ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第16話 不本意な叙勲式

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王宮、叙勲式の準備室。
私は今、鏡の中に映る自分を見て、人生最大の「投資失敗」を確信していた。
白を基調とした、金糸がふんだんに使われた豪華なドレス。 
エルデンバッハ公爵家の紋章が刻まれた、重すぎるティアラ。

(……重い。物理的に重いのはもちろんだけど、この『名誉』という名の不良債権が重すぎて、首が折れそうだわ)
私は深く、深いため息をついた。 

隣では、ソフィがうっとりと私の姿を眺めている。
「お嬢様、本当にお美しいです……! まさに平和を司る女神そのもの。国民の皆様も、魔法通信の中継を今か今かと待っていますわ!」
「……中継? 魔法通信で、全国に流してるの?」
「ええ。陛下が『リゼット嬢の気高い姿を、王国全土に焼き付けるのだ』と仰って」
(……〇ね。いや、マスコミ(広報)が〇ね。私の顔をこれ以上売ってどうするのよ。隠居先で顔バレしたら、サイン攻めに合うじゃない!)

私は、鏡の中の自分を睨みつけた。 
徹夜明けから一週間、十分な休息も取れぬまま、叙勲式の準備に追われていたせいで、私の目は「死んだ魚の瞳」のように濁っている。
(よし……。この死んだような表情、きっと不気味に見えるはず。
これで『怖い女』認定されれば、少しは評価(レーティング)も下がるはずだわ)

ファンファーレが鳴り響き、大広間の扉が開く。
私は大理石の廊下を、一歩一歩踏みしめるように歩いた。 

周囲には、着飾った貴族たちが並び、熱狂的な拍手で私を迎える。
(……重い。ドレスが重すぎる。フェラーリ488GTBの総重量より重いんじゃないかしら。加速性能ゼロだわ、これ)

檀上に上がると、そこには満面の笑みを浮かべた国王陛下が待っていた。
「リゼット・フォン・エルデンバッハ嬢、前へ」
私は、膝をつき、頭を垂れた。 

疲労のあまり、もはや表情を作る余裕もない。
ただただ、無表情(ポーカーフェイス)を貫く。
「君の功績は、一国の騎士団にも勝る。君の知略と、平和への不屈の意思に……我らエルデンリヒ王家は、心からの敬意を表す。ここに『王国平和勲章』を授与する」

首にかけられた勲章は、ずっしりと重たく、そして冷たかった。
「……ありがとうございます、陛下」
私は、掠れた声で短く答えた。 
感動も、喜びも、一切見せない。
ただ、早く終わってほしいという一心で、虚空を見つめていた。

すると、会場に異様な静寂が広がった。 
観客席の貴族たちが、息を呑んで私を見つめている。

(……あれ? 何か失礼なことしたかしら。まあいいわ、嫌われるのが目的だし)

だが、魔法通信を通じて中継を見ていた国民たちの反応は、私の予想を遥かに超えていた。
「……見て。リゼット様、あんなに大きな功績を立てたのに、笑顔一つ見せないわ」
「……それどころか、あんなに凛として、無表情で……。平和を守るために、どれほどの孤独と戦ってきたのか、その覚悟が伝わってくるようだ」
「あの方は、自分の手柄なんてどうでもいいんだ。ただ、国が救われたことに安堵し、沈黙を守っていらっしゃるんだわ!」

(……はあああああああ!? 違う、ただ眠いだけだっての!!)
「これより、リゼット様は国民よりこう呼ばれるだろう! 『沈黙の賢者』! 雄弁に語らず、行動で真実を示す者!!」
アナウンサーの絶叫と共に、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

(……沈黙の賢者(笑)。ただの疲労困憊だっての。この国の人間、ポエマー(詩人)しかいないのかしら!?)

【解析:リゼットの格付け】 
・二つ名:沈黙の賢者(新規取得) 
・国民支持率:九九・八%(ほぼ国教レベル) 
・不労所得計画:完全にデフォルト(不履行)

式典の後。 私は、足をもつれさせながら控え室に戻ろうとした。 

そこへ、黄金のオーラを纏ったアルフォンスが、感極まった顔で駆け寄ってくる。
「リゼット……! 君は本当に、底が知れないな」

(……底? 睡眠不足の底なら、今まさに突き抜けたところよ)

「君が檀上で見せたあの表情……。あれを見て、私は確信した。君の隣に並ぶためには、私はもっと、もっと成長しなければならないと。……リゼット、君を誇りに思う」

(……誇りに思わなくていいから、有給休暇をください)

アルフォンスは、私の冷え切った手を温めるように包み込んだ。 
その瞳は、もはや恋というよりも「信仰」に近い輝きを放っている。

(……やばい。これ、婚約解消なんて切り出したら、私が異端審問にかけられるレベルだわ……)

廊下の角で、マリアちゃんと遭遇した。 彼女は、うつむいたまま、震える手でハンカチを握りしめていた。
「……リゼット様」
「マリア様。……お疲れ様ですわ(私は、もう限界です)」
私は、死神のような顔で彼女を通り過ぎようとした。 すると、マリアが小さな、だが鋭い声で言った。
「……私、決めたんです。リゼット様」

(……え、何を?)

「リゼット様に相応しいヒロインになるために……私、もう一度自分を磨き直します! あなたの隣に立っても恥ずかしくない、本物の聖女になってみせますわ!!」
マリアの瞳に、かつてないほどにメラメラとしたライバル心(と崇拝)の炎が宿る。

(……いや、磨かなくていいから。そのまま、そのままのダメなマリアちゃんで、王子を奪ってほしかったのよ!!)

リゼット・フォン・エルデンバッハ。 「沈黙の賢者」として祭り上げられ、ヒロインを「本物の聖女」へと覚醒させてしまった彼女。
隠居への道は、もはや、見えないほど遠い。
 
次回予告
「リゼット様……私、古代遺跡に『聖女の証』を探しに行ってまいります!」 「(……マリアちゃん!? 死亡フラグが立ってる禁断の森に行くな、このSNS脳!!)」 「リゼット様、マリア嬢が危ない! 私たちも追おう!」 「(……めんどくせぇ。でも彼女が死んだら、私が一生王妃確定じゃない。……行くわよ、全速力で!)」
次回、第17話「孤立するヒロインの選択」
私の自由を守るために、ヒロインの命を守る……。これ、どんな無理ゲーですの!?
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