98 / 150
新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第十六話 アルメンヌの嘆息 1
しおりを挟む
まったくもう‥‥‥
いきなりいい気分で酒に酔い寝ていたら起こされてーー
与えれられたのがこれだ。
アルメンヌは心から吐き出すようにしてため息をつく。
「あの頃はまだ最下位に近いとはいえ、貴族だったのに。
旦那様からは失態を責められて離縁され、行く宛もなく旧知のエイシャを頼ればこれ、か‥‥‥」
なんてついてないんだろう、わたしは。
シルド様に抱かれるようになれと言われ近付けば拒否され、あんな高い場所に誘拐されそうになるし。
情婦にする気などないと言いながら、シルド様はこんなものを着せようとするし。
本当についていない。
「わたしはただ、この旅を無事に終わらせてそのまま、情婦か側室でいいからあの大公城のどこかで暮らせればそれで良かったのに。
なんでこうなったんだろう……」
ぼやいてもなにも解決しないことは分かっている。
彼女の主はこれを着ろ、そう言い付けたのだ。
こんなスリットの激しい服なんて‥‥‥下着なしに馬にまたがればどうなることか。
「はあー‥‥‥」
どうぞ、旦那様。
自分から諦め顔でアルメンヌはシルドを室内に迎え入れた。
窓から降り注ぐ‥‥‥月光が妙ななまめかしさを醸し出していてこれはこれで色気のある光景だった。
シルドはアルメンヌを上から下まで嘗め回すような視線で眺めた後に満足そうにうなづいた。
「うん、これなら文句はでまい」
その一言が我慢の限界に達していたアルメンヌの怒りに触れる。
南方の女性は気が短いのだ。
「なにが文句はでない、ですか!?
あれほど、エイシャが大事だと言いながらーー!!!
あなたは‥‥‥情婦にするつもりはないと言いつつ、どうせ。
どこかの領主にでもわたしを抱かせ、その気を引こうとそんなお考えなのでしょう!?」
は?
シルドは間の抜けた顔にはならないが、そういう手もあるな。
そんな一言が漏れ出てしまう。
「そんな、そんなー‥‥‥。
大公様ならばまだしも、どこぞの荘園の宗主だの、領主だのにまで手を出されるくらいなら‥‥‥」
「ならどうする、と?
だいたい、なんで僕ならいいんだ?
君のその姿は、こう言うと妻には怒られるが。
掛け値なしに美しいぞ?
他にも良い相手はいるだろう?
その‥‥‥傷を込みで考えても、だ」
そう言って下さるだけまだましですわ、そうアルメンヌは嘆息する。
「前回の帝国と王国との戦。
まだ数か月前ですが‥‥‥。
レブナス高家の麾下のある城を夫がいないまま籠城戦となり、南方大陸のある国の侵攻から守れませんでした。
いまは盛り返して奪い返したようですけどね。
おかげさまで、この傷も含めて、要らんと捨てられましたわ。
殿方の愛ってなんなのでしょうね、旦那様。
数年を過ごした間柄だったのに」
それは気の毒だったな‥‥‥こっちは新婚早々、こんな任務で愛し合う暇もないのだが。
シルドもまた、ため息をついた。
「旦那様がため息をつかれる理由なんてないじゃないですか。
明日からは、こんないい情婦を連れて馬の上で好きなようにわたしをいじれるんですから。
何より、この傷を見せることで情け深い主人だと人は思うでしょう。
エイシャの計画がどうかは知りませんけど。
そんなことに使われるなんて、恥ずかしいやら悲しいやら。
この責任は取って頂けるのでしょうか?」
「責任‥‥‥!?
いや、それはーー」
「だって、女ですよ、わたし。
これでも元貴族ですよ?
それを情婦扱いして他の男に抱かせる気なのでしょう?
内実を知るために?」
いくばくかの情けをいずれは与えて頂かねば困ります。
アルメンヌはそうシルドに嘆願する。
「いや待て、抱かせる気はない。
まあ、馬には乗せるが……その傷は隠せる。
そんな魔導もある。
これはあくまでシルド劇団としての演技なのだ。
そう、頼むからーー悲しそうな顔をするのはやめてくれ」
シルドも一応、男である。
女の涙には弱かった。
いきなりいい気分で酒に酔い寝ていたら起こされてーー
与えれられたのがこれだ。
アルメンヌは心から吐き出すようにしてため息をつく。
「あの頃はまだ最下位に近いとはいえ、貴族だったのに。
旦那様からは失態を責められて離縁され、行く宛もなく旧知のエイシャを頼ればこれ、か‥‥‥」
なんてついてないんだろう、わたしは。
シルド様に抱かれるようになれと言われ近付けば拒否され、あんな高い場所に誘拐されそうになるし。
情婦にする気などないと言いながら、シルド様はこんなものを着せようとするし。
本当についていない。
「わたしはただ、この旅を無事に終わらせてそのまま、情婦か側室でいいからあの大公城のどこかで暮らせればそれで良かったのに。
なんでこうなったんだろう……」
ぼやいてもなにも解決しないことは分かっている。
彼女の主はこれを着ろ、そう言い付けたのだ。
こんなスリットの激しい服なんて‥‥‥下着なしに馬にまたがればどうなることか。
「はあー‥‥‥」
どうぞ、旦那様。
自分から諦め顔でアルメンヌはシルドを室内に迎え入れた。
窓から降り注ぐ‥‥‥月光が妙ななまめかしさを醸し出していてこれはこれで色気のある光景だった。
シルドはアルメンヌを上から下まで嘗め回すような視線で眺めた後に満足そうにうなづいた。
「うん、これなら文句はでまい」
その一言が我慢の限界に達していたアルメンヌの怒りに触れる。
南方の女性は気が短いのだ。
「なにが文句はでない、ですか!?
あれほど、エイシャが大事だと言いながらーー!!!
あなたは‥‥‥情婦にするつもりはないと言いつつ、どうせ。
どこかの領主にでもわたしを抱かせ、その気を引こうとそんなお考えなのでしょう!?」
は?
シルドは間の抜けた顔にはならないが、そういう手もあるな。
そんな一言が漏れ出てしまう。
「そんな、そんなー‥‥‥。
大公様ならばまだしも、どこぞの荘園の宗主だの、領主だのにまで手を出されるくらいなら‥‥‥」
「ならどうする、と?
だいたい、なんで僕ならいいんだ?
君のその姿は、こう言うと妻には怒られるが。
掛け値なしに美しいぞ?
他にも良い相手はいるだろう?
その‥‥‥傷を込みで考えても、だ」
そう言って下さるだけまだましですわ、そうアルメンヌは嘆息する。
「前回の帝国と王国との戦。
まだ数か月前ですが‥‥‥。
レブナス高家の麾下のある城を夫がいないまま籠城戦となり、南方大陸のある国の侵攻から守れませんでした。
いまは盛り返して奪い返したようですけどね。
おかげさまで、この傷も含めて、要らんと捨てられましたわ。
殿方の愛ってなんなのでしょうね、旦那様。
数年を過ごした間柄だったのに」
それは気の毒だったな‥‥‥こっちは新婚早々、こんな任務で愛し合う暇もないのだが。
シルドもまた、ため息をついた。
「旦那様がため息をつかれる理由なんてないじゃないですか。
明日からは、こんないい情婦を連れて馬の上で好きなようにわたしをいじれるんですから。
何より、この傷を見せることで情け深い主人だと人は思うでしょう。
エイシャの計画がどうかは知りませんけど。
そんなことに使われるなんて、恥ずかしいやら悲しいやら。
この責任は取って頂けるのでしょうか?」
「責任‥‥‥!?
いや、それはーー」
「だって、女ですよ、わたし。
これでも元貴族ですよ?
それを情婦扱いして他の男に抱かせる気なのでしょう?
内実を知るために?」
いくばくかの情けをいずれは与えて頂かねば困ります。
アルメンヌはそうシルドに嘆願する。
「いや待て、抱かせる気はない。
まあ、馬には乗せるが……その傷は隠せる。
そんな魔導もある。
これはあくまでシルド劇団としての演技なのだ。
そう、頼むからーー悲しそうな顔をするのはやめてくれ」
シルドも一応、男である。
女の涙には弱かった。
0
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる