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国庫から潤沢な支援が受けられ、身の回りの品は全て王室御用達の店から届けられる。
本来男爵家が呼ばれないような、高位貴族の主催する夜会や茶会への招待も日常的だ。
けれど華やかな場へ赴いたところで、下位の男爵令嬢が敬われることはない。
「国家機密を持つ男爵家」という見えない名札のせいで、いつも周囲の好奇と嫉妬に晒されるだけだ。
場違いだと突き刺さる視線が、どれほど心を傷つけるか彼は知らない。
何か事が起これば、真っ先に囁かれるはフェルディ男爵家の名。
市井で起きる些細な事件でさえ、貴族と無関係でも、なぜか裏の首謀者として噂される。
(好奇の目で見られ、常に疑われる辛さを、想像することさえできないのでしょうね)
「あなたは伯爵家の次期当主。男爵に落ちるなど周囲もあなたご自身も受け入れられないでしょう?」
辛辣な口調になってしまった。だがセイルは気分を害するどころか、真剣に思案している。
そして、ジェシカの予想を遥かに超える答えを口にした。
「私が継げば国家機密が何であるのか、知ることができるのだな? 幸い私には弟がいる。伯爵家は弟に継がせれば問題はない。両親も君と結婚したいと相談したら、大変喜んでいた。私が男爵位になろうとも、この愛を貫いてのことと分かれば必ず祝福してくれる」
「まあ……ご家族まで……」
彼と、そして彼の家族が欲しているのは、ジェシカではない。
伯爵家の立場すら投げ捨てられるほどの価値を持つとされる国家機密と、それに付属する圧倒的な恩恵だ。
「ですがあなたが男爵家を継ぐのであれば、わたくしは出て行かなくてはなりません。これは王家と交わした約束の一つ。国家機密を知る者が二人ではいけないのです。昔は死罪にしていたようですが、今は社交会から遠ざかれば許されます」
国家機密を喋らないことは当然として、貴族社会からも遠ざけられる。
つまり平民落ちだ。
優雅な生活を捨て、一般市民として暮らす未来。普通なら震えて拒むだろうに、ジェシカは淡々としていた。そんな彼女をセイルは怪訝そうな表情で見つめる。
「君はそれでいいのか?幸い私の父は公爵家にも顔が利く。侯爵家を通じて王家に話を付ける。なんとかして君を家に置く許可を得よう」
「あら、セイル様はわたくしが出て行った方が都合がよいのではありませんか?」
セイルの目が僅かに泳いだ。その動揺をジェシカは見逃さない。
自分の容姿は平凡だとジェシカは知っている。
なによりセイルはジェシカに求婚する一方で、幼なじみの公爵令嬢とも同時進行で親密な関係になっていた。
どちらが本命かは明白だ。
「本当に君は家を出て行くのだな?」
「ええ。あなたも全てを引き継ぐことを違えませんね?」
「勿論だとも!」
セイルは隠しきれない歓喜を浮かべ、嬉しそうに答えた。
それは、「邪魔な女が去り、富だけが手に入る」という、彼にとって最高の結末が訪れた瞬間だった。
本来男爵家が呼ばれないような、高位貴族の主催する夜会や茶会への招待も日常的だ。
けれど華やかな場へ赴いたところで、下位の男爵令嬢が敬われることはない。
「国家機密を持つ男爵家」という見えない名札のせいで、いつも周囲の好奇と嫉妬に晒されるだけだ。
場違いだと突き刺さる視線が、どれほど心を傷つけるか彼は知らない。
何か事が起これば、真っ先に囁かれるはフェルディ男爵家の名。
市井で起きる些細な事件でさえ、貴族と無関係でも、なぜか裏の首謀者として噂される。
(好奇の目で見られ、常に疑われる辛さを、想像することさえできないのでしょうね)
「あなたは伯爵家の次期当主。男爵に落ちるなど周囲もあなたご自身も受け入れられないでしょう?」
辛辣な口調になってしまった。だがセイルは気分を害するどころか、真剣に思案している。
そして、ジェシカの予想を遥かに超える答えを口にした。
「私が継げば国家機密が何であるのか、知ることができるのだな? 幸い私には弟がいる。伯爵家は弟に継がせれば問題はない。両親も君と結婚したいと相談したら、大変喜んでいた。私が男爵位になろうとも、この愛を貫いてのことと分かれば必ず祝福してくれる」
「まあ……ご家族まで……」
彼と、そして彼の家族が欲しているのは、ジェシカではない。
伯爵家の立場すら投げ捨てられるほどの価値を持つとされる国家機密と、それに付属する圧倒的な恩恵だ。
「ですがあなたが男爵家を継ぐのであれば、わたくしは出て行かなくてはなりません。これは王家と交わした約束の一つ。国家機密を知る者が二人ではいけないのです。昔は死罪にしていたようですが、今は社交会から遠ざかれば許されます」
国家機密を喋らないことは当然として、貴族社会からも遠ざけられる。
つまり平民落ちだ。
優雅な生活を捨て、一般市民として暮らす未来。普通なら震えて拒むだろうに、ジェシカは淡々としていた。そんな彼女をセイルは怪訝そうな表情で見つめる。
「君はそれでいいのか?幸い私の父は公爵家にも顔が利く。侯爵家を通じて王家に話を付ける。なんとかして君を家に置く許可を得よう」
「あら、セイル様はわたくしが出て行った方が都合がよいのではありませんか?」
セイルの目が僅かに泳いだ。その動揺をジェシカは見逃さない。
自分の容姿は平凡だとジェシカは知っている。
なによりセイルはジェシカに求婚する一方で、幼なじみの公爵令嬢とも同時進行で親密な関係になっていた。
どちらが本命かは明白だ。
「本当に君は家を出て行くのだな?」
「ええ。あなたも全てを引き継ぐことを違えませんね?」
「勿論だとも!」
セイルは隠しきれない歓喜を浮かべ、嬉しそうに答えた。
それは、「邪魔な女が去り、富だけが手に入る」という、彼にとって最高の結末が訪れた瞬間だった。
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