答えられません、国家機密ですから

ととせ

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 セイルはジェシカの鉄壁の決意に焦燥を募らせ、用意していた最後の切り札を出した。

「君のために、プレゼントを用意した。どうか正式に私の婚約者となってほしい。私は君に、真実の愛を捧げたい。これがその証だ」

 テーブルに置かれた箱をセイルが開けると、そこには王家の宝と勝るとも劣らない、見事なダイヤのネックレスが収められいた。

「……ここまで熱心な方は初めてです」
「受け取ってくれるだろうか?」

 熱の籠もった視線を向けられ、ジェシカは小さく息を吐いた。
 呆れているのか、困っているのか。その表情は読みにくい。

「本当に、よろしいのですか?」
「愛する者に求婚するのだから、当然だろう。皆気合いが足りないのだな」

 ジェシカの呟きを聞いたセイルは、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
 その整った横顔を、ジェシカは冷めた目で見ていた。

(これまで何の苦労もなく生きてきたのね……)

 伯爵位の中でも特別裕福な家に生まれ、文武に優れた青年だと聞く。
 その美貌は常に令嬢達の視線を釘付けにし、明るく華やかな彼には男女問わず多くの取り巻きがいる。

(それでも満足しないなんて。人の欲とは恐ろしいわ)


「どうしてもと仰るなら、仕方ありませんわ」

 そう言うと、セイルの表情が更に明るくなる。

「国家機密を教えて……いや、私と婚約してくれるのか?」

 本心が隠しきれていないが、ジェシカは指摘せずに柔らかな笑みでやり過ごす。

「国家機密を知ること。それには男爵家を継ぐことが前提となります」

 国家機密を知ることができるのは、フェルディ男爵家の正統な跡継ぎただ一人だけと決まっている。
 夫になるだけでは条件を満たさない。家族であっても例外ではないのだ。

「君と婚約するだけでは駄目なのか?」

 問い返すセイルの声には戸惑いが滲む。

「伴侶にも伝えてはならないという決まりなのです」

 ジェシカが淡々と告げると、セイルは眉間に深い皺を寄せる。
 考え込む彼を、ジェシカは静かな眼差しで見つめていた。

(美味しい紅茶も甘いお菓子も貴族の特権。けれど私は、そんなものはいらない)

 ティーカップを置き、ぼんやりと考える。

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