料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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道中の会話

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「はぁ・・・」

 わざわざ別室まで呼ばれるほどの依頼内容ではなかった事に、ニャンゾウもニャットも落胆していた。

 要は、ビャッコ族長の宮殿に忍び込むなり、関係者を買収して堂々と入り込むなりすればいいだけだ。

 そして、宮殿に入った後はとにかく、出来るだけ情報を持ち帰ればいい。できるならば、ビャッコを殺せばギンガーは喜ぶだろうが、それをする義理はない。

 受付嬢曰く、トウスがビャッコの宮殿にいる事さえわかればいいそうだ。

「いくらかスルターン側の情報が、手に入るかと思っていたでござるが。まぁ、一冒険者ギルドが重要な情報を持っているわけないでござるな」

 まだ潮風が香る、レオンの差南端にあるスルターンの領地を出るか出ないかの道中でぼやき、ニャンゾウは前金と共に貰った干し肉を、何となく袋から出して眺めた。

「臭い・・・」

「あまり美味しそうには見えないニャ」

 基本的に樹族はベジタリアンである。勿論肉食もいるにはいるが。

「シルビィ隊長なら、喜んで食べるでござるよ」

「隊長は、お肉が大好きだからね。オティムポ牛の肉には目がないニャ」

「前金の金貨と一緒に食料を渡すということは、これが金貨に等しいものであるという証左。レオンは詰んだも同然でござるな」

 人が人らしくある為の最後の砦が食料である。これが無くなれば、誰もが獣のようになって食料を探すだろう。そうなれば、秩序は崩壊し、国として体を成さなくなる。

「樹族の商人ギルドの情報では、レオンとは少しずつ取引を終了しているそうだニャ。目ぼしい品が枯渇しだしたからだとか」

 これまで国として維持できたのは、先祖が残した財産を切り売りして過ごしていたからだ。それは結局のところ、問題の先送りである。このまま放置していれば、物価は更に上がっていく事だろう。

「ならば、レオンは勝手に滅んでくれそうでござるが」

 そう言うニャンゾウの頭を、ニャットが背伸びをして撫でる。

「ダーリンは元裏側なのに、もの知らずなところが可愛いニャ。下手に軍事力のある国は、自国が危機に瀕すると、領土や資源を求めて、他国に戦争を仕掛けるのが世の常ニャよ」

「拙者は幼い頃から殺しの術ばかりを学んできたでござるゆえ、あまり物を知らないでござる。それにしても、獣人どもは樹族国ではなく、小国連合でも攻めればいいでござろうに」

「東の小国連合は海岸線を船で移動しないと攻め入れないし、海には強い魔物がうじゃうじゃいるから無理ニャ。強引に海路から侵攻しても、結局、同盟国の樹族国が出張ってくるから無駄な事ニャ。だったら最初から、本丸を攻めるのが一番ニャ」

 ニャンゾウは、道端で無気力に座る、やせ細った犬人の子供に、大きな干し肉を三枚渡して通り過ぎる。

 子供はしっぽを振って喜び、旅人二人を見送った。

「干し肉をタダであげるなんて、ダーリンは優しいニャ」

「その優しさのせいで、裏側から独立部隊に異動させられたでござるよ。裏側に善人は要らないでござるから」

 まだ裏側という隠密組織に未練があるのか、ニャンゾウは深いため息をついた。

「でも、そのお陰で私はダーリンに出会えたニャ。これは運命だったニャ」

「そう言ってもらえると救われるでござる。そういえば、ビャッコの領地は経済的に潤っていると聞いたでござるが」

「あそこは湧き水による水資源が豊富ニャ。しかも砂漠で質の良い珪岩が多く取れるから、樹族国のガラス職人が欲しがったり、ノームが何かに使うのか、高値で買いとっていくニャ」

「他の領地はこれまで、どうやって、やり繰りしていたんでござろう?」

「過去の蓄えと、海産物だニャ」

「蓄えはともかく、海には強い魔物がいるでござるよ」

「強い海の魔物は大体が大型だから、浅瀬まで来れないニャ。今までは浅瀬で取れる魚などで生計を立ててたニャ。その魚も、皆が取り合うようになったから減ってきたニャ。あとは、人的資源。傭兵は外貨獲得の主な手段だけど、最近は人材の流出が甚だしいニャ」

「良い人材が国外逃亡するのであれば、軍隊もままならないでござろう」

「でも不思議と国境線沿いの軍隊は、割とまともだったニャ?」

「確かに。だが、シルビィ隊長はそれ以外で―――、この斜陽の国の何を憂いておられるのか?」

「スルターンの背後に、何かいるのではないかとお思いだニャ」

「ハッハ。それは同族同士で、腹の探り合いばかりしている樹族らしい考えでござるな。・・・おっと、拙者も樹族であった。フハハ」

「猫人に変装していると、うっかり自分が何者か忘れちゃうよニャ」

「うむ。で、その背後にいる者を、我らが調べると」

「隊長には、大雑把に情報収集を頼まれたけど、狙いはきっとそれニャ」

「して、その考えに何か根拠でも?」

「あるニャよ。アルカディアのとある教会を、死の騎士が警備しているのを知っているかニャ?」

「確か、元バトルコック団のメンバー、メリィ・メリィだったでござるか? 闇落ちした修道騎士が教会を守るのも変な話でござるが」

「まぁ、色々あるんだろうニャ。そこら辺の事情は重要じゃないニャ。問題は、教会を襲ったギンガーの部下が、ある物を持っていたのを、死の騎士が冒険者ギルドに報告した事ニャ」

「ある物? えらく勿体ぶるでござるな。なんでござるか?」

「【光の剣】が付与短剣ニャ」

「されたかのようなとは? 妙な言い方でござるな」

「【光の剣】の魔法が付与されていない短剣だから、そう言ったニャ」

「マナも使わずに、同等の効果が得られえる短剣でござるか? だとしたら、それはノームの怪しい武器でござろう?」

「ノームも間抜けなところがあるから、ついうっかり流出させる事があるけど、ノームの武器ではなかったニャ」

「なにゆえ、そんな事がわかったでござるか?」

「シルビィ隊長は、現人神様に凄く近しい人だニャ」

「つまり、ヒジリ聖下に短剣を見せて、それがノームの物ではないとわかったのでござるな?」

「そう言う事ニャ。神様が言うんだから間違いないニャ」

「ふぅむ。それ以上は察しがつかんでござるな。一体、何者がレオンの裏にいるというのか」

「それを探る為にも、スルターンに近づく手立てを考えないとニャ。他の隊員はスルターンの宮殿に入る手段が見つからず、帰国したニャ」

「我らが最後の希望というわけでござるか」

「そうだニャ。隊長を失望させるわけには、いかないニャ」

「して、何か策があるのでござろうな?」

「それはトウスと相談してからの話ニャ。それまで楽しみにしておくニャ」

「可愛くて賢いニャットがそう言うのであれば」

「も~~、ダーリンってばぁ!」

 急に潮風の匂いがなくなり、土と草木が太陽に照り付けられたものに変わる。

 そろそろ首都オライオンが見えてくる頃だろう。広い首都の西門を目指し、街道へ出て、そのまま一日程進めば、ビャッコの領地に辿り着く。
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