異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

36.宰相、誰にも渡さない ※ルシアン視点

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「せっかくの良いところを邪魔しやがって!」

 俺はイライラしながら国王の元へ向かう。
 久しぶりに会った湊はどこか痩せていて、抱えたときの軽さがまだ腕に残っている。
 本当は俺が湊の年齢を超えたら向かいに行くつもりだった。
 湊はいつも「大きくなったら」って俺を避けていたからな。
 体と心も大きく、そして年齢も重ねた俺に湊は言い訳できないはず。
 そう思っていたのに、まさか湊がこっちの世界に来るとは思わなかった。
 いや、全く来ない可能性がないとは思ってはいない。
 パソコンの中にこっちの言語で日本語で似たような言葉を探して、呪文として残しておいたからな。
 まぁ、今回はそれに気づいて来たのかもしれない。

「開けてくれ」
「ハッ!」

 国王が待つ部屋の前で俺は姿勢を正す。
 この先にいるやつらは俺でも唯一手こずる相手だからな。

「やぁ、ルシアン忙しかったかね?」
「はい。忙しいので手短にお願いします」

 金色の髪から覗く青色の瞳がジーッと俺を見つめる。
 まるで俺を試しているような視線だな。

「ははは、相変わらず手厳しいね」
「ルシアンだからな」

 そう言って、後ろで護衛をしている第一騎士団団長の男に話しかける。
 学園の時から同期で三人でいることが多かった。
 国王のユリウスと騎士団長のヴォルフラムだ。
 正確に言えばユリウスとヴォルフラムが面白がって俺に付いてきていたからな。

「それで話は何ですか?」
「まずは菓子でも食べて――」
「俺が甘いもの苦手なのをわかってますよね?」

 俺の言葉にユリウスはクスクスと笑ってる。
 俺が唯一食べられるのは、湊が作ってくれたホットケーキだけだ。
 そもそもこの世界の菓子は甘すぎて美味しくない。
 ご飯も湊が作ったものと比べ物にならないぐらい味気ないからな。
 今日も帰ったら湊にホットケーキを作ってもらおうかな。

「ほぉ、ルシアンが珍しく機嫌がいいね」

 ついつい湊のことを考えると、勝手に笑みが溢れてしまう。
 気持ちを抑えて、俺は表情をいつものように押し殺す。

「おっ、元に戻った」
「国王様、俺で遊ばないでください」
「ははは、だってルシアンを見ていると面白いからね」

 そう言って、俺のことを見て笑っているが、ユリウスも何を考えているのかわからない。
 そもそも俺を宰相にすると言ったのはユリウスだ。
 俺は湊のところに行って、しばらくは日本で生活する気満々だったのに……。

「おっ、今度は睨んできたぞ」
「そろそろ話したらどうだ」

 呆れたヴォルフラムに言われて、ユリウスはやっと話す気になったのだろう。姿勢を正した。

「マヨネーズで騎士たちが倒れたって聞いたけどどうだった?」
「ああ、それのことか。出回っていたマヨネーズは粗悪品だった」

 俺はポケットからある容器を取り出す。
 蓋を開けた瞬間、鼻の奥を刺すような酸っぱい匂いが部屋に広がる。
 どこか生臭く、動物臭に似ている。

「私たちの反応を見て楽しんでるぞ!」
「おい、ルシアン今すぐに蓋を閉めろ」

 せっかくだからと、ユリウスとヴォルフラムに向けて手で仰いでやったが、効果はあったようだ。
 二人は苦しそうに鼻を塞ぐ。
 俺と湊の大切な時間を奪った罰だ。

「よくお前の部下はこれを食べたな」
「あいつらは体を鍛えすぎてバカだからな」
「勉強しろと伝えろ」

 俺の湊に看病してもらっている姿を見て、今すぐにでも殺してやりたいと思った。
 湊が止めなければ、首の一つや二つは余裕で飛んでいた。
 俺だって湊に看病してもらったのは数回だからな。
 傷ついた体の俺を優しく治療してくれて、ずっと手を握ってくれていた湊。
 懐かしい記憶が昨日のように感じる。

「ははは、本当に今日のルシアンはおかしい」
「まぁ、良いことがあったんだろ?」
「例えば……」
「「聖男とか」」

 ユリウスとヴォルフラムの声が重なる。
 それと同時に俺は二人を睨みつけた。
 昔、口を滑らせて俺の好きな人の話をしたことがあったからな。
 この世界では自分の思い人を聖男や聖女として例えたりする。
 実際に聖男や聖女は存在するが、今はその枠は不在だ。

「その話はやめてください」

 俺に好きな人がいたことに二人は驚いていたが、思春期に想い人がいるのは当たり前だろ。
 俺なんて毎日湊の写真を見て、夜を明かしたぐらいだ。
 今も昔も好きなのは湊だけだからな。
 さっきなんて今にも襲ってしまうところだったからな。
 アシュレイが来なければ、湊に嫌われていたかもしれない。

「報告はこれぐらいです。わざわざ俺を呼ぶことでもないですよね」

 もう俺を呼ぶなと念押しするように伝えて、ソファーから立ち上がる。

「あっ、そうだ。ルシアンに命令した人は誰なんだ?」

 その言葉に俺はユリウスを睨みつける。
 どうやら湊の存在がバレたようだ。
 あんなに小さな体で、この世にはない知識を持っている湊なら目立つのは仕方ない。
 それにこの世界にいる誰よりも湊は可愛いからな。

「通りすがりの人です」
「へー、通りすがりね」

 ユリウスは顎の下に手を添えて考える。
 きっと湊に興味を持ったのだろう。

「じゃあ、私の部下にしても――」
「それはダメです」

 才能があるやつを探して、手玉にとるのがユリウスの才能でもある。
 俺は湊を誰にも譲る気はないし、見せる気すらない。

「ただの通りすがりなんだろ?」

 ニヤニヤしているユリウスに俺はさらに睨みつけた。
 きっとわかって言っているのだろう。

「湊に手を出したら、ユリウスでも殺すからな」
「おっ、怖っ!」

 そう言って俺は部屋を出た。
 ユリウスの青い瞳は、興味を持った獣のそれに近い。
 あいつならやりかねないからな。
 本当にユリウスが湊を奪う気なら、俺はこの国を敵に回す覚悟はある。
 まぁ、そんなことをするぐらいなら、湊を連れて日本に行くけどな。
 湊がこっちに来れたってことは、向こうに行くこともできるってわかったしね。

「ヴォルフ、その騎士を助けた男を調べてくれ。たしか……ミナトって言っていたか?」
「はぁー、相変わらずルシアンのことになると興味が出てくるのは悪い癖だぞ?」
「ははは、私は自分の欲しいものを手に入れるのが好きなだけさ」

 部屋には二人の楽しそうな声がしばらく聞こえていた。
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