ひと夏だけと思ってたアバンチュール

鳴宮鶉子

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本気になったらいけないひと夏の恋

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ひと夏の恋だから、夏が終わったら、橘涼真さんは燃え上がったわたしへの恋心は冷め、わたしから去っていく。

「……妊娠はしてませんね。服用ピルを3ヶ月分と緊急避妊ピルを多めに出しときます」

橘涼真さんとの交際を期間限定の恋路と思ったわたしは、妊娠しないよう、月曜日に産婦人科に行って避妊用の薬を処方して貰った。

周期的に排卵日に近くに行為を行ったわけではなく、妊娠は間逃れた。

できていたら1人で産んで育てる覚悟はしてた。
でも産まれてくる子は有名アーティストの隠し子になる。
産まれてくる子にとっても、橘涼真さんにとっても、宜しくない事だと思う。

月曜日、わたしが目覚めた時には橘涼真さんは居なくて、ベッドの横にある机にゴールドのカードキーが置かれていた。

タワーマンションの合鍵

クレジット機能が付いているようで受け取れないと思いつつ、このままここに居たら、橘涼真さんがわたしをこの家に閉じ込める気がして、なにより緊急避妊ピルを服用するために産婦人科に行きたくて、カードキーを受け取り、橘涼真の家を後にした。

家に帰り、請け負ってるWEBサイト開発とシステムのプログラムを組んだり、DVDを見ながらヨガやエアロビクスなどをして過ごす。

クレジット機能がついているカードキーを渡されてるのがなんだか落ち着かなくて、21時過ぎに橘涼真さんの家に返しに行く事にした。

22時過ぎに橘涼真さんの住むタワーマンションに着いた。

インターフォンを鳴らしても橘涼真さんは出ない。
そのまま帰るから家の中で待つか悩んでいると、肩を叩かれた。

「愛凛、来てくれたの」

振り向いたら、仕事終わりのはずなのに仕立てのよいスーツをかっこよく着こなして、わたしの姿を見て嬉しそうに笑顔を浮かべた橘涼真さんがいた。

「……さすがにクレジット機能付きのカードキーは預かれません」

わたしがカードキーを橘涼真さんに差し出すと、わたしの手にカードキーを握らせた。

「このカードキーは愛凛が持ってて。家に入ろうか」

橘涼真さんが自身のカードキーでオートロックを開けて、わたしの手を引いてマンション内に入る。

「今日は平日だから……帰ります」

「帰さない。せっかく愛凛が来てくれたのに帰すわけないだろ」

エレベーターに押し込まれ、手を強く握られた。

「愛凛も明日は仕事があるから疲れさせたらいけないから抱き潰したりはしない。だから帰らないでくれ」

エレベーターから降り、橘涼真さんの家の中に入る。

橘涼真さんは家の中に入って、仕事から帰ってからの習慣なのかシャワーを浴びに行き、出てからわたしにわたしように買ったと思われる可愛い系の桜色した露出度が控えめなベビードールのランジェリーを渡してきた。

初めて彼の家に入った時は全く女性用のものはなかった。

「愛している女性に自分が選んだ衣類やアクセサリーを身につけさせ、自分色に染めたい」

橘涼真はネットでわたしのために色々買い揃えてくれてるようだった。

躊躇しながらもバスルームへ行く。

シャネルで購入したボディーソープとシャンプーコンディショナー、そして化粧品が洗面台に並べてある。

橘涼真さんがわたしが泊まっても困らないよう、シャネルのインターネットショップで取り寄せた。

バスタブに湯がはってあり薔薇の香りの入浴剤が入れられてた。
身体を洗ってから、少し浸かる。

歯磨きをし、化粧水をつけ、身体にボディーバターを少量塗り、ベビードールを着てからバスルームを出て、リビングに向かう。

フリルとレースがふんだんに使われたべビードールはプリンセス仕様で、それを着た自分の姿が恥ずかしく赤面してしまう……。

リビングでミネラルウォーターを飲みながらiPadを見ていた橘涼真さんがわたしの姿を見てニコリと笑みを浮かべる。

「……とても似合ってる」

今日は抱かないと言ってたのに、わたしは橘涼真さんに手を引かれ寝室へ入り、ベッドに押し倒され、1度だけど長時間かけてゆっくり愛された。

「明日仕事があるのにごめんな。自制が効かなかった」

鍵を返しに来たのに受け取って貰えず、橘涼真さんは平日は仕事があるからわたしが来る事で疲れさせたらいけないから鍵は預かり、平日は彼の家に寄り付かない事にした。

橘涼真さんと金曜日の夜にBAR 海空で落ち合い、歌を歌い、その後、橘涼真さんの家へ行き、身体を重ねる。

BAR海空でわたしがアマチュアながらのYouTubeとニコ生で曲をあげてるから、オーナーが気を利かせてくれてVIPルームに通してくれて、そこでカクテルを2~3杯と夕ご飯を頂いた。

6月の初めに橘涼真さんと出会い、1ヶ月半が経った。

7月終わりの金曜日の夜は、橘涼真さんに誘われ8月21日に放映開始の【線香花火 儚いひと夏の行方のような】の舞台挨拶付き試写会を観に行った。

一応、変装のためキャップの帽子にフレームが大き目の眼鏡をかけ、ダサい格好をして待ち合わせ場所に向かった。
橘涼真さんもキャップの帽子に黒のサングラスをかけ、服装も大学生みたいなカジュアルな装いでカモフラージュをして来てた。

お互いの変装を見て、思わず顔を見合わせてふきだしてしまった。

舞台挨拶が始まる前までは裏口から入り関係者の控え室にいさせて貰った。

ヒーローとヒロインの声優を務める、気さくなハンサムな男優さんと可愛い系の女優さんと少しお話をさせて頂き、舞台挨拶の始まる直前に、舞台真ん中の特別席の真ん中の端に移動した。

【線香花火 ひと夏の儚い恋の行方のような】は、中学生の3人男女の中で起きる恋愛アニメだった。
仲がいい男の子2人が転校してきた美少女に一目惚れして、どっちが付き合うかいがみ合い、線香花火を長く灯せた方が告白するかかけてたのに、事情を知らないヒロインが1番長く火を灯せてしまう落ちから始まる悲恋ストーリーで、ヒロインは春から夏の終わりまでしかヒーローがいる街には居られず、ヒーローと両想いになれたけれど、ラストにアメリカに留学していった。

『5年後に、逢いに来るから』

泣きながら駅のホームでヒロインがヒーローに耳元で囁き、唇にキスをして、列車に乗り込み、エンディングが流れた。

エンディングのラストに再会した……かもという微妙な映像が流れたけれど、その後の2人についてはどうなったかはわからない。

感動するストーリーだったけれど、切なくて悲しかった。

試写会が終わり、裏口に事前に呼んでいたタクシーに乗り込み、橘涼真さんの家へ向かう。

京宝アニメの青春恋愛アニメではよくあるストーリー。

夏が終わると共に離れ離れになる

「愛凛、あの映画、ラストに2人は再会して終わったんだから気持ちを引きづらない」

家に入り、わたしの被ってるキャップの帽子とダサ眼鏡を外し、橘涼真さんはわたしの頭にポンっと手を置き、先に部屋に上がっていった。

そして、バスルームに入り自動お湯沸かしボタンにスイッチを入れ、玄関に立ち竦んでいるわたしの手を引きリビングに連れていく。

「一緒にお風呂に入ってから、ワインを飲もう」

『湯がわきました』というアナウンスが流れ、手を引かれバスルームへ行き、橘涼真さんと一緒に入る。

白い猫のイラストが描かれたプリントTシャツにジーパン生地の半パン、そして黒と白のしましまのソックス。
なぜか引き出しの中に入っていた中学生時代に着ていた服。
それを橘涼真さんによって脱がされ、そして、橘涼真さんもカジュアルな大学生みたいな同じく歴史上の人物の絵が描かれた白いプリントTシャツとジーパンをさっと脱ぎ捨て、わたしの手を引いてバスルームの中に入る。

わたしの身体を先に念入りに洗い、バスタブに入るよう指示し、橘涼真さんも身体を洗いバスタブに入ってきた。

タワーマンションの高層階のバスルームは広い。
バスタブも2人で入ってもまだ余裕がある。
橘涼真さんにわたしは後ろから抱きしめられて胡座の上に座る形で、彼の逸物がわたしの身体に反応してるのを感じながらもスルーした。

「……愛凛、映画の余韻に浸ってるところ申し訳ないんだけど、やっていい?」

「……いいよ」

バスタブの縁を手で持ち身体のバランスを保ち、立ってバックの体勢で橘涼真さんはわたしの中に割り入ってきて、わたしの中を強く突き続ける。

逆上せる前に橘涼真さんはわたしの中で達し、汗をかいたから身体を清めて貰い、バスルームから出た。

身体を拭いてもらい、薔薇の香りがするバタークリームを塗って貰った。
そしてファンシーな感じのベビードールの服を橘涼真さんに着せられ、髪もドライヤーで乾かして貰い、手を引かれリビングへ行った。

チーズと生ハムをつまみに、年代物の上等なワインボトルをふたりで1本開ける。

65インチの大画面の大画面でUーNextでラブコメな邦画を1本見終わってから、歯を磨いてから寝室へ行く。
ベッドの上で橘涼真さんに胸の中に抱きしめられ、眠りについた。


橘涼真さんは、わたしを溺愛し心底愛してくれてるように感じる。

彼から求められ愛されてるのは一時的な事。

線香花火でいうと、火がついてから燃え尽きるまでに、「蕾」「牡丹」「松葉」「柳」「散り菊」の「柳」の時期に来てる気がする。

「牡丹」時期、点火してから牡丹のような真ん中の大きな丸い玉の周りに短い火花が重なり合うように、橘涼真さんはわたしに火をつけ身体を重ねる事でわたしの心にも火を灯していった。

「松葉」時期、線香花火の一番激しく、そして美しいとき。広く飛び散る様は、まるで「松葉」のようで、明るく輝く。橘涼真さんと毎週末に繰り広げられる逢瀬。彼から求められ愛され続けた。

「柳」時期。元気よく火花を散らす「松葉」から勢いが落ち着いてきた頃合いで火花がしな垂れるように、下に伸び、風に舞うかのように自然に身をまかせるかのように弧を描いていく。毎週末に橘涼真さんとBAR 海空で待ち合わせをし週末を共に過ごすも、抱き合い身体を重ねてはいても、わたしの身体を貪るように抱き潰してた「松葉」の時期とは違い、マンネリ感を感じる。

「ちり菊」時期。線香花火の物語のさ最後。菊の花びらが咲いては散って咲いては散ってを繰り返すように、毎週末にBAR海空で橘涼真さんと待ち合わせをしていたのが、ぷつっと途切れた。
わたしが橘涼真さんと会う時にiPhoneを家に置いていくから連絡先は交換してない。
BAR海空で「橘涼真さんが今日は来れないって」とマスターから言われ、それでも9月の終わりまでのひと夏は橘涼真さんとのアバンチュールを楽しむために、金曜日の夜にBAR海空に通い、9月の終わりの金曜日に2週間ぶりに橘涼真さんに会った。
いつもと変わらないようにBAR海空で歌を歌い、タクシーで彼の家へ行き、抱かれる。
2週間ぶりの逢瀬。彼が何度もわたしの中で果てて、力尽きて眠りについたのを見届け、わたしはベッドの横にある机の上に橘涼真さんの家のカードキーを置いて、リビングへ行き、服を着て、そっと彼の家から出ていった。

9月30日の夜が明けた。
ひと夏の恋のアバンチュールは終わった。



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