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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第十四話 エイシャの計画 4

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 本当に、なんて無茶をするんだ君はーー‥‥‥
 そう嘆く夫の必死の転移魔導で戻ってきたのは、夫婦の寝室だった。
「なにが無茶ですか、イズバイアが何とかすると信じているから飛び込んだに決まっているでしょ??」
 あのまま、釣り竿の一撃を受けていればよかったのよ。
 本当に憎らしい人!!
 そうユニスは怒りながら、グレンの衣服を剥ぎ取ってしまう。
「おい、これくらいは自分でできるーー」
 わぶっ、と顔に投げつけられたのは大きめのバスタオルだ。
「なにが自分でできるですか。
 まったく、その銀毛の乾きにくいことと来たら。
 わたしのこの赤毛もそうだけど。
 本当にクセが強いんだから‥‥‥」 
 わっしわっしと、まるで嫌がる大型犬のシャワー後に拭き上げている気分だわ。
 ユニスはそう思いながら、自分も濡れた衣類を脱ぎ、
「少しは妻にも情けをかけようとは!?」
 そう怒鳴ってしまう。
 タオルはまだ数枚ありますよ!?
 傍のベッドの上には確かに用意されていた。
「ああ、おいで。
 僕が全部拭くからさ‥‥‥まるであの夜のようだな、ニアム」
 この赤い髪を水浸しにして、あの水に濡れて肌に張り付いて見えた衣装は何よりも彼女を輝かせていた。
 あの頃は皇太子殿下と呼ばれ、全部、シェイルズ任せだったが。
 いまは妻を泣かせるほどに酷い夫になっているのか?
「ねえ、イズバイア。
 あなたが公務を嫌がるのは分からないこともないわ‥‥‥
 闇の牙にいた時の数倍の判断と処理があるもの。
 エシャーナ公領だけではなく、ハーベスト大公領のものまでここには裁可がまわってくる。
 でも、わかってください‥‥‥」
 皇帝になれば、こんな余裕がないほどに忙しくなるということを。
「父上は帝国全土を上手くまとめているが、僕の世代ではそれも崩壊していることがある。
 ということは理解しているよ。だが、ここから出れないのではな‥‥‥」
「それは仕方ありません。
 あなたは死んだ身になっているのだから。
 その為に、シェイルズとシルドがそれぞれの領地を管理し、あなたに託す動きをしているのですよ。
 なのに、イズバイアったら‥‥‥アンリエッタがお好みならば夜に連れ込むのは嫌とは言いません。
 でも、公然とするのはやめてください」
「いや、それは誤解だ。
 本当に‥‥‥君しかみていないよ、ニアム」
「イズバイア‥‥‥」
 二人の身体が重なり合い、昼日中というのに情事に発展しようかとした。
「本当に仲がよろしいのですね、お姉様?」
 しかし、邪魔というものはいいところで入るからこそ邪魔というものであり。
 今回は、寝室に設置していた宝珠から、
「エイシャ!?
 あなたったらもうーー」
 自分よりも、グレンの身体を覆い隠すユニス。
 誰にも見せない、譲らない。
 そんな思いが見え隠れしていた。
 エイシャはその姉夫婦のなんだかんだ言って仲の良い部分に呆れ、嫌味を言ってやる。
「そんな、浮気しかされない殿下だったら先程言われていた、釣り竿の一撃くらい受け止めるべきですわ。
 我が家の旦那様のように‥‥‥」
 この発言には、姉夫婦が固まってしまう。
「まさか、あの威力を!?」
「シルド様に!!???」
「おい、まさかーーもう死んだりは‥‥‥????」
 はあ‥‥‥エイシャは呆れ果てて答えた。
「そんな危ない目に合わせるわけないでしょ?
 お姉様ではないのですから。
 我が家はせいぜい、まくらを投げつけるくらいです。
 まったく、早く子造りをなさいませ。
 年内にその朗報が無ければ、この大公領は終生戻しませんからね」
 年内ってもうギリギリではないか‥‥‥?
「まさか、出産まで、とはーー???」
「言いませんが、せめて懐妊ほどには。
 それでお姉様。
 アルメンヌの件ですけど。
 そろそろ、旦那様も気づかれるころですわよ。
 どうされますの?」
 エイシャは丸裸にタオルで隠しただけの姉夫婦のこの騒ぎを面白そうに見ながら言った。

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