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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第十五話 エイシャの計画 5
しおりを挟む妹にそう揶揄され、面白そうに見られてユニスは夫を庇うようにして宝珠から視線を塞ごうとする。
これはわたしのものよ。
勝手に見るんじゃありません!!
そんな意志が伝わってきそうな行動だった。
「エイシャ、少しあとにしてもらえるかしら?
こういうのを無粋と言うのですよ?」
あなたもさっさと服を着なさいよ。
ユニスに叱られてグレンは、
「いや、しかし。
いいのか、シルドの計画がどうこうー‥‥‥」
などと相変わらずの的外れなことを言いだす始末。
ユニスとエイシャのエシャーナ姉妹は同じタイミングでため息をつく。
「あれですわね、殿下のそれはもう‥‥‥シェイルズ様を困らせるどうこうではなく。
元々の気質と言いますか。
良すぎるのですね、お人柄が」
エイシャはつまり、グレンが八方美人だと言いたいらしい。
「そんなことはないわよ!
ちゃんとイズバイアはわたしを一番にーーそうですよね、殿下!?」
「あー、うん。
それはもちろんだよ、ニアム?
あの魚だって、今夜の食卓をせめて豪華なものにできればいいなと。
君にばかり気苦労をかけてすまないと思い、な?
それで、アンリエッタに釣り竿の用意をな?」
しどろもどろに言い訳をするそれは、まるで的外れだった。
「殿下、それではお姉様は納得しませんよ?
せめて、一番はお前だ。
いま言われた子だからだって僕は誰よりも望んでいる。
その為ならば、何年でもこの牢獄のような状態でも‥‥‥。
お前がいるならばそれだけで幸せだ、くらいは言いませんと」
ねえ、お姉様?
エイシャは意地悪くユニスを見てそう言う。
姉の心などもう十五年も一緒にいるのだ。
手に取るように分からなければおかしい。
「そ、そんなこと‥‥‥殿下は、グレンは言わないもの。
いつもいつもー‥‥‥帝国は僕はばかりで。
あの頃の、白い鷹として輝やいていた。
あのギラギラとした雄々しさはいまはーー」
ユニスの落胆ぶりにグレンはこれは、本日最大のまずさではないか?
そう察知するもすべては後の祭りだ。
「だそうですよ、殿下?
お熱い昼の情事はこの後にして頂くとして。
お姉様、アルメンヌの件ですが。
本当に宜しいのですか?
我が夫は愚かな大公も、賢い大公も演じるでしょう。
でもそれは後程の、殿下の再来のときにー‥‥‥そう、統治を任せた者としての責任はどうされます?」
グレンが十年後に、帝国の皇帝になるのはもはや決定事項だ。
それが決まっているだけに、この十年の布石は間違えるととんでもないことになる。
エイシャはそう言っていた。
「いいのです、アルメンヌには同行するように。
それだけを伝えてありますから、後は色に欲深い、王国から現在の大公の座だけを狙ってやってきた愚かな男。
シルド様には申し訳ないけど、最初はそう演じて頂きます。
ハーベスト大公領は古い建築が多いわ。
戦争も終わり、兵士もあぶれてしまう。
それに対して、後方部隊で工兵は更に余るでしょう。
街や村の現状を知り、欲深であればさらに言い寄る貴族・荘園の主も多いはず。
世直しと、そちらの領内で流行るであろう病気など。
その予防は大事よ」
そうは言っても‥‥‥
エイシャはアルメンヌに何か申し訳が立たない気がする。
「ねえ、お姉様。
アルメンヌは、前回の王国との開戦の折りにレブナス高家の前衛として城を籠城戦で守り、その時に撤退したからと離縁され‥‥‥この扱いは可哀想ではありませんか?
一応、あれでも元男爵正妃ですよ?
まあ、その前は傭兵上がりだったみたいですけど」
「その傭兵上がり、が大事なのよ。
あなたの方が付き合いは長いでしょ?
わたしのお母様にお付きできて、戻らされてからも少しは交流があったようだし」
「それはまあ。
お姉様はアルメンヌのような男性に媚びを売るとは言いませんが。
無法者的な側面は嫌いでしたからね。
まあ、いいです。
では、それにてーー失礼致します、殿下、女公爵様」
一部、不満を残しながらエイシャは宝珠から消えていなくなる。
「さて、それでは僕らもーー」
そう寄ってくるグレンに抱かれるユニスもまた、良き夫婦であった。
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