突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第十七話 アルメンヌの嘆息 2

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「よし、わかった」
 シルドの判断ははやかった。
 えっ?
 アルメンヌに考える暇を与えなかった。
「では、脱いでベッドに入ってくれ」
 そう言うと、半ば無理矢理に、シルドはアルメンヌの服をはぎとろうとする。
「ちょっと、大公様!?
 そんないきなりなにを!!??」
 抵抗する必要がどこにあるんだ?
 そう意地悪く言ってやる。
 シルドはアルメンヌを、ドンっとベッドの上に肩を押して倒れこませた。
「なにをなさいます!?
 こんなご無体な!!」
 幸い、衣装は脱がされなかったが寝床の上の元順男爵夫人は足元を付け根まで露出させ、胸元は深く下げられており男性を誘うにはもってこいの姿をさらしていた。
「言ったな?
 いくばくかの情けを与えて貰わなければ困ります、と?」
 月明かりを背にしたシルドは近寄らずにそう言い放つ。
 アルメンヌには暴力に走る男性をそこに見た感があった。
 ここで犯されては元も子もない……
 まだ二十歳そこそこの同年代の男ならば、老人や倍以上の年上の見知らぬ男に抱かれるよりはーー
 そうアルメンヌが考えた時だ。
「随分と抗議の声を上げるわりには、君は自身を大事にする。
 そういう意識に欠けているようだな?」
 押し倒しておいてその言い草はないだろう。
 アルメンヌは特権階級の威勢を借りたこの男に怒りを抱いた。
 演技をさせると都合のいい言葉だけを並び立てて、やはり、彼も自分を捨てた前夫と同じように捨てる気なのだろう。そんな未来すら彷彿とさせる。
 これは文句を言わざるを得ない状況だった。
「旦那様、これはあまりにも‥‥‥為さり様がひどくはありませんか?」
 怒りの視線をしかし、シルドはうっすらと浮かべた悪い笑みで消し去ってしまう。
「為さり様?
 僕は大公で王でもある。
 君は女で臣下で家の物であり、更には自分から助けをもとめてきたのだろう? 
 その上で情けをくれ、そう嘆願する女がそんなセリフを吐く物かな?」
 まるで君は僕と対等に交渉している気分でいるように見えるよ、アルメンヌ?
 自嘲気味にシルドは笑い、
「まあ、僕もそうだな。
 王国を投げ出して妻に縋りついた。 
 そういう意味では、君と同じかもしれない」
 隣のベッドからかけ布団を取り上げるとそれをアルメンヌにかけシルドは、ベッドに座り込んだ。
「え‥‥‥??
 なにをされたいのですか?」
 アルメンヌはまたはぐらかすのか。
 そう、シルドをにらみつけた。
「なにをされたい?
 なにもされたくないよ。
 愛も無く、金で抱く娼婦ならこの街にはいくらでもいる。
 彼女たちの現状を知っているのかな、君は?」
 いきなりの質問にアルメンヌは戸惑い、
「なにをって。
 男性に身体を売るだけの卑しい仕事をーー」
 そう言い募るが、シルドは一笑にふした。
「違うなあ。
 まったく違う。
 君はさすが、元貴族様だ。
 その前は知らないよ、その太ももの傷にしても大変だな。
 そうは思うが同情はしない。代わりになにか手助けできることは探すけどな。
 娼婦の多くはその日暮らしの人間だ。
 しかも、農村などの裕福ではない出か、孤児などが多い。
 誰もが生きるために身体を売り、それで子供を養うことも多々ある。
 だが、君は間違っているよアルメンヌ」
「何が?
 何が間違いですか!?
 仕事がなければ、まっとうに働けばいいではないですか!!」
 シルドは悲しそうに頭を振る。
「言っただろう、多くは農村か孤児だと。
 税金や田畑を管理するために、売られて来たんだ。
 自分で選ぶ権利などなかったものが多い。
 その意味を君は理解できていないから言えるんだよ。
 いくばくかの情けを与えてくれ、とね」
 あ‥‥‥、とアルメンヌはシルドが言おうとすることを察して言葉を失ってしまった。
「帝国にはまだ奴隷制度もある。それは王国も同じだ。
 どこも税金だの、荘園だの貴族だの。 
 そんなもののお陰で下にいる人間がどうなっているか。
 それを見るのが今回の旅の目的だ、わかるかい?
 君を出汁に使うのは申し訳ないと思うが。
 誰かに抱かせるような真似も、触れさせる真似もさせない。
 もういまは離れた身だが、この銀鎖のシルドが確約しよう。
 ただーー」
 はあ、そうシルドもため息をついてしまう。
「ただ、なんですか‥‥‥旦那様?」
 そうだなあ、困ったように落ちようとしている月を見やり、
「元は単なる暴れん坊、そこからは恩人への復讐に生きた魔導士。
 そして、いまはようやく信頼できる妻を得て人間になれた気がするんだ。
 エイシャとの約束は聞かない。
 ただ、なあ。
 古い土地ほど、古いたぬきがいるんだ。
 あぶり出すには、仕掛けもいる。
 手伝ってくれないか?」
 明日までゆっくりと考えてくれ。嫌なら、エイシャの元に戻して大公城の中に住む部屋を用意する。
 そう言い、シルドは疲れ果ててしまったかのように隣のベッドに入ってしまった。
「一番大事なことを部下に任せてー‥‥‥。
 呆れた旦那様」
 アルメンヌはシルドにそっと布団をかけた。
 
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