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第19話 奥多摩に魔物あふれる

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朝、午前五時。
魔王城の会議室に、緊急召集がかかった。
四天王、フラーラ、メリーナ、グンナル、そして俺とイグニス。
全員が、疲れた顔で集まっている。
カオスが、モニターに園内の地図を表示する。
「現状を報告する」
彼の声は、いつもより低い。

「イグニス様が召喚した魔物は、合計三十七体」
画面に、赤い点が表示される。
「ゴブリン二十体、オーク八体、ホブゴブリン五体、ウルフ四体」
「全て、エルフの森エリアに集中している。まだ、他のエリアには拡散していない」
アイアン・ガーディアンが続ける。
「幸い、魔物たちは森から出ていない。森の結界が、かろうじて機能している」
「結界?」
俺が聞く。

「ああ。エルフの森エリアには、魔物を閉じ込めるための簡易結界が張ってある」
カオスが説明する。
「万が一の事態に備えて、フラーラが設置したものだ」
フラーラさんが頷く。
「でも、あの結界は一時的なもの。あと数時間で崩れるわ」
「つまり……」
「ああ。開園時間の午前十時までに、魔物を処理しなければならない」
マネーゼンが電卓を叩く。
「残り五時間。時間がない」

「でも、大丈夫です」
カオスが、少し安心した表情を見せる。
「イグニス様が召喚した魔物程度なら、再召喚で簡単に魔界に戻せる」
「再召喚?」
「ああ。召喚魔法の逆。召喚した魔物を、元の場所に送り返す魔法だ」
カオスが杖を掲げる。
「私が魔法陣を展開して、一気に全ての魔物を魔界に送り返す。三十分もあれば終わる」
「それなら、問題ないじゃないですか」
「ああ。だから、開園までには間に合う」
その言葉に、全員が安堵のため息をつく。
でも、俺は考えていた。
せっかく魔物が現れたのに、ただ消すだけ?
それは、もったいない気がする。
「あの、提案があるんですけど」
俺が手を上げる。
「なんだ?」
カオスが振り向く。
「魔物は、簡単に魔界に戻せるんですよね?」
「ああ」

「だったら、討伐イベントにしませんか?」
「討伐イベント?」
全員が、俺を見る。
「はい。魔物を安全にコントロールしながら、来場者に討伐する様子を見せるんです」
「……どういうことだ?」
カオスが眉をひそめる。
「まず、オーガの皆さんやミノタウルスさんたちに、魔物の行動をコントロールしてもらうんです」
俺は、ホワイトボードに図を描く。
「魔物たちを、エルフの森エリア内に留めたまま、来場者が安全に観戦できるようにする」
「そして、フラーラさんやグンナルさん、四天王の皆さんも参加して、大規模な討伐イベントとして、戦いながら再召喚をして魔界に戻すようにするんです」
「しかし……」
カオスが腕を組む。
「来場者が危険では?」
「だから、魔物の行動をコントロールするんです。攻撃は当たらないように、でも迫力は出すように」
俺は続ける。

「それに、昨夜のイグニス様のライブ配信。あれを、演出ということにしましょう」
「演出?」
「はい。『異世界ランドが、超リアルな特殊効果を使った緊急イベントを開催』という設定です」
マネーゼンが、目を輝かせる。
「……なるほど。昨夜の配信を、宣伝に使うのか」
「はい。そして、ストーリーも作りましょう」
俺は、アイデアを話し始める。

「人族として静かに暮らそうとしていた元魔王が、スタンピードが起きたため、仕方なく再び魔王の姿に戻る」
「そして、勇者や冒険者たちと協力して、魔物を討伐する」
「最後は、魔王が『人も魔も、共に生きる世界を』と宣言して、魔物を鎮める」
「……面白い」
カオスが、眼鏡を光らせる。
「それなら、昨夜の配信も、イベントの予告編として扱える」

「でも、佐伯くん」
アイアン・ガーディアンが心配そうに言う。
「お前も参加するつもりか? 危険だぞ」
「はい。だって、俺が魔王役ですから」
「しかし……」
「大丈夫です。それに……」
俺は、フラーラさんを見る。
「フラーラさんが、一緒にいてくれますよね?」
フラーラさんが、少し驚いたような顔をする。
それから、微笑む。

「ええ。もちろん」
フラーラさんが立ち上がる。
「普通の人間のあなたには少し危険だけど……私がずっと一緒なら、大丈夫よ」
その言葉に、俺の胸が温かくなる。
「ありがとうございます」
「私も参加します!」
メリーナが、勢いよく立ち上がる。
そして、案の定。
どさっ!
裾を踏んでバランスを崩して、テーブルに倒れ込んだ。

「きゃあ!」
「メリーナ……」
フラーラさんが呆れたようにため息をつく。
「ご、ごめんなさい……でも、私も聖女として戦います!……たぶん!」
メリーナが、照れくさそうに笑う。
「たぶんって……」
「まあ、メリーナがいれば、怪我人の治療もできる」
カオスが納得する。
「それに、客受けもいいだろう」

グンナルが、拳をテーブルに叩きつける。
「よし! 俺たちドワーフも参加するぞ!」
「グンナルさんも?」
「ああ! 魔物討伐は、ドワーフの得意分野だ!」
グンナルが豪快に笑う。
「それに、武器の実演にもなる。一石二鳥だ!」
「ありがとうございます!」
俺は、みんなの協力に感謝する。

その時、マネーゼンが立ち上がった。
「待て。この企画、収益化できる」
「収益化?」
「ああ。動画撮影をして、後日配信する。それに、イベント参加料も取れる」
マネーゼンが電卓を叩き始める。
「通常入場料に加えて、イベント参加料を一人千円とする。予想来場者数……」
カタカタカタ!
「……最低でも五百人。つまり、五十万円の追加収入だ」

「それに、動画の再生回数が百万回を超えれば、広告収入も……」
マネーゼンの目が、金貨のマークになっている。
「マネーゼン、落ち着け」
カオスが止める。
「確かに収益化は魅力的だが、初めての企画なのだ。今回は一般参加者は無しだ」
「ううむ、仕方ないか」
「よし、決まりだな」
アイアン・ガーディアンが力強く頷く。
「魔物の森でスタンピード発生! 緊急レイドイベントだ!」

会議が終わり、準備が始まった。
まず、オーガとミノタウルスに連絡を取る。
「おう、低級魔物のコントロールか? 簡単なことだ。任せろ」
ミノタウルスが、力強く頷く。
「俺たちが、魔物の動きを調整してやる」
オーガたちも、賛成してくれる。
「面白そうだな。久しぶりに、本気で動けるぜ」
次に、スタッフへの説明。

異世界ランドの全スタッフが集められた。
冒険者役、村人役、ギルドの受付嬢。
田中さんも、不安そうな顔をしている。
「今日は、緊急イベントを開催します」
俺が、前に立って説明する。
「エルフの森で、スタンピードが発生したという設定です」
「スタンピード……?」
田中さんが聞く。

「はい。魔物の大量発生です」
「それで、冒険者や村人の皆さんには、恐怖に引き攣った顔で逃げてもらいます」
「逃げる……演技ですよね?」
「はい。でも、本気で怖がってください。リアルに」
俺は、資料を配る。
「セリフも用意しました。『魔物だ!』『逃げろ!』『助けてくれ!』など」
スタッフたちが、資料を見る。

「それと、田中さん」
「はい?」
「田中さんたちには、動画撮影をお願いします」
「動画撮影?」
「はい。離れた安全な場所から、イベントの様子を撮影してください」
「わかりました」
田中さんが頷く。
「カメラは、三台用意しています。異なる角度から撮影してください」
「了解です」

準備が進む中、俺はイグニスと二人で話す機会があった。
イグニスは、ずっと俯いていた。
「イグニス様」
「……何だ」
「今日のイベント、手伝ってもらえますか?」
「……俺が?」
「はい。冒険者役としてですが」
イグニスが、顔を上げる。
「でも、俺……昨日、迷惑をかけたばかりで……」

「大丈夫です。今日は、一緒に頑張りましょう」
俺は、イグニスの肩を叩く。
「あなたも、魔王の血を引く者として。力を貸してください」
イグニスの目が、少し輝く。
「……わかった。やるよ」
「ありがとうございます」
俺は、微笑む。
イグニスも、少しだけ笑った。

午前八時。
全ての準備が整った。
魔物たちは、オーガとミノタウルスによってコントロールされている。
スタッフたちも、配置についた。
カメラも、セット完了。
「では、リハーサルを始めよう」
カオスが指示を出す。
俺は、魔王の衣装を着る。
黒いローブ、金の装飾、重厚なマント。

フラーラさんも、エルフの衣装で隣に立つ。
「準備はいい?」
「はい」
メリーナも、白い聖女の衣装で待機している。
「頑張ります!」
グンナルたちドワーフも、武器を手に構えている。
「いつでも来い!」
四天王も、それぞれの位置につく。
カオス、アイアン・ガーディアン、ミス・シャドウ、フォン・マネーゼン。

「よし、行くぞ」
カオスが合図を出す。
エルフの森の入口に、魔法の結界が解かれる。
魔物たちが、ゆっくりと姿を現し始める。
ゴブリン、オーク、ホブゴブリン、ウルフ。
スタッフたちが、演技で叫ぶ。
「魔物だー!」
「逃げろー!」
「助けてくれー!」

恐怖に引き攣った顔で、逃げ惑う。
その演技が、妙にリアルだ。
魔物たちが、追いかけてくる。
でも、オーガとミノタウルスがコントロールしているので、絶対に当たらない。
でも、その迫力は本物だ。
「すごい……」
俺は、その光景に圧倒される。
これが、本物の魔物との戦いなのか。

「佐伯、行くわよ」
フラーラさんが、弓を構える。
「はい!」
俺も、剣を抜く。
プラスチック製だが、見た目は本格的だ。
「魔王として、魔物を鎮めるのよ」
「わかりました」
俺たちは、魔物たちの前に立つ。
リハーサルが、始まった。

午前九時。
リハーサルが終わり、全員が納得する。
「完璧だ」
カオスが満足そうに頷く。
「これなら、本番も大丈夫だろう。来場者を守る結界も、今の位置でいい」
「ああ。かなり近くで見れるので、客も喜ぶはずだ」
アイアン・ガーディアンも同意する。
「では、開園まであと一時間。最終確認だ」
全員が、配置につく。

俺は、フラーラさんの隣に立つ。
「フラーラさん」
「何?」
「今日は、よろしくお願いします」
「ええ。こちらこそ」
フラーラさんが微笑む。
その笑顔が、いつもより柔らかい気がした。
「あなたを、絶対に守るから」
「ありがとうございます」
俺も、微笑む。

午前十時。
開園のアナウンスが流れる。
「本日も、奥多摩異世界ランドをお楽しみください」
来場者が、続々と入ってくる。
そして、エルフの森の入口に、大きな看板。
「緊急イベント! 魔物の森スタンピード討伐戦!」
来場者たちが、目を輝かせる。
「うわ、イベントだ!」
「見に行こう!」

俺は、深呼吸する。
これから、本番だ。
魔王として、魔物を鎮める。
フラーラさんと、一緒に。
「行きましょう」
フラーラさんが、俺の手を握る。
「はい」
俺たちは、エルフの森へ向かった。
史上最大の、異世界体験イベントが、今、始まる。
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