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「……は、は、はくしょん! うう、エリー、これほど冷たい仕打ちを受けるとは……!」
噴水から這い上がり、濡れ鼠のようになったウィルフレッド王子が、ガタガタと震えながら私を睨みつけました。
豪華な衣装は水を吸って重く垂れ下がり、自慢の金髪は額にべったりと張り付いています。
その姿、判定。
「可哀想な王子様」というよりは、「川に落ちた泥人形」の方がしっくりきますわね。
「殿下、判定入りますわよ。……まず、その震え方。小刻みすぎて、リズム感が皆無です。寒さを表現するなら、もっとこう、全身を使ってダイナミックに震えないと、観客(私)の同情は買えませんわ。あと、鼻水が出ていますわよ。威厳点、ついにマイナス一兆点を突破いたしました!」
「な、鼻水だと!? ……うぐっ、これほど辱められて、私は……私は……!」
王子が膝をつき、悲劇のヒーローを気取ろうとしたその時。
隣で様子を見ていたマリア様が、スッと彼に歩み寄りました。
マリア様は、純真無垢な……それこそ聖女のような微笑みを浮かべ、王子の肩にそっと手を置きました。
「王子様。……私、ずっと言いたいことがあったんですの」
「お、お、マリア……! やはりお前だけだ、私の味方は! さあ、この無礼な女を一緒に責めて……」
「いいえ、王子様。私、気づいてしまいましたの。……王子様って、とっても『残念』ですわよね」
静寂。
王宮の裏庭に、王子の心がピキリとひび割れる音が響いた気がいたしました。
「……え? ざ、残念……?」
「はい! だって御覧なさい。エリー様は、お一人でもあんなに凛々しくて、お口も回って、悪い人をバシバシやっつけて格好いいのに。王子様は、噴水に飛び込んで風邪を引くことしかできませんもの。……正直に申し上げますと、今の王子様より、エリー様の方が百倍くらい『格好いい』ですわ!」
「……判定、入りましたぁぁぁ! マリア様による、無自覚かつ致命的なトドメの一撃! 『格好いい』の比較対象が私という時点で、殿下の男としてのプライドは粉砕! 玉砕! 大喝采ですわよ!」
私は思わず、手に持っていた扇子を勢いよく開きました。
「マリア様、今の発言。純度百パーセントの『真実』ゆえに、回避不能なクリティカルヒットですわ! 殿下、聞きました? あなたが寵愛していた聖女様から、『残念』の判決が下されましたわよ! 今のお気持ちを、五七五で表現していただけますかしら?」
「……そんな、バカな……。マリア……お前、私を愛しているのでは……」
「愛していますわよ? でも、それとこれとは別問題ですわ! やっぱりエリー様の方が、リーダーシップもあって、お声も通って、何より迷子にならないのが素敵ですもの。王子様、私、今日からエリー様の『一番弟子』として生きていくことに決めましたわ!」
「い、一番弟子!? 勝手に私の陣営を引き抜くな!」
王子が叫びましたが、その声にはもう力がありませんでした。
マリア様は私の方へ駆け寄ってくると、私の腕にギュッとしがみつきました。
「エリー様! 私、王子様よりもエリー様に褒められたい……いえ、ダメ出しされたいですわ! もっと私の残念なところを実況してくださいまし!」
「マリア様。……今の弟子入り宣言、判定は『保留』ですけれど。とりあえず、その王子の絶望した表情をスケッチする間、静かにしていらして? ほら、カイン様も御覧なさい。殿下の魂が、口から五ミリほどはみ出していますわよ」
カイン様は相変わらずの無表情でしたが、わずかに肩を震わせていました。
「……確かに。……これほどまでに完膚なきまでに叩きのめされる殿下を見るのは、近衛騎士としての職務を忘れるほどに、愉快な光景だな」
「カインまで……! う、うわあああああん!」
王子はついに子供のように泣き出し、びしょ濡れのまま走り去っていきました。
その後ろ姿、判定。
「逃げる敗走兵」というよりは、「お母さんとはぐれた迷子」でしたわね。
「……さて、マリア様。殿下を泣かせて満足ですの?」
「はい! これで心置きなく、エリー様に集中できますわ! 師匠、次のお掃除の修行はどこですか!?」
「……お掃除ではありませんわよ。次は、監察官としての『報告書の整理』のガヤを入れていただきますわ。……ただし、一文字でも間違えたら、その度に私のマシンガントークが、あなたの鼻水の跡を実況して差し上げますから、覚悟なさいな!」
「ひ、ひえええっ! 喜んで!」
こうして、王子のプライドは星屑となって消え、なぜか私の横には「最強の(?)弟子」が居座ることになったのでした。
(……全く。王子の自爆実況、最後の方は可哀想すぎて、ツッコミを入れる私の心も少しだけ……いえ、一ミリも痛みませんでしたわ!)
私は爽快な気分で、マリア様を引き連れて、カイン様の待つ詰所へと戻るのでした。
噴水から這い上がり、濡れ鼠のようになったウィルフレッド王子が、ガタガタと震えながら私を睨みつけました。
豪華な衣装は水を吸って重く垂れ下がり、自慢の金髪は額にべったりと張り付いています。
その姿、判定。
「可哀想な王子様」というよりは、「川に落ちた泥人形」の方がしっくりきますわね。
「殿下、判定入りますわよ。……まず、その震え方。小刻みすぎて、リズム感が皆無です。寒さを表現するなら、もっとこう、全身を使ってダイナミックに震えないと、観客(私)の同情は買えませんわ。あと、鼻水が出ていますわよ。威厳点、ついにマイナス一兆点を突破いたしました!」
「な、鼻水だと!? ……うぐっ、これほど辱められて、私は……私は……!」
王子が膝をつき、悲劇のヒーローを気取ろうとしたその時。
隣で様子を見ていたマリア様が、スッと彼に歩み寄りました。
マリア様は、純真無垢な……それこそ聖女のような微笑みを浮かべ、王子の肩にそっと手を置きました。
「王子様。……私、ずっと言いたいことがあったんですの」
「お、お、マリア……! やはりお前だけだ、私の味方は! さあ、この無礼な女を一緒に責めて……」
「いいえ、王子様。私、気づいてしまいましたの。……王子様って、とっても『残念』ですわよね」
静寂。
王宮の裏庭に、王子の心がピキリとひび割れる音が響いた気がいたしました。
「……え? ざ、残念……?」
「はい! だって御覧なさい。エリー様は、お一人でもあんなに凛々しくて、お口も回って、悪い人をバシバシやっつけて格好いいのに。王子様は、噴水に飛び込んで風邪を引くことしかできませんもの。……正直に申し上げますと、今の王子様より、エリー様の方が百倍くらい『格好いい』ですわ!」
「……判定、入りましたぁぁぁ! マリア様による、無自覚かつ致命的なトドメの一撃! 『格好いい』の比較対象が私という時点で、殿下の男としてのプライドは粉砕! 玉砕! 大喝采ですわよ!」
私は思わず、手に持っていた扇子を勢いよく開きました。
「マリア様、今の発言。純度百パーセントの『真実』ゆえに、回避不能なクリティカルヒットですわ! 殿下、聞きました? あなたが寵愛していた聖女様から、『残念』の判決が下されましたわよ! 今のお気持ちを、五七五で表現していただけますかしら?」
「……そんな、バカな……。マリア……お前、私を愛しているのでは……」
「愛していますわよ? でも、それとこれとは別問題ですわ! やっぱりエリー様の方が、リーダーシップもあって、お声も通って、何より迷子にならないのが素敵ですもの。王子様、私、今日からエリー様の『一番弟子』として生きていくことに決めましたわ!」
「い、一番弟子!? 勝手に私の陣営を引き抜くな!」
王子が叫びましたが、その声にはもう力がありませんでした。
マリア様は私の方へ駆け寄ってくると、私の腕にギュッとしがみつきました。
「エリー様! 私、王子様よりもエリー様に褒められたい……いえ、ダメ出しされたいですわ! もっと私の残念なところを実況してくださいまし!」
「マリア様。……今の弟子入り宣言、判定は『保留』ですけれど。とりあえず、その王子の絶望した表情をスケッチする間、静かにしていらして? ほら、カイン様も御覧なさい。殿下の魂が、口から五ミリほどはみ出していますわよ」
カイン様は相変わらずの無表情でしたが、わずかに肩を震わせていました。
「……確かに。……これほどまでに完膚なきまでに叩きのめされる殿下を見るのは、近衛騎士としての職務を忘れるほどに、愉快な光景だな」
「カインまで……! う、うわあああああん!」
王子はついに子供のように泣き出し、びしょ濡れのまま走り去っていきました。
その後ろ姿、判定。
「逃げる敗走兵」というよりは、「お母さんとはぐれた迷子」でしたわね。
「……さて、マリア様。殿下を泣かせて満足ですの?」
「はい! これで心置きなく、エリー様に集中できますわ! 師匠、次のお掃除の修行はどこですか!?」
「……お掃除ではありませんわよ。次は、監察官としての『報告書の整理』のガヤを入れていただきますわ。……ただし、一文字でも間違えたら、その度に私のマシンガントークが、あなたの鼻水の跡を実況して差し上げますから、覚悟なさいな!」
「ひ、ひえええっ! 喜んで!」
こうして、王子のプライドは星屑となって消え、なぜか私の横には「最強の(?)弟子」が居座ることになったのでした。
(……全く。王子の自爆実況、最後の方は可哀想すぎて、ツッコミを入れる私の心も少しだけ……いえ、一ミリも痛みませんでしたわ!)
私は爽快な気分で、マリア様を引き連れて、カイン様の待つ詰所へと戻るのでした。
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