異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

42.聖男、異世界で朝食を作る

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 僕が目を覚ますと、見知った顔が横にあった。
 長いまつ毛にシュッとした鼻。
 大人になってもあまり変わっていない姿につい笑ってしまう。

「夢じゃなかったのか……」

 優しく触れると、柔らかい髪の毛が指に絡んでくる。
 撫でて寝かしつけていたのが懐かしいな。

「寝顔が崩れていないって本当にすごいよね」

 そう思っていると、突然目がパチリと開き、視線が重なる。

「ふふふ、もっと撫でてもいいよ」

 ルシアンは僕の手を包み込むように指を絡ませてくる。
 さっきまで静かに動いていた心臓の拍動が急に強くなる。
 いつの間にルシアンはこんなに大人っぽくなったのだろう。
 僕にはない色気にドキッてしまう僕がいた。

「ルシアンって今何歳なの?」
「みにゃとと同じ27歳だよ」

 その言葉に僕はクスリと笑う。

「なら、ルシアンはまだ年下だね」
「へっ……」

 一年も会っていなければ、僕も歳を重ねる。
 ルシアンの中で僕の年齢は止まっていたみたいだ。

「この間28歳になったよ」
「……はぁー」

 ルシアンは唖然とした顔をした後に大きくため息をついた。
 そして、僕をギュッと抱きしめる。

「いつになったらみにゃとに追いつけるのかな」

 小さくボソッと呟く声に僕は再びルシアンの頭を撫でる。
 ルシアンはずっと僕より年下だからね。

「そんなに大きくなったら、それはそれで寂しいよ。先に死んじゃいそう――」
「俺は絶対にみにゃとよりは先に死なないからな」

 覆い被さるように見つめるルシアンに僕もドキッとする。
 まるでプロポーズみたい。
 そんな勘違いをしてしまいそうになる。

――ガチャ!

「ルシアン様、そろそろ起きてください」

 扉を開けて、入ってきたのはアシュレイだった。
 昨日は突然いなくなったのに、今日は突然姿を現した。

「あっ、お邪魔でしたか」
「そうだ! 邪魔だ!」
「くくく、アシュレイさんが可哀想だよ」

 ムスッとするルシアンに僕は恥ずかしさよりも笑ってしまった。

「ルシアン、朝ごはんを食べようか。あっ、アシュレイさんも食べ――」
「食べます!」

 即答するアシュレイにどこか幼いルシアンと被る。
 どこか懐いたばかりの犬……いや、猫に近いかな。
 見た目もどことなく猫みたいだからね。

 そのままルシアンから抜けるようにベッドから降りる。

「先に厨房に行ってますね」

 そう伝えて、厨房に向かうことにした。

「おい、タイミングがあるだろ」
「ルシアン様が起きてないのが悪いですよ。それよりもその下のやつをどうにかしてください」
「こっ……これは仕方ないだろ!」
「それだから童貞なんですよ」
「それぐらいいいだろ! 俺の初めてはみにゃとって決めてるんだよ!」
「そもそもみにゃとって……ふふふ、まだ子どもですね」
「てめぇ、首を斬られたいのか?」
「私もそこまで弱くないですよ?」

 部屋に残されたルシアンとアシュレイは仕事の話があるのだろう。
 言い合いをしている声が厨房にも何となく聞こえていた。


 僕は厨房で朝食の準備をしようとしたが、すでに料理人が何かを作っていた。
 ルシアンの屋敷には専属の料理人もいるようだ。
 さすがに朝食を作ろうとしたが、邪魔になりそうな気がする。

「ミナト様、おはようございます」
「あっ、すみません」

 僕がすぐに謝ると、料理人はなぜか驚いたような顔をしていた。
 まさかルシアンって料理人まで、威張った態度をしていたのだろうか。
 また申し訳なくなり僕は頭を下げた。
 まるで僕はルシアンのお母さんのような気分だ。

「そういえば、何かありましたか?」
「あっ、朝食を作ろうかと思いましたが……僕がいると邪魔ですよね?」
「いえ、ぜひ私にもミナト様の世界の料理を食べてみたいです」

 どうやら僕が別の世界の人間なのは知っているようだ。
 ルシアンが昨日の夜に使用人に伝えたのかもしれない。
 僕は料理人の方と一緒に朝食を作ることにした。

「思ったよりも調味料はしっかりあるんですね」
「ルシアン様が揃えてくださるので、基本的な物は揃ってますよ」

 塩や砂糖だけでなく、醤油や味噌などもあった。

「ただ、私たちはどのように使えばいいのかわからないので……」
「あー、ルシアンが料理できるイメージないもんね」
「はい……」

 一度ルシアンに簡単な料理でも教えようと思ったけど、ガサツなのか全てが豪快だったからな。
 スプーンで一杯って言ったのに、ダバダバと溢したあとにスプーンのやつも入れていた。
 ホットケーキも毎回真っ黒だったしね……。

「とりあえず……このスープって使ってもいいですか?」
「あっ、私が作ったものでよければ大丈夫です」

 僕は料理人が作っていたスープを味見する。
 昨日の城で食べたものよりは、野菜の甘味がしっかりと出ている。

「玉ねぎとじゃがいもなら、お味噌汁にしても良さそうですね」

 せっかく味噌があるなら、お味噌汁とか良さそうだ。
 玉ねぎとじゃがいものスープを小さな鍋に少しだけ分けてもらうと、僕は味噌を溶いて、醤油を少しだけ垂らす。

「本当はお出汁が欲しいんですけどね」

 洋風スープに味噌を溶いても、ただの味噌スープになる。
 そこに醤油を入れるだけで、一気に和風な料理に変化する。

「これはこうやって使うんですね。真っ黒な液体だったので……」
「あー、確かにかなり黒いから使いにくいですもんね」

 ルシアンが用意した醤油はどことなく、再仕込み醤油やたまり醤油のような見た目に近かった。
 味も少し濃いめのため、使いにくかったのだろう。
 味見をしてみても、お味噌汁にはどこか似ていた。
 ただ、完全なお味噌汁ではないからね……。

「味見してみますか?」
「はい!」

 僕は手に持ってる小さなお皿に少しだけお味噌汁を入れてそのまま渡す。
 ゆっくりと料理人が口に運ぼうとした瞬間、横から手が伸びてきた。

「皿を変えろ」

 ルシアンはそのままお皿を奪って、違うお皿を渡してきた。

「毒なんて入ってないよ?」
「さっきみにゃとが使ってたやつだろ? 一緒の皿はダメだ」

 ルシアンはよくわからないところで潔癖症なんだろうね。
 僕は不思議に思いながらも、その後もルシアンに監視されながら朝食作りを続けた。
 料理人は居心地が悪そうだったな……。
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