ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第17話 孤立するヒロインの選択

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学園の昼休み。
かつては多くの生徒に囲まれていたマリアちゃんの周りには、今やポッカリと空洞のような静寂が広がっていた。

(……あー。完全に『塩漬け物件』扱いね。誰も近寄ろうとしないわ)

私は中庭のガゼボで、ソフィが淹れた最高級のダージリンを啜りながら、遠くのベンチで一人うつむくマリアちゃんを観察していた。
彼女の「予知能力」は、私の「リスクヘッジ(裏工作)」のせいで二度も外れ、今や彼女の市場価値(格付け)はデフォルト寸前まで暴落している。

マリアちゃんの脳内フラッシュバック。
前世の彼女は、SNSで必死に「盛った自分」を発信し、フォロワーという名の虚像に囲まれていた。 
けれど、スマホを置けばそこには誰一人いない。

(……この世界に来れば、本物の『主人公』になれると思ったんでしょうね。でも、現実はゲームのシナリオ通りには進まない。投資の世界に『絶対』なんてないのと一緒よ)

マリアちゃんが、震える手で一冊の古びたノートを開いた。 
それは彼女が書き溜めた、ゲームの裏設定に関するメモだ。

(……まだよ。まだ逆転の手はあるわ。ゲームの隠しイベント、『聖女の証』を手に入れれば……!)

【イベント分析:聖女の証】 
・内容:王都の北、禁断の森の奥にある古代遺跡。そこに眠る「聖女の首飾り」を手に入れた者は、真の聖女として認められる。 
・リスク:森は高ランクの魔物の巣窟。騎士団でも立ち入りを制限する「超高リスクエリア」。

(マリアちゃん、その表情……。まさか、単騎で突っ込むつもりじゃないでしょうね? それ、レバレッジをかけすぎて破産するパターンの顔よ?)

その日の深夜。エルデンバッハ公爵邸、私の自室。
私は、魔導回路を組み込んだ「通信中継器」のプロトタイプを調整していた。

(よし……。通信強度は安定してるわね。この『魔法通信ネットワーク』が完成すれば、私は自宅にいながら全世界の情報を得て、投資判断ができる。真の不労所得(FIRE)への鍵よ)

私はピンセットを置き、伸びをした。 ふと窓の外を見ると、月明かりの下、一つの人影が王都の北門へ向かって走っていくのが見えた。
翡翠色の瞳を凝らす。

(……ピンクブロンドの髪。間違いない、マリアちゃんだわ)
「……馬鹿じゃないの、あの子。あそこは騎士団でも立ち入り禁止にしてる、生存期待値が極めて低い場所なのよ?」
私は溜息をつき、ピンセットを投げ出した。

【緊急リスク分析:マリアの死亡】 
・直接的影響:ゲームのヒロインが退場。 
・波及的影響:王太子アルフォンスの婚約候補が私(リゼット)一人に限定される。 
・最終結論:私の婚約破棄(自由へのエグジット)が不可能になり、一生「王妃」という名の終身雇用(ブラック労働)が確定する。

(……冗談じゃないわ!! マリアちゃんに死なれたら、私の人生設計が全部ゴミ箱行きよ!)
私は即座に、クローゼットから動きやすい外出着を引っ張り出した。

「ソフィ! 外出着を用意して。あと、隠し持っている『魔力ブースト剤』を全部持ってきてちょうだい!」
「お嬢様!? こんな時間に、一体どこへ……」
「救助活動よ! 私の未来(リタイア生活)を守るための、緊急介入(市場介入)よ!」
私はソフィが止めるのも聞かず、窓から身を乗り出した。 ここからなら、魔法で加速すればマリアちゃんに追いつける。

(せっかくパケットの損失率(ロス)を計算してたのに! 自分の命まで損失(ロス)しようとするなんて、あのSNS脳ヒロイン、本当に手が掛かるわね!)
私は深夜の王都を、一筋の光となって駆け抜けた。
(マリア! 〇にたければ勝手に〇ねばいいけど、私の自由を道連れにするのは許さないわよ!!)

暗く湿った「禁断の森」の入り口。 そこには、自分を待ち受ける「魔物」という名の死神に気づいていない、無謀な少女の背中があった。
 
次回予告
「きゃあああ! なんで!? ゲームだとこの魔物、もっと弱かったはずなのに!」 「(……当たり前でしょ。これは現実なんだから。ステータス補正なんて期待するな!)」 「リゼット様……助けに来てくれたんですね……!」 「(……勘違いしないで。あなたがいないと私が困るから、仕方なく救済(ベイルアウト)してあげるだけよ)」
次回、第18話「禁断の森での騒動」
私の平穏な夜を返してくださいまし!!
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