料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
303 / 336

甘い甘いお菓子

しおりを挟む
「ちょっとぐらいいいだろ! 何で助けてやらねぇんだ!」

 このわからず屋め! 首都オライオンの惨状を見てねぇのか!

「あのなぁ、トウス。いくら虎族が裕福でも、全てを救う事なんてできねぇんだ。よしんば、お前の望み通り、困窮するオライオンの民、全てに食料を配ったとしよう。明日はどうする? 明後日は? そうやってどんどん配って、我が領地の食料を減らし、共倒れになれと? そもそも首都オライオンは全ての族長が出資して作った都市だ。俺は自分の分を十分に支払っている。食料だって、どの首長よりも多く送っているぞ」

「それでも、まだ余裕あんならよ、もうちょっとくらい食い物を送ってやれよ。あんたよぉ、飢えた事ねぇだろ? 飢える事が、どんだけ辛いか知らないから、他人事でいられるんだよ!」

「あぁ、知らねぇ。俺は他人じゃねぇからな。飢えた奴らの気持ちなんてわからん」

 憎まれ口ばっかり叩きやがって!

「こぉおんの、糞ジジイ!」

「お、やるか? 小僧!」

 俺は拳を構えると、ビャッコのオッサンも構えた。

 手加減するつもりはねぇからな。拳でねじ伏せて、こちらの要求を呑んでもらう。

「セイッ!」

「ソイッ!」

 ―――ドカッ!

 ん?!

 腕を絡ませるカウンター狙いの形で、少し上方に素早く突き出した拳の感触がおかしい。真っ先に当たるはずの顔の毛の感触がねぇんだわ。

「ぎゃああああ!! いてぇぇ!! なんでー?」

 オビオがそこにいた。

 両の胸におもっくそ拳を受けたオビオが。

 胸鎧越しとはいえ、俺たちのパンチは重く、衝撃が貫通する。普通なら肋骨が折れてもおかしくはねぇ。

「ぐぎぎ」

 オビオは変に歯を食いしばって我慢してるから、奇妙な顔に見える。プハハ。おっと、笑っちゃ悪いな。

「クキッ! クキキッ! ここ最近、オビオは災難だな。パフェは食われるわ、そのグラスは、結婚式の引き出物として勝手に持ち帰られるわで」

 オビオの後ろで、ピーターが小さな手を口に添えて、笑っている。

「オビオお兄ちゃんってば、不幸!」

 そのピーターの横で、ムクがオビオの事を、心の底から心配しているように見えた。

「大丈夫かい? 我が愛しの人」

 細目のウィングも心配しているが、癒しの祈りをするつもりはないようだ。まぁオビオは直ぐに回復するからな。いや回復どころじゃねぇんだわ、こいつは。なんなら不死身だ。

「なんともはや。転移した先で殴られるとは」

 おや? 僧侶のパンまでついてきたのか。こいつぁ、てっきり結婚式が終わったら、どっかに行くと思っていたけどよ。

「オビオが殴られたのは、私のせいじゃないからな! トウスが悪い」

 相変わらず、サーカは保身が早い。

「お前ら意外と来るのが早かったな」

「そうかな? 一回転移すんのを失敗して、石の中に飛んだんだけど、慌ててキャンプテントを張ったから助かったんだ」

 オビオは時々、意味不明な冗談を言う。というか、もう冗談を言えるほどに回復している。

「嘘を言うな、オビオ! 私は一回で成功させただろう? しかも転移爆発を起こさず、奇麗にやれたんだぞ! これが如何に難しい事か、お前にはわかるまい。大体、石の中でキャンプテントを張るとはなんだ? 石の中に飛べば、即死だ、即死」

 この部屋が宮殿の大広間だからってのもあるけど、確かに奇麗に転移してきたな。流石は秀才のサーカだ。まだ、転移魔法の練度は高くないはずだぞ。

「一応紹介してくれるか? トウス」

 彼らが誰だか、もう分ってるってるって顔しているな、ビャッコのオッサンは。

「あぁ、ほったらかしてすまねぇな。でっかいオーガが、バトルコック団のリーダーだ」

 オッサンは自分より大きな男を見あげて、背の高さに驚いている。オーガを直接、その目で見たのは初めてか? オビオは女オーガ並みに小さいぞ。

「殴って悪かったな、オビオ・ミチ。俺はビャッコ。虎族の族長をやっている」

「へへっ、良いパンチでしたよ。ビャッコの旦那ァ」

 オビオは三下みたいなキャラで、お道化ている。多分、殴った事に罪悪感を抱かせないよう、ふざけてんだな。優しい奴だぜ、まったく。

「ハハ。面白い奴め。ビャッコと呼んでくれ。俺はオビオの事をなんと呼べばいい?」

 もう、既に馴れ馴れしく名前で呼んでんだろうがよ、オッサン。

「ビチビチだ!」

 ピーターがオビオの声真似をしてそう言ったので、オビオに頭の尖がり毛をこねくり回され、制裁を受けている。

「そのまま、オビオでいいよ」

 がっちりと握手した後、オビオは他のメンバーを紹介した。

「彼はピーター。地走り族の暗殺者。バトルコック団のエースだ」

「よろしく! 王様!」

 ピーターは地走り族特有の挨拶―――、人差し指と薬指を折り曲げた手を見せている。敵対心はない、お前から物を盗みはしない、という意味だ。実際はどうだかわからない。

「あ、暗殺者か・・・。おい、トウスじゃねぇのかよ。エースは」

 戦士こそ至高と考えるオッサンは、少し不服そうだ。

「俺は二番手だな。盾役もやっからよ」

 まぁ俺やオビオビがいねぇと、ピーターはまともに敵を倒すこともできねぇんだが。

「んで、魔物使いのムク。彼女は、サヴェリフェ子爵の唯一の弟子なんだ」

「おお、あの英雄子爵の!(オカッパが可愛い)」

 オッサンの目が優しくなったな。孫がいたらムクぐらいの年齢だろうしな。

「こんにちは! ビャッコのおじちゃん!」

「はい、こんにちは。おい、誰かこの子に、菓子を持って参れ」

 おいおいおいおい!

「まて、ビャッコのオッサン。バトルコック団に菓子を渡すって事ぁ、あんたに財産を自慢する小規模な旅商人みたいなもんだ。オビオが作る菓子は世界一なんだぞ」

「あぁっと。そうだったな・・・」

 お、珍しくしょぼくれてんじゃねぇか。

 まだ意地張って、「うちの国の菓子も負けてねぇぞ!」くらいは言ってほしかったな。

「あのね! 私ね! おじちゃんのくれる、お菓子が食べたい!」

 ムクの目がキラキラしている。

「問題ないよ、トウスさん。この国特有のお菓子があるなら、俺も食べてみたいし」

「まぁ、オビオがそう言うなら構わんが。しかし、気を付けろよ。この国の菓子は滅茶苦茶甘いからな」

 忠告したからな? 知らんぞ?

「甘いの大好き!」

 ムクの目が更にキラキラしだした。ほんと、菓子が好きだな。

「そういう事なら。おい、そこのメイド。菓子を持って参れ」

 オッサンにそう言われたメイドが即座に厨房に向かい、直ぐに戻ってきた。手には・・・。あぁ、あれを持ってきやがったか。

「コデイをお持ちしました。ビャッコ様」

 ムクとオビオの目がメイドの手元に釘付けだ。他の連中は黒くてベタベタした丸いお菓子にドン引きしている。

「うわぁ! 凄い独特な匂い! ちょっと黒砂糖の匂いに似てるかな? ムク、一緒に食べよ」

「うん!」

「いただきまーす。ぱくっ!」

「いたらきまーす! ぱくっ!」

 暫く二人の微かな咀嚼音が聞こえた。そして飲み込む。暫くして声を上げたのは、やっぱりオビオだった。

「うわぁぁぁ!! びっくりするほど甘い!」

 稀に頭痛を起こすくらいの甘さだと言われているコデイに、オビオは驚いて頭を抱えている。ほら見ろ。

「だから言っただろ。気を付けろって」

 俺がそう言った後、オビオの顔が、今の空みたいに晴れる。

「でも後味がスッキリしてるんだ。甘さが口に残らないなんて不思議! この黒い蜜はデーツから作っているのかな? あ、デーツって星の国のヤシの実で、木で完熟させて乾燥させる天然のドライフルーツなんだ。そのデーツで作ったシロップに味は似ているんだけど、それよりもさっぱりしている。この丸いのは、パンケーキ生地で作った団子を揚げたものだね。揚げているのに何個でも食べられそうな気になるのは、やっぱりこのシロップのお陰かな?」

 オビオは興奮して早口だ。味を忘れまいと何個も食べている。

「美味しいね~」

「ね~」

 ムクとニコニコしながらお菓子を頬張る二人を見て、オッサンも満足げだ。

「まぁ、デーツとかいう名前ではないが、オビオの言う通り、コデというヤシの実から作ったシロップだ。そいつは、胸やけを抑える効果があるんだ」

「そうなんだ? どれどれ」

 オビオは指についたシロップを見つめ、鑑定し始めた。

「ほむほむ。おぉ? こいつは凄い。油を分解するうえ、体脂肪を減らすダイエット効果もあるぞ! 見た目は絶対太るお菓子なのにー!」

「なに? ダイエット効果?!」

 樹族の三人が目を大きくして、メイドの持つコデイに走り寄る。

 パンがダイエットに興味があるのは分かる。ちょっと太っているからな。でも、サーカとウィングは、ダイエットなんかしなくても問題ない体型だろうに。なんで、そんなに目の色を変えてんだ? お? 頬いっぱいにがっつき始めたぞ。

「ダイエット効果があるとは初耳だ。流石はオビオ。鑑定士としても名を轟かせるだけはある」

 血の装備(上位鑑定の指輪)は他者が使えないだけあって、強力な効果を発揮する逸品。俺もコデイにそんな効果があるとは、知らなかったぞ。メイドの虎人までコデイを食ってやがる。ガハハ!

「ピーターは食わねぇのか?」

「お、俺はいいよ。これ以上痩せたら、小魚の骨みたいになっちゃうし」

「ガハハ! お前が痩せたら、ゴブリンあじの骨だな」

「そうはなりたくないね」

「他にお菓子はないのか?」

 もうコデイの皿は空っぽだ。オビオが(ついでにムクも)部屋中を探してキョロキョロしている。

「悪いが、後で厨房に行ってくれ。そこなら、お菓子が沢山置いてある。今は急ぎの用があるんだわ」

 ビャッコのオッサンも頷いている。

「わかった」

 いつも眠そうな垂れ目に、真剣な光が宿った。これは料理人じゃなくて、戦士の目だ。

「お前たちは、サーカの【人探し】と【転移】魔法で飛んできたから、国境に駐留する軍隊を見てないだろう? 一度見に行ってくれないか。何人か、スカウトを送って確かめさせたんだがな。何せ俺たちは魔法が苦手だろ? だから、【幻】の魔法で作られた―――、まやかしの軍隊かどうかわかんねぇんだわ」

「なるほど、ビャッコさんとトウスさんは、国境沿いの軍隊が、どうも怪しいと思ってんだな? でもさ、それだと矛盾があるぞ。魔法が苦手なのは敵も同じだろ? 幻視魔法なんて使えないんじゃないの?」

 もっともだ。

「俺もそう思いたいんだけどよ、スカウトの何人かが、恐らく【光の剣】と思われる攻撃で重傷を負っているんだわ」

「どんな傷だった? まだ怪我人は生きているか?」

 サーカが真っ先に反応した。【光の剣】といえば、樹族の騎士の代名詞みたいなものだからな。

「おい! 怪我人をここに連れてこい!」

「いや、悪いよ。ビャッコさん。俺たちが怪我人のいる場所まで出向くよ」

 コデイ並みに甘ちゃんだな、オビオは。

 ま、男として惚れた理由がそれなんだけどよ。

「そうか。オビオが言うなら、そうするか」

 今いる部屋の端に立つ柱の隙間から見える―――、大きなタープが張ってある中庭へと向かった。あそこが一番涼しいからな。そこに怪我人を休ませてんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊
ファンタジー
東京の夜を走り続けるタクシードライバー、清水翔。 ハンドル捌きと道の知識には自信があり、理不尽な客にも笑顔で対応できる――不器用ながらも芯の強い男だ。 そんな翔が、偶然立ち寄った銀座の宝くじ売り場で一人の女性・松田忍と出会う。 彼女との再会をきっかけに、人生は思いもよらぬ方向へ動き出した。 宝くじの大当たり、そして「夢を追う旅」という衝動。 二人は豪華にバスコンをカスタムしたキャンピングカー「ブレイザー」を相棒に、日本一周を計画する。 ――だが、最初のキャンプの日。 雷の直撃が二人を異世界へと連れ去った。 二つの月が照らす森で、翔は持ち前の度胸と行動力を武器に、忍を守りながら立ち向かう。 魔力で進化したブレイザー、忍の「鑑定スキル」、そして翔の判断力と腕力。 全てを駆使して、この未知の世界を切り開いていく。 焚き火の炎の向こうに広がるのは、戦いと冒険、そして新しい絆。 タクシードライバーから異世界の冒険者へ――翔と忍のキャンピングカー旅が、今始まる。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...