孤児院の先生)に会ったとき……」
「…………」
「べ、別に変な意味じゃなくてさ! ただ……ちょっとでも楽になればなって……」
クラウドの声が尻すぼみになるのをよそに、ミラは包みを受け取って中を確認する。中身は、小さな焼き菓子の詰め合わせ。香ばしい匂いが広がる。
「……ありがと。あとで食べる」
「ほ、ほんとに?」
「ええ。私、もらいものは粗末にしない主義だから」
クラウドは目を丸くした。
ここ最近忙しさのせいか、ずっと軽く流されたり、真面目な返答だけで終わっていたのに。今日は初めて、ほんのり笑ったような気がする。
(今、笑った? いや、気のせいか? いやでも確かに口角が上がってた!)
勝手に盛り上がるクラウドを見て、ミラは一言だけ付け加えた。
「でも勘違いしないでよ。これは好意じゃなくて、仕事仲間への礼儀だから」
「う、うん、分かってる……それでも、もらってくれて嬉しい……!」
「……単純なんだから、まったく」
小さく笑うミラの横顔に、クラウドの心臓はまたも高鳴った。
「ほら、ミラさん忙しんです。クラウドさんもう帰ったらどうですか?」
「うるせえ、フェリスは黙ってろよ。」
「あんたがうるさいのよ。ほら、用が済んだら早く行って。」
「…はーい。」
そしてそのやり取りを、廊下の角でこっそり見ていたグレンを含めた他の団員たちは思った。
「……あいつ、マジでミラを落とす気か?」
「っていうか、ミラさん笑ってたよな……あれ、俺らに見せたことねえぞ……?」
騎士団内の噂に新たな火がつくのだった。
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