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孤児院の庭先には、ぽつんと一人の少年がいた。
膝に擦り傷、頬に絆創膏、だけど目つきはぎらついている。腕には木剣、背中には砂まみれのシャツ。名前はクラウド、年は十歳。周囲の大人たちからは「問題児」「将来有望な半グレ」と陰で言われていた。
今日もまた町の子どもと一悶着起こし、孤児院の先生に怒鳴られ、庭に立たされている。
「ちぇっ、あいつが先に殴ってきたくせに……」
チビだなんだと難癖をつけて絡んできた相手を思い出しながら小声で文句を言う。
そんな時に院の先生が溢した言葉が降ってきた。それは隣町の孤児院にいる優秀だという少女の話だった。
ミラというその少女はクラウドと同い年で、当時、人身売買で売られそうになっていたところを騎士に助けてもらったという。その騎士に恩返しがしたいと騎士団の事務を目指しまじめに勉強しているらしい。
「お前もそんなに暴れてばかりいないで、ちょっと見習ってみたらどうだ?」
そんな言葉を聞き、むしゃくしゃした気持ちと共に半ばからかい気分で、好奇心が勝ったクラウドは歩き出した。
(どんな奴か、顔を拝んでやる。騎士団に関わる仕事なんて孤児出身のやつがなれるはずないんだ。)
隣町の孤児院は静かで整っていて、そこで見たのは一人の少女が真剣な表情で本に向かう姿だった。クリっとした気の強さが見える大きな瞳、茶色の綺麗な髪をひとつ結びにしてまっすぐに本に打ち込むその姿は、クラウドの心に何かを刻んだ。
「なんだ……あの子……。」
その日から、クラウドの世界は少しずつ変わり始めた。
何度も隣町の孤児院まで通い、ミラに話しかけ、
「あんた、また来たの?」と軽く流されたりはするものの、少しだけ話してもらえるようになった。
そんな頃、自身の将来についても考えるようになったクラウドは、ミラに言ってみた。
「俺、ホントは騎士になりたいんだよね。」
心のずっと奥に眠らせていた気持ちを吐き出してみたのだ。けれど恥ずかしくなってしまった。
「なんて、チビな俺には無理かもしれな…「いいじゃない!」」
いつものようにふーんと流されるか、笑われるかと思っていたクラウドは、被せるように肯定の言葉を発したミラに驚いて視線をやる。
ミラはまっすぐな瞳でこちらをじっと見つめていた。
「クラウド、あんた強いんでしょ?騎士になったらいいじゃない。体格なんて関係ないわ。なれるわよ、あんたなら。私だって、絶対、騎士団の事務になってやるんだから。」
―――喧嘩に明け暮れていた日々が少しだけ遠ざかっていく。
代わりに、今まで知らなかった世界がミラの隣にはある気がした。
膝に擦り傷、頬に絆創膏、だけど目つきはぎらついている。腕には木剣、背中には砂まみれのシャツ。名前はクラウド、年は十歳。周囲の大人たちからは「問題児」「将来有望な半グレ」と陰で言われていた。
今日もまた町の子どもと一悶着起こし、孤児院の先生に怒鳴られ、庭に立たされている。
「ちぇっ、あいつが先に殴ってきたくせに……」
チビだなんだと難癖をつけて絡んできた相手を思い出しながら小声で文句を言う。
そんな時に院の先生が溢した言葉が降ってきた。それは隣町の孤児院にいる優秀だという少女の話だった。
ミラというその少女はクラウドと同い年で、当時、人身売買で売られそうになっていたところを騎士に助けてもらったという。その騎士に恩返しがしたいと騎士団の事務を目指しまじめに勉強しているらしい。
「お前もそんなに暴れてばかりいないで、ちょっと見習ってみたらどうだ?」
そんな言葉を聞き、むしゃくしゃした気持ちと共に半ばからかい気分で、好奇心が勝ったクラウドは歩き出した。
(どんな奴か、顔を拝んでやる。騎士団に関わる仕事なんて孤児出身のやつがなれるはずないんだ。)
隣町の孤児院は静かで整っていて、そこで見たのは一人の少女が真剣な表情で本に向かう姿だった。クリっとした気の強さが見える大きな瞳、茶色の綺麗な髪をひとつ結びにしてまっすぐに本に打ち込むその姿は、クラウドの心に何かを刻んだ。
「なんだ……あの子……。」
その日から、クラウドの世界は少しずつ変わり始めた。
何度も隣町の孤児院まで通い、ミラに話しかけ、
「あんた、また来たの?」と軽く流されたりはするものの、少しだけ話してもらえるようになった。
そんな頃、自身の将来についても考えるようになったクラウドは、ミラに言ってみた。
「俺、ホントは騎士になりたいんだよね。」
心のずっと奥に眠らせていた気持ちを吐き出してみたのだ。けれど恥ずかしくなってしまった。
「なんて、チビな俺には無理かもしれな…「いいじゃない!」」
いつものようにふーんと流されるか、笑われるかと思っていたクラウドは、被せるように肯定の言葉を発したミラに驚いて視線をやる。
ミラはまっすぐな瞳でこちらをじっと見つめていた。
「クラウド、あんた強いんでしょ?騎士になったらいいじゃない。体格なんて関係ないわ。なれるわよ、あんたなら。私だって、絶対、騎士団の事務になってやるんだから。」
―――喧嘩に明け暮れていた日々が少しだけ遠ざかっていく。
代わりに、今まで知らなかった世界がミラの隣にはある気がした。
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