婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの

文字の大きさ
21 / 28

21

しおりを挟む
「……は、は、はくしょん! うう、エリー、これほど冷たい仕打ちを受けるとは……!」


噴水から這い上がり、濡れ鼠のようになったウィルフレッド王子が、ガタガタと震えながら私を睨みつけました。


豪華な衣装は水を吸って重く垂れ下がり、自慢の金髪は額にべったりと張り付いています。
その姿、判定。
「可哀想な王子様」というよりは、「川に落ちた泥人形」の方がしっくりきますわね。


「殿下、判定入りますわよ。……まず、その震え方。小刻みすぎて、リズム感が皆無です。寒さを表現するなら、もっとこう、全身を使ってダイナミックに震えないと、観客(私)の同情は買えませんわ。あと、鼻水が出ていますわよ。威厳点、ついにマイナス一兆点を突破いたしました!」


「な、鼻水だと!? ……うぐっ、これほど辱められて、私は……私は……!」


王子が膝をつき、悲劇のヒーローを気取ろうとしたその時。
隣で様子を見ていたマリア様が、スッと彼に歩み寄りました。


マリア様は、純真無垢な……それこそ聖女のような微笑みを浮かべ、王子の肩にそっと手を置きました。


「王子様。……私、ずっと言いたいことがあったんですの」


「お、お、マリア……! やはりお前だけだ、私の味方は! さあ、この無礼な女を一緒に責めて……」


「いいえ、王子様。私、気づいてしまいましたの。……王子様って、とっても『残念』ですわよね」


静寂。
王宮の裏庭に、王子の心がピキリとひび割れる音が響いた気がいたしました。


「……え? ざ、残念……?」


「はい! だって御覧なさい。エリー様は、お一人でもあんなに凛々しくて、お口も回って、悪い人をバシバシやっつけて格好いいのに。王子様は、噴水に飛び込んで風邪を引くことしかできませんもの。……正直に申し上げますと、今の王子様より、エリー様の方が百倍くらい『格好いい』ですわ!」


「……判定、入りましたぁぁぁ! マリア様による、無自覚かつ致命的なトドメの一撃! 『格好いい』の比較対象が私という時点で、殿下の男としてのプライドは粉砕! 玉砕! 大喝采ですわよ!」


私は思わず、手に持っていた扇子を勢いよく開きました。


「マリア様、今の発言。純度百パーセントの『真実』ゆえに、回避不能なクリティカルヒットですわ! 殿下、聞きました? あなたが寵愛していた聖女様から、『残念』の判決が下されましたわよ! 今のお気持ちを、五七五で表現していただけますかしら?」


「……そんな、バカな……。マリア……お前、私を愛しているのでは……」


「愛していますわよ? でも、それとこれとは別問題ですわ! やっぱりエリー様の方が、リーダーシップもあって、お声も通って、何より迷子にならないのが素敵ですもの。王子様、私、今日からエリー様の『一番弟子』として生きていくことに決めましたわ!」


「い、一番弟子!? 勝手に私の陣営を引き抜くな!」


王子が叫びましたが、その声にはもう力がありませんでした。
マリア様は私の方へ駆け寄ってくると、私の腕にギュッとしがみつきました。


「エリー様! 私、王子様よりもエリー様に褒められたい……いえ、ダメ出しされたいですわ! もっと私の残念なところを実況してくださいまし!」


「マリア様。……今の弟子入り宣言、判定は『保留』ですけれど。とりあえず、その王子の絶望した表情をスケッチする間、静かにしていらして? ほら、カイン様も御覧なさい。殿下の魂が、口から五ミリほどはみ出していますわよ」


カイン様は相変わらずの無表情でしたが、わずかに肩を震わせていました。


「……確かに。……これほどまでに完膚なきまでに叩きのめされる殿下を見るのは、近衛騎士としての職務を忘れるほどに、愉快な光景だな」


「カインまで……! う、うわあああああん!」


王子はついに子供のように泣き出し、びしょ濡れのまま走り去っていきました。
その後ろ姿、判定。
「逃げる敗走兵」というよりは、「お母さんとはぐれた迷子」でしたわね。


「……さて、マリア様。殿下を泣かせて満足ですの?」


「はい! これで心置きなく、エリー様に集中できますわ! 師匠、次のお掃除の修行はどこですか!?」


「……お掃除ではありませんわよ。次は、監察官としての『報告書の整理』のガヤを入れていただきますわ。……ただし、一文字でも間違えたら、その度に私のマシンガントークが、あなたの鼻水の跡を実況して差し上げますから、覚悟なさいな!」


「ひ、ひえええっ! 喜んで!」


こうして、王子のプライドは星屑となって消え、なぜか私の横には「最強の(?)弟子」が居座ることになったのでした。


(……全く。王子の自爆実況、最後の方は可哀想すぎて、ツッコミを入れる私の心も少しだけ……いえ、一ミリも痛みませんでしたわ!)


私は爽快な気分で、マリア様を引き連れて、カイン様の待つ詰所へと戻るのでした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから

ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。 彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ! ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

処理中です...