悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第二章 少女期 瘴気編

第二百四十五話 噛み合わぬ想い

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『ユミリアちゃん……』


 聞こえたのは、女性の声。恐らくは、私の母だと紹介された人なのだろう。
 彼女は、そっと私が眠るベッドまで近づいて、ベッドの横に置いてある椅子へと腰かける。


『良かった……ユミリアちゃんは、ちゃんと、ここに居る……』


 そっと私の右手に触れる、細く、温かな手。今、目を開ける勇気はないので、とりあえず、狸寝入り続行だ。


『私は、ユミリアちゃんのことが大切なのに、命の恩人でもあるのに、どうして、いつもいつも、何の手助けもできないのかしら……』


 どこか悲しみに満ちた声が聞こえる。内容が分からないのはもどかしいが、分かったとしても、どう反応して良いのか分からなくなりそうではある。


『子供の成長は早いと聞くけど、ユミリアちゃんもギリアも、早すぎますわ。もっと、ゆっくりで良いのですよ?』


 そうかと思えば、どこか拗ねたような色が混ざった声になる。
 怖々といった様子で、そっと頭を撫でられて、しばらくは、大人しくする。


『私には、戦いのための直接的な力はありません。権力はあれど、それだって、ガイアス様には劣ります。知識量は、なぜか王妃教育の内容まで学んでいるユミリアちゃんほどはありません』


 とても、とても、穏やかで優しい声。今は離れ離れになってしまったものの、それは、母を思い出させるには十分なものであり、少しだけ、胸が締め付けられる。


『ですが、それでも、一番の力は持たずとも、ユミリアちゃんの力になれる何かを、必死に考えてきました』

(お母さん……どうしてるかな……?)

『貴族の女であるからには、私は、貴族の女らしいやり方で、ユミリアちゃんを守ってみせましょう。今は特に、記憶がないようですから、なおさらに、ね』


 お母さんと比べれば、このミリアという人は、とても美人だし、細いし、繊細そうだ。もしかしたら、早くユミリアとしての記憶を戻してほしいと願って、ここに来たのかもしれない。しかし……。


(私は……帰りたい……)


 ユミリアとして望まれていても、とても素敵な婚約者が居ても、新たな友人ができたとしても、私の望みはただ一つ。日本に帰りたい、それだけだった。
 帰って、華と何でもないことを話したり、喧嘩したりしたい。お母さんから時々叱られながら、華と一緒に甘えたい。友人だって何人も居るから、友人達と遊びたい。やりたいゲームもまだまだあるし、観たいテレビやマンガもある。未練はたっぷりで、聞き分けることなんてできない。


『私の愛しい娘。もう、どこにも行かないで』

(早く、日本へ帰りたい)


 食い違う想いに、お互いが気づくことはない。平和で、穏やかな夜。
 私は、ミリアさんが去った後、しばらくは家族のことを想い続け……いつの間にか、深い眠りに落ちていった……。
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