辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた

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31.会話

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「グリニア国、国王が末子アーサー・アンドリュー・ヘルハルト・ルセンディア伯爵だ」
 馬車の中から苛立ちを含んだ声が聞こえたが、使者もレオニダスも無視した。
「ルセンディア伯爵をお引き受けした。屋敷へ案内しよう」
 レオニダスは、そう言って愛馬に跨ると、屋敷への道を駆け足で進んだ。

「2週間だ――わかるか?2週間もの間、あの悪路を耐えたのだぞ」
 ルセンディア伯爵が屋敷に滞在し始めて5日が過ぎた。
 毎日同じ時間に茶に付き合っているからか、ルセンディア伯爵――アーサーはマルグリットに心を開き始めたのか、どちらでも構わないが愚痴をこぼす用になっていた。
「わたくしもその道を参りましたわ」
 愚痴と言ってもこの程度だが。
 レオニダスが憎む相手というから、どれほど悪辣な人間かと思ったが、アーサーは紳士的な振る舞いを好む人物だった。
 マルグリットが用意した狐のガウンはお気に入りのようで、昼も――この瞬間ですら羽織っている。
 レオニダスよりも2歳年上の金色の髪を面倒くさそうに一つに結んでいるこの男は、興味深さを隠すつもりもなく、その青い目でマルグリットを観察していた。
「あのヴァルデン辺境伯がああも変わったのは、君のおかげなのかな」
「そのような馴れ馴れしい呼び方はおやめくださいまし」
「すまない」
 笑いを含んだ物言いがなくても揶揄っているのはわかる。
 マルグリットは表情も変えずにハーブや花を調合した茶を飲んだ。
「この茶は素晴らしいな」
 アーサーも気に入ったらしく、マルグリットとの茶のときは必ずこの茶を要望したほどだ。
「ご所望の書物ですが、屋敷の蔵書にございましたので、このあと届けさせますわ――では、楽しい時間をありがとうございました」
 空になった茶器を置くと、マルグリットは立ち上がって開けたままの扉から出ていった。
 扉が閉められると、アーサーは残った茶を一気に流し込んだ。

「今日もあいつに付き合ってたのか」
 国境から戻ったレオニダスは不機嫌そうにマルグリットに言った。
「そうですわね。つまらない話を何度も繰り返しておられましたわ――足をお洗いします」
 桶に湯を張って準備が終わると、マルグリットはレオンを寝台に座らせた。
 靴を脱がせると汗と革の混じり合った匂いがする。
 マルグリットはそれをゆっくりと湯で洗い流すと、足の指からゆっくりと揉みほぐしていく。
 くすぐったいのか、レオンは体をぴくりと反応させるが、表情は真面目くさってマルグリットを見ている。
 レオンの大きくて硬い足は、マルグリットの小さな柔らかい手ではとても揉みほぐすのは無理なのだが、それでもレオンのためになにかしたいと初めたことだった。
 レオンもまた、マルグリットが跪き自分の足を一生懸命に揉みほぐそうとするのを見るのは好きだった。
「ああ、そういえばレオン様。ルセンディア伯爵はランバート男爵のことを話しておられましたわ。仲が良いご様子でした」
「ランバート……たしか隣の領で身柄を預かってる奴だ」
「乳兄弟のようですわ」
「なるほど」
 レオンは身をかがめると、マルグリットの体を軽々と持ち上げて寝台に引き上げた。
「さすがはヴァルデン辺境伯の奥方だ」
 そう言うとマルグリットの唇に口付けをする。
「わたくしはただ、お茶をしているだけですわ」
「俺以外の男とな」
「客人の相手を務めるのも女主人の役目でしてよ?」
 マルグリットが微笑むと、レオンはマルグリットの体に自身を強く押し付けた。
「君が刺激したんだ――わかるな?」
 レオンの言葉に、マルグリットは頬を赤くして頷いた。
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