301 / 336
勝負あり
しおりを挟む
じりじりと音を立て、足跡が地面に円を描き、互いに攻撃のタイミングを計る。
一方は戦士職としての一流の技量を保持する侍、一方には装備や戦術に優位性を持つ暗殺者。
「このままでは、百日戦争だな。仕掛けるか?」
とはいえ、侍が搦め手を得意とする忍者に、馬鹿正直に真っすぐ挑むのは無謀である。が、警戒されて本来の力を発揮できないニャンゾウもまた、シバヤマに無策で挑めば同じ結果が待っている。
「むむー。隙がないでござる」
次の一手で決めると言ってみたものの、ニャンゾウに奥の手があるわけでもない。あるのは死の覚悟。
難しい任務の多い裏側に所属していた時から生き延びてきた忍者にとって、死の覚悟という発想はこれまでなかった。しかし、この侍を相手にして、その文字は嫌でも脳裏に浮かぶ。
(実力値は恐らく、シバヤマ殿の方が上でござろう)
戦いにおいて経験の差は大きい。それはピンチに陥った時に、特に発揮されるだろう。死線を掻い潜った数だけ、生き残る可能性が上がる。
先ほどの起爆札の爆発でシバヤマが一命をとりとめたのも、経験による判断によるもの。最小限のダメージで済むような回避行動を、一瞬でやってのけたのだ。
「さて、今しがた思いついた戦い方が、どこまで通じるでござろうか」
案外、即興で考えた策が通じるかもしれない、という希望が根拠なくニャンゾウの心の中で首をもたげる。下手な考え休むに似たりとはいうが、考えなければ死ぬ。
シバヤマも覚悟を決めたのか、一刀流から脇差と刀の二刀流に切り替えた。こうなった侍は強い。何せ必殺の攻撃が、五月雨のように繰り出されるからだ。
「忍法、多重影分身!」
ニャンゾウは自分の分身十体を、広範囲に散開させた。纏まっていれば、侍の範囲攻撃の餌食にされるようなものだからだ。
「おや? 見たところ、ニャンゾウ殿はシバヤマと、正面からやり合うつもりに見えるが。これは悪手ではないか?」
アキタが、僧侶に貰った干し肉を噛みながら、ニャンゾウのやり方を訝しむ。
「き、きっとダーリンの事! 何か策があるニャ! 愛の力を、シバヤマは思い知る事になるニャ!」
「愛の力・・・、か」
愛の力、とかいう胡散臭い言葉を聞いて、アキタは余計に疑う。相棒はぽっと出の冒険者ではない。生ぬるい西の大陸のダンジョンや遺跡等(遺跡守のいる場所は別として)と違い、混沌とした東の大陸のダンジョンは、最低でもヒジランドの絶望平野レベルである。
かの森には、強力なはぐれ魔法使いが潜み、上位アンデッドが蠢く危険地帯。時々、結界を破って森から出ようとする凶暴なアンデッドや悪魔を、現人神がわざわざ出向いて消滅させるような土地。
絶望平野と同レベルの中を、生きてきたシバヤマの実力値は十七。
これは正面突破を狙うニャンゾウには分が悪い数値でもある。ニャンゾウの実力値は十五。レベル差が開けば開くほど、下位の者はペナルティを受け、上位の者は恩恵を受けるのが、この星の理である。
「分身を十体も出せるのは、素晴らしい事だが。果たして・・・」
「アキタはうるさいニャ! 黙って戦いを見守るニャ!」
「すまん」
中肉中背の侍、シバヤマから早速、斬撃が二つ飛んだ。刀からと脇差から繰り出されるそれは、分身を二つ容易に消しさる。
「本体含め、残り九体!」
「なんの! 喰らえ、影縛り!」
分身の二体が、無限に投げつけられる手裏剣でシバヤマの影を狙う。
「無駄無駄無駄ァ!」
刀と脇差が全ての手裏剣を弾く。
無限に手裏剣が投げられるとはいえ、ニャンゾウのスタミナは無尽蔵ではない。一連の攻撃が終わると、シバヤマの飛ぶ斬撃が、二体の分身を消した。
「残り七体!」
「くっ! 本体と同じ回避率である分身を容易く消すとは。やるでござるな!」
ニャンゾウの分身が、太陽を背にしたシバヤマの影から現れ、クナイで首を狙うも、それより速く、刀の一撃のカウンターが入る。
そして、流れるような動きで脇差を地面の影に突き立てる。
「ぐぬぅ!」
影に潜んでいた分身が消えた。
「これで残り、五体! 貴殿に当たる確率はこれで五分の一。さぁ、どうする!」
「あの刀、まるで魔剣必中のような正確さでござる」
ニャンゾウは、トウスの魔剣を頭に思い浮かべ、そう呻く。
「侍の技量を舐めない方がよい」
シバヤマの攻撃の命中率は、自前である。
「端から舐めてなどいなかったでござるが。ここまで強いとは思わなかったでござる」
「侍だから強いのではない。シバヤマだから強いのだ」
アキタは腰のひょうたんから水を飲んで、そう呟いた。
高い能力値を有する忍者にも、引けを取らないシバヤマに、ニャットの血の気が引いていく。
「シ、シバヤマの能力値はどんな感じなのかニャ? アキタ」
「事細かに教えるつもりはないが、侍が必要とする能力値は最高だと言っていい」
「じゃあ、力、器用さ、素早さが十八もあるって事?!」
語尾にニャを付けるのを忘れるほど、ニャットは驚く。
「他の能力値もそれなりに高いぞ」
それなりにとは言うものの、十五くらいはあるのではないか。そう思ってしまうほど、シバヤマの動きには無駄がない。
「因みにシバヤマは、魔法も使えたりするのかニャ?」
「魔法は使えないな。前衛特化の侍だ」
それは救いだと思いたいが、シバヤマの鬼神のような攻撃ぶりに、安堵する事叶わず。ニャットは恋人を心配するようになってきた。
先程までの信じていた愛の力も、強大な敵の前では無力なのだろうかという疑念が渦巻き始める。
「ダーリン・・・」
ニャットは祈るように手を組んで、戦いを見守る。
「ハイヤーッ!」
気迫のこもった一撃のもと、今度は三体の影分身が、斬撃の前に消えた。
「残りは二体。纏めて倒す!」
シバヤマが脇差を鞘に納め、神速居合切りの構えを取る。何故なら、ニャンゾウが二体連なるように、縦のラインで攻撃を仕掛けてきたからだ。
「やられに行くようなものニャ!」
正直、ニャットはニャンゾウがヤケを起こして、無謀な策に出たと思った。
「セイッ!」
居合切りから斬撃が飛び、まずは一体目が消えた。シバヤマは素早く次の体勢に入る。
「これで最後なり!」
しかし、ニャンゾウが起爆札の付いた手裏剣を投げた。
「小賢しい!」
飛ぶ斬撃が手裏剣を切り、シバヤマとニャンゾウの間で爆発を起こす。
その爆炎の中から、ニャンゾウが現れたのを見て、シバヤマは迎え打つ事なく、自分の影を刀で刺した。
「ぎゃあああ!!」
まるで地獄の亡者の叫びのように、影の中から断末魔の叫び声がした。
「手応えあり!」
シバヤマが人を斬る感触に確信を持ってそう言うと、誰もが本体だと思っていたニャンゾウが消えた。
「残念だったな、ニャンゾウ殿。影分身が十体しかないと思い込ませる作戦、拙者には効かなかったようだ」
影からニャンゾウが浮き出て、脳天から勢いよく血を流す。
「さぁ、残るはニャット殿のみ」
「ニギャア! 許せない! ダーリンの仇は絶対に取るニャ!」
毛が逆立ち、怒り狂うニャットが跳躍して、シバヤマの前に出たその時―――。
背後からの手刀が、侍の首を刎ねる!
「なに?!」
シバヤマの首が転げ落ちるのを見たアキタは、驚いて思わず立ち上がった。次に動かした視線の先にはニャンゾウがいる。
「確かにシバヤマ殿は拙者を串刺しにしたでござる。しかし、我らをそんじょそこらの貧乏冒険者と一緒にしてもらっては困るでござるよ」
ニャンゾウの死体があった場所には、死を一回引き受ける身代わり人形が転がっていた。
「まさか、僧侶が生き返らせてくれるにも関わらず、高価な身代わり人形を使ったのか? それは依頼料から考えても、割に合わない選択だろう」
「既に高価なクナイを石にされているでござる。それに比べたら身代わり人形なんて安いもの」
「それでも・・・」
アキタはそれ以上、何かを言うのを止めた。
この二人は、相当財力のある冒険者なのだ。装備からして、希少なものを身に着けている。金よりもスルターンの依頼を受ける、という名声が欲しかったのだろう。
「いやはや、奇妙な冒険者に当たってしまったな。これは完敗と言わざるをえまい。僧侶殿! 早くシバヤマの首を元に戻してくれ!」
兎人の僧侶が、白いローブを揺らしながら急いでやって来て、シバヤマの頭を拾うと首の近くに置いた。そして祈りを開始する。
「ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ!」
基本的な蘇生の祈りで、シバヤマは復活した。
シバヤマは首の傷がまだ疼くのか、摩りながら半身を起こして辺りを見渡し、敗因を調べる。
「なるほど、身代わり人形であったか。装備や財力も実力のうち。心のどこかで、コストを度外視で攻撃してくるわけがないと信じて疑わなかったのが、負けにつながったのだな。冒険者の大半は大金を持つと、冒険しなくなるのに、そなたたちはそうではなかった」
「冒険が好きな物好きもいるニャ(本当は隊からの支給品だけど)」
「その向上心、天晴!」
シバヤマは拍手で、ニャンゾウたちを褒めた。
受付嬢が近づいてきて、ニャンゾウとニャットの手を掴むと、高らかに上げて宣言する。
「勝者はニャンゾウさんとニャットさんです! スルターンからの依頼を受ける権利は二人に決まりました!」
―――ワァァァ!!
いつの間にか裏庭に集まっていた冒険者たちが、興奮して声を上げた。
「やるな、ニャンゾウにニャット! こんな無謀で採算度外視の戦い方は初めて見たぜ!」
「クソ! 普通に戦ってたら、シバヤマが絶対勝ってただろ!」
「ちくしょー! シバヤマが勝つ方に、金貨一枚かけてたのによぉ!」
「儲けさせてくれてサンキューな、ニャンゾウとニャット! 暫くは飲んだくれ生活ができる!」
賭け事をしていたのだろう。殆どの者がシバヤマに賭けていたのか、ニャンゾウに賭けた者は大金を手にして大喜びだ。
「それでは、詳細を話しますので、客室までお越しください」
悲喜こもごもな冒険者の雑踏の中を、ニャンゾウとニャットは客室まで歩いて行った。
一方は戦士職としての一流の技量を保持する侍、一方には装備や戦術に優位性を持つ暗殺者。
「このままでは、百日戦争だな。仕掛けるか?」
とはいえ、侍が搦め手を得意とする忍者に、馬鹿正直に真っすぐ挑むのは無謀である。が、警戒されて本来の力を発揮できないニャンゾウもまた、シバヤマに無策で挑めば同じ結果が待っている。
「むむー。隙がないでござる」
次の一手で決めると言ってみたものの、ニャンゾウに奥の手があるわけでもない。あるのは死の覚悟。
難しい任務の多い裏側に所属していた時から生き延びてきた忍者にとって、死の覚悟という発想はこれまでなかった。しかし、この侍を相手にして、その文字は嫌でも脳裏に浮かぶ。
(実力値は恐らく、シバヤマ殿の方が上でござろう)
戦いにおいて経験の差は大きい。それはピンチに陥った時に、特に発揮されるだろう。死線を掻い潜った数だけ、生き残る可能性が上がる。
先ほどの起爆札の爆発でシバヤマが一命をとりとめたのも、経験による判断によるもの。最小限のダメージで済むような回避行動を、一瞬でやってのけたのだ。
「さて、今しがた思いついた戦い方が、どこまで通じるでござろうか」
案外、即興で考えた策が通じるかもしれない、という希望が根拠なくニャンゾウの心の中で首をもたげる。下手な考え休むに似たりとはいうが、考えなければ死ぬ。
シバヤマも覚悟を決めたのか、一刀流から脇差と刀の二刀流に切り替えた。こうなった侍は強い。何せ必殺の攻撃が、五月雨のように繰り出されるからだ。
「忍法、多重影分身!」
ニャンゾウは自分の分身十体を、広範囲に散開させた。纏まっていれば、侍の範囲攻撃の餌食にされるようなものだからだ。
「おや? 見たところ、ニャンゾウ殿はシバヤマと、正面からやり合うつもりに見えるが。これは悪手ではないか?」
アキタが、僧侶に貰った干し肉を噛みながら、ニャンゾウのやり方を訝しむ。
「き、きっとダーリンの事! 何か策があるニャ! 愛の力を、シバヤマは思い知る事になるニャ!」
「愛の力・・・、か」
愛の力、とかいう胡散臭い言葉を聞いて、アキタは余計に疑う。相棒はぽっと出の冒険者ではない。生ぬるい西の大陸のダンジョンや遺跡等(遺跡守のいる場所は別として)と違い、混沌とした東の大陸のダンジョンは、最低でもヒジランドの絶望平野レベルである。
かの森には、強力なはぐれ魔法使いが潜み、上位アンデッドが蠢く危険地帯。時々、結界を破って森から出ようとする凶暴なアンデッドや悪魔を、現人神がわざわざ出向いて消滅させるような土地。
絶望平野と同レベルの中を、生きてきたシバヤマの実力値は十七。
これは正面突破を狙うニャンゾウには分が悪い数値でもある。ニャンゾウの実力値は十五。レベル差が開けば開くほど、下位の者はペナルティを受け、上位の者は恩恵を受けるのが、この星の理である。
「分身を十体も出せるのは、素晴らしい事だが。果たして・・・」
「アキタはうるさいニャ! 黙って戦いを見守るニャ!」
「すまん」
中肉中背の侍、シバヤマから早速、斬撃が二つ飛んだ。刀からと脇差から繰り出されるそれは、分身を二つ容易に消しさる。
「本体含め、残り九体!」
「なんの! 喰らえ、影縛り!」
分身の二体が、無限に投げつけられる手裏剣でシバヤマの影を狙う。
「無駄無駄無駄ァ!」
刀と脇差が全ての手裏剣を弾く。
無限に手裏剣が投げられるとはいえ、ニャンゾウのスタミナは無尽蔵ではない。一連の攻撃が終わると、シバヤマの飛ぶ斬撃が、二体の分身を消した。
「残り七体!」
「くっ! 本体と同じ回避率である分身を容易く消すとは。やるでござるな!」
ニャンゾウの分身が、太陽を背にしたシバヤマの影から現れ、クナイで首を狙うも、それより速く、刀の一撃のカウンターが入る。
そして、流れるような動きで脇差を地面の影に突き立てる。
「ぐぬぅ!」
影に潜んでいた分身が消えた。
「これで残り、五体! 貴殿に当たる確率はこれで五分の一。さぁ、どうする!」
「あの刀、まるで魔剣必中のような正確さでござる」
ニャンゾウは、トウスの魔剣を頭に思い浮かべ、そう呻く。
「侍の技量を舐めない方がよい」
シバヤマの攻撃の命中率は、自前である。
「端から舐めてなどいなかったでござるが。ここまで強いとは思わなかったでござる」
「侍だから強いのではない。シバヤマだから強いのだ」
アキタは腰のひょうたんから水を飲んで、そう呟いた。
高い能力値を有する忍者にも、引けを取らないシバヤマに、ニャットの血の気が引いていく。
「シ、シバヤマの能力値はどんな感じなのかニャ? アキタ」
「事細かに教えるつもりはないが、侍が必要とする能力値は最高だと言っていい」
「じゃあ、力、器用さ、素早さが十八もあるって事?!」
語尾にニャを付けるのを忘れるほど、ニャットは驚く。
「他の能力値もそれなりに高いぞ」
それなりにとは言うものの、十五くらいはあるのではないか。そう思ってしまうほど、シバヤマの動きには無駄がない。
「因みにシバヤマは、魔法も使えたりするのかニャ?」
「魔法は使えないな。前衛特化の侍だ」
それは救いだと思いたいが、シバヤマの鬼神のような攻撃ぶりに、安堵する事叶わず。ニャットは恋人を心配するようになってきた。
先程までの信じていた愛の力も、強大な敵の前では無力なのだろうかという疑念が渦巻き始める。
「ダーリン・・・」
ニャットは祈るように手を組んで、戦いを見守る。
「ハイヤーッ!」
気迫のこもった一撃のもと、今度は三体の影分身が、斬撃の前に消えた。
「残りは二体。纏めて倒す!」
シバヤマが脇差を鞘に納め、神速居合切りの構えを取る。何故なら、ニャンゾウが二体連なるように、縦のラインで攻撃を仕掛けてきたからだ。
「やられに行くようなものニャ!」
正直、ニャットはニャンゾウがヤケを起こして、無謀な策に出たと思った。
「セイッ!」
居合切りから斬撃が飛び、まずは一体目が消えた。シバヤマは素早く次の体勢に入る。
「これで最後なり!」
しかし、ニャンゾウが起爆札の付いた手裏剣を投げた。
「小賢しい!」
飛ぶ斬撃が手裏剣を切り、シバヤマとニャンゾウの間で爆発を起こす。
その爆炎の中から、ニャンゾウが現れたのを見て、シバヤマは迎え打つ事なく、自分の影を刀で刺した。
「ぎゃあああ!!」
まるで地獄の亡者の叫びのように、影の中から断末魔の叫び声がした。
「手応えあり!」
シバヤマが人を斬る感触に確信を持ってそう言うと、誰もが本体だと思っていたニャンゾウが消えた。
「残念だったな、ニャンゾウ殿。影分身が十体しかないと思い込ませる作戦、拙者には効かなかったようだ」
影からニャンゾウが浮き出て、脳天から勢いよく血を流す。
「さぁ、残るはニャット殿のみ」
「ニギャア! 許せない! ダーリンの仇は絶対に取るニャ!」
毛が逆立ち、怒り狂うニャットが跳躍して、シバヤマの前に出たその時―――。
背後からの手刀が、侍の首を刎ねる!
「なに?!」
シバヤマの首が転げ落ちるのを見たアキタは、驚いて思わず立ち上がった。次に動かした視線の先にはニャンゾウがいる。
「確かにシバヤマ殿は拙者を串刺しにしたでござる。しかし、我らをそんじょそこらの貧乏冒険者と一緒にしてもらっては困るでござるよ」
ニャンゾウの死体があった場所には、死を一回引き受ける身代わり人形が転がっていた。
「まさか、僧侶が生き返らせてくれるにも関わらず、高価な身代わり人形を使ったのか? それは依頼料から考えても、割に合わない選択だろう」
「既に高価なクナイを石にされているでござる。それに比べたら身代わり人形なんて安いもの」
「それでも・・・」
アキタはそれ以上、何かを言うのを止めた。
この二人は、相当財力のある冒険者なのだ。装備からして、希少なものを身に着けている。金よりもスルターンの依頼を受ける、という名声が欲しかったのだろう。
「いやはや、奇妙な冒険者に当たってしまったな。これは完敗と言わざるをえまい。僧侶殿! 早くシバヤマの首を元に戻してくれ!」
兎人の僧侶が、白いローブを揺らしながら急いでやって来て、シバヤマの頭を拾うと首の近くに置いた。そして祈りを開始する。
「ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ!」
基本的な蘇生の祈りで、シバヤマは復活した。
シバヤマは首の傷がまだ疼くのか、摩りながら半身を起こして辺りを見渡し、敗因を調べる。
「なるほど、身代わり人形であったか。装備や財力も実力のうち。心のどこかで、コストを度外視で攻撃してくるわけがないと信じて疑わなかったのが、負けにつながったのだな。冒険者の大半は大金を持つと、冒険しなくなるのに、そなたたちはそうではなかった」
「冒険が好きな物好きもいるニャ(本当は隊からの支給品だけど)」
「その向上心、天晴!」
シバヤマは拍手で、ニャンゾウたちを褒めた。
受付嬢が近づいてきて、ニャンゾウとニャットの手を掴むと、高らかに上げて宣言する。
「勝者はニャンゾウさんとニャットさんです! スルターンからの依頼を受ける権利は二人に決まりました!」
―――ワァァァ!!
いつの間にか裏庭に集まっていた冒険者たちが、興奮して声を上げた。
「やるな、ニャンゾウにニャット! こんな無謀で採算度外視の戦い方は初めて見たぜ!」
「クソ! 普通に戦ってたら、シバヤマが絶対勝ってただろ!」
「ちくしょー! シバヤマが勝つ方に、金貨一枚かけてたのによぉ!」
「儲けさせてくれてサンキューな、ニャンゾウとニャット! 暫くは飲んだくれ生活ができる!」
賭け事をしていたのだろう。殆どの者がシバヤマに賭けていたのか、ニャンゾウに賭けた者は大金を手にして大喜びだ。
「それでは、詳細を話しますので、客室までお越しください」
悲喜こもごもな冒険者の雑踏の中を、ニャンゾウとニャットは客室まで歩いて行った。
0
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
キャンピングカーで、異世界キャンプ旅
風来坊
ファンタジー
東京の夜を走り続けるタクシードライバー、清水翔。
ハンドル捌きと道の知識には自信があり、理不尽な客にも笑顔で対応できる――不器用ながらも芯の強い男だ。
そんな翔が、偶然立ち寄った銀座の宝くじ売り場で一人の女性・松田忍と出会う。
彼女との再会をきっかけに、人生は思いもよらぬ方向へ動き出した。
宝くじの大当たり、そして「夢を追う旅」という衝動。
二人は豪華にバスコンをカスタムしたキャンピングカー「ブレイザー」を相棒に、日本一周を計画する。
――だが、最初のキャンプの日。
雷の直撃が二人を異世界へと連れ去った。
二つの月が照らす森で、翔は持ち前の度胸と行動力を武器に、忍を守りながら立ち向かう。
魔力で進化したブレイザー、忍の「鑑定スキル」、そして翔の判断力と腕力。
全てを駆使して、この未知の世界を切り開いていく。
焚き火の炎の向こうに広がるのは、戦いと冒険、そして新しい絆。
タクシードライバーから異世界の冒険者へ――翔と忍のキャンピングカー旅が、今始まる。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる