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共通ルート
EP4_① 貴族の資格
しおりを挟む「えぇっ!?来られない!?」
「ご、ごめんね……どうしても、見たい映像授業がある……んだ……。」
落胆の様子を隠し切れないセレアに対し、ヴィルは萎縮した。
言葉が変なところで切られてしまい、声は今にも消え入りそうだ。
「映像授業……と言う事は、水晶放送?」
この世界の住民は魔法の水晶に魔力を流し込む事で、テレビのように映像を見る事が出来る。
バラエティ番組からニュース番組まで、様々なジャンルが放送されているが、あまり人気ではないのが"映像授業"だ。
金持ちなら家庭教師を雇えば良いし、貧乏人は水晶を買えない。
そう考えると、ヴィルのような"コミュ障の金持ち"ぐらいにしか、需要が無いのだ。
「今しか見られない……特別ゲストも居る……講義なんだ……。」
「そっか……なら、私は先に行くね。」
「ほんとにごめん! 連れて行くって言ってたのに!」
「大丈夫!明日は一緒に行きましょうね!……と言うか、録画で良いんじゃない?」
「そこまで"器用"に、魔力を使えないよ……。」
水晶の機能は、使用者の魔力技能と直結している。
魔力の量や使い方が上に行くほど、その機能も増えていく。
巻き戻しや一時停止などの有無、見れるチャンネルなども、人によって違うのだ。
「私なら完璧に使えるわよ? 録画してあげようか?」
彼女は、水晶の扱いにも長けていた。
体に満ち溢れる無尽蔵の魔力と、それを完璧に操作する技能。
それは全て、"悪魔としての血脈"によって齎されたものだ。当然、人間の魔法アイテムなど容易く使いこなせる。
「だ、大丈夫……僕、性格的に……一度で集中しないと……覚えられないから……。」
「分かった! それじゃ、先に行ってるね!」
勉強の邪魔をするのは可哀想だと思ったセレアは、潔く彼を置いて一人で行く事にした。
~~~~~~~~~~
「凄い美人……あの人、誰かしら?」
「多分、新しい奥様よ……綺麗……。」
「あの部屋って、ヴィル様の正妻用寝室じゃ……?」
道行く使用人が、彼女の方を振り返った。
タダでさえ綺麗な彼女が、今日は一段と着飾っている。鬼に金棒ならぬ、『淫魔にドレス』だ。
だが彼女が人を惹きつけるのは、その容姿だけが理由ではないのだ。
「こんばんわ皆さん! 今日から入りました、セレアティナです!よろしく!」
「し、使用人に話しかけた……!?」
冷笑ではなく、温かな微笑みと共に話しかけられた。こんな事は、かなり珍しい。
貴族である正妻や側室は勿論、同じ庶民である奴隷妻でさえも、使用人は雑に扱う物と思っているのだ。
ここまで真心の篭った応対をする者は、これまで出会った事がなかった。
「よ、よろしくお願いします! セレアティナ様!」
「セレアで良いわよ!」
彼女は明るい笑みを浮かべながら、廊下を掃除する使用人たちの横を通り過ぎて行く。
その後ろ姿を眺める者たちは――。
「素敵な人ねぇ……!」
「あんな奥様初めて……!」
「私、あの人の担当が良いなぁ!」
セレアの立ち振る舞いに魅せられ、口々に彼女を褒めていた。
早くも彼女は、新天地でファンを作ったようだ。
~~~~~~~~~~
(うわぁ……凄いご馳走様……!)
セレアがドアを開けると、そこには細長い円卓と豪勢な食事が並んでいた。
やはり、貴族の食卓はいつ見ても壮観だ。内装から皿に至るまで、全てが芸術品のように美しい。
しかし、嬉しそうな表情を浮かべるセレアに、横槍を入れる者が居たーー。
「邪魔なんだけど! 退いてくれない!?」
突然、背後から嫌味な声が聞こえた。
振り向くと、そこに居たのは少し歳下の女貴族。
外見こそ美しいが、オーラが穢れている。
自分が嫌われている事に気付かないタイプだと、セレアはすぐに察した。
「あら、ごめんなさい。」
「ノロマは嫌いなの! 謝る暇があるなら、さっさと退きなさいよ!この"借り胎"!」
「痛ッ!」
貴族はセレアの脛を勢いよく蹴飛ばすと、そそくさと走り去った。
自分の席に座った彼女は、今も恨めしそうにセレアの方を睨んでいる。
(扉の前で立ち止まった私も悪いけど……アレは無いわ。)
温厚なセレアでも、流石に腹が立つ。
ああいう不遜な態度を取る者は、セレアの彼女の最も嫌いなタイプだ。
それが女であれ男であれ、平民であれ貴族であれ、同列なクズとして見ている。
(それに、借り胎って……非常識な人ね……。)
現代の地球では代理母の事を指す言葉も、アンダーヘブンでは違う意味がある。特に貴族の場合は、後者の意味合いが強い。
オブラートに包まずに言うなら、"孕み袋"と言う意味だ。女でも男でも、この単語を言う貴族にはまともな奴が居ない。
奴隷妻という制度自体が時代錯誤だが、この単語は更にその上を行く。
平民の女性を本当の意味で、"子を産むだけの存在"としか見ていないのだ。
(あんなのは放っときましょう。 私の席は……あった!)
一面に皿が敷き詰められた食卓に、セレアは自分のネームプレートを見つけた。
胸を刺し貫くような視線を感じながら、席に着いた彼女。
食卓には彼女と女貴族、そして数人の使用人しかいない。この状況、なかなかに気まずいものだ。
そんな事を思っていると――。
「あ、お父様! 体調は良いのですか!?」
女は突然立ち上がり、入って来たのとは別の扉を見た。すると、そこには年老いた男が立っている。
(あっ……凄くヴィルヘルムって感じ……!)
何が"凄く"なのかは分からない。
だが、その老人は初対面のセレアが見ても一瞬で分かるほど"ヴィルヘルムI世"、即ちヴィルの父親だった。
顔立ちは何処か彼に似ているのだが、雰囲気はかなり違う。
豊かなカイゼル髭を生やし、険しい目をした老翁。威厳がまるで違うのだ。
体型も太っておらず、むしろ痩せ細っている。しかし、周囲を見渡す眼力は微塵も衰えておらず、ギラギラと輝いている。
まさに、ヘルム(冠)という名に相応しい、迫力と威厳に満ちた領主だと言えるだろう。
「息子が嫁を迎えたのだ。 当主として、お相手に礼を尽くす義務があろう。」
当主はそう言うと楕円形の円卓の端、魔法使いのエンブレムが嵌め込まれた"当主の席"に、ゆっくりと座った。
(そうだ!挨拶しないと!)
「初めまして、お義父様。 私の名前はセレア、"セレアティナ=バイオレット"と申します。
この度、平民の身分でありながら、ご子息の妻に迎えて頂き、感謝いたします。」
性奴隷になるつもりで来たのだが、どうやら自分は"妻"と言う扱いにされているようだ。
ヴィルと結婚する気は無いが、ここは妻と名乗る方が角が立たない。口で言うだけなら、別に構わないと思った。
「平民……まぁ良い。 息子は迷惑をかけるだろうが、仲良くしてくれると嬉しい。」
「こちらこそ、これからお世話になります……!」
領主がそこまで言ったところで、先ほどの女が口を挟む。
「お父様、この女も一緒に夕食を摂るのですか?」
「そうだ。」
「でも、この女はタダの平民。 それも娼婦の奴隷妻ですよ。 私たちと卓を囲む資格が有ると、本当に思いますか?」
「お前も知っている筈だ。 他に貴族との縁談が無い限り、奴隷妻が本妻として扱われる。
そして、この円卓には貴族と配偶者の席が設けられている。 それならば、彼女が座るのは当然だ。」
(あ、この人は理知的ね!)
女貴族が、どうしようもない馬鹿だったので悲観していたが、当主は違うようだ。
言葉の節々から確かな知性と品性が感じられ、言葉に筋道がある。ただの馬鹿な貴族とは、明らかに違う。
「ま、まぁ……そうですが……。」
「ん?エミリー殿、"アレス"はどうした?」
当主は突然、別の方向から現れた別の女貴族、エミリーに目を向けた。
雪のように色白で、妖精のように身長が低く、抱きつけば折れそうなほど細い体。
誰がどう見ても病弱だが、とても美しい女性がそこに居た。
先ほどまで当主と言葉を交わしていた女は、完全に無視されている事に腹を立て、歯軋りする事しか出来ない――。
「けほけほっ……あっ、お義父様……アウレスタ様は、用があるらしくて……。」
「そうか、なら先に頂こう。 "フィラ"、セレア殿を睨むのはやめなさい。」
「別に睨んでません!」
セレアに因縁を付けてくる女貴族は、フィラと言う名前らしい。
軽快で爽やかな響きのある名前からは、粘着質で嫌味な本性は透けていない。
「オイオーイッ! 俺を忘れんなぁーッ!?」
今度は、騒がしい若い男が入って来た。
身なりは貴族で間違いないが、口調は"パリピ"そのものだ。ヘラヘラと笑いながら、自分の席に着く。
「遅いぞ"ゼスト"。2分遅刻だ。」
「固い事言うなって親父! あ、晩餐に来るのは俺で最後だぜ!」
「そうか、ヴィルは後で来るらしいから、これで全員だな。」
当主がそう言うと、ついに晩餐が始まった――。
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