2 / 7
2
しおりを挟む
セイルはジェシカの鉄壁の決意に焦燥を募らせ、用意していた最後の切り札を出した。
「君のために、プレゼントを用意した。どうか正式に私の婚約者となってほしい。私は君に、真実の愛を捧げたい。これがその証だ」
テーブルに置かれた箱をセイルが開けると、そこには王家の宝と勝るとも劣らない、見事なダイヤのネックレスが収められいた。
「……ここまで熱心な方は初めてです」
「受け取ってくれるだろうか?」
熱の籠もった視線を向けられ、ジェシカは小さく息を吐いた。
呆れているのか、困っているのか。その表情は読みにくい。
「本当に、よろしいのですか?」
「愛する者に求婚するのだから、当然だろう。皆気合いが足りないのだな」
ジェシカの呟きを聞いたセイルは、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
その整った横顔を、ジェシカは冷めた目で見ていた。
(これまで何の苦労もなく生きてきたのね……)
伯爵位の中でも特別裕福な家に生まれ、文武に優れた青年だと聞く。
その美貌は常に令嬢達の視線を釘付けにし、明るく華やかな彼には男女問わず多くの取り巻きがいる。
(それでも満足しないなんて。人の欲とは恐ろしいわ)
「どうしてもと仰るなら、仕方ありませんわ」
そう言うと、セイルの表情が更に明るくなる。
「国家機密を教えて……いや、私と婚約してくれるのか?」
本心が隠しきれていないが、ジェシカは指摘せずに柔らかな笑みでやり過ごす。
「国家機密を知ること。それには男爵家を継ぐことが前提となります」
国家機密を知ることができるのは、フェルディ男爵家の正統な跡継ぎただ一人だけと決まっている。
夫になるだけでは条件を満たさない。家族であっても例外ではないのだ。
「君と婚約するだけでは駄目なのか?」
問い返すセイルの声には戸惑いが滲む。
「伴侶にも伝えてはならないという決まりなのです」
ジェシカが淡々と告げると、セイルは眉間に深い皺を寄せる。
考え込む彼を、ジェシカは静かな眼差しで見つめていた。
(美味しい紅茶も甘いお菓子も貴族の特権。けれど私は、そんなものはいらない)
ティーカップを置き、ぼんやりと考える。
「君のために、プレゼントを用意した。どうか正式に私の婚約者となってほしい。私は君に、真実の愛を捧げたい。これがその証だ」
テーブルに置かれた箱をセイルが開けると、そこには王家の宝と勝るとも劣らない、見事なダイヤのネックレスが収められいた。
「……ここまで熱心な方は初めてです」
「受け取ってくれるだろうか?」
熱の籠もった視線を向けられ、ジェシカは小さく息を吐いた。
呆れているのか、困っているのか。その表情は読みにくい。
「本当に、よろしいのですか?」
「愛する者に求婚するのだから、当然だろう。皆気合いが足りないのだな」
ジェシカの呟きを聞いたセイルは、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
その整った横顔を、ジェシカは冷めた目で見ていた。
(これまで何の苦労もなく生きてきたのね……)
伯爵位の中でも特別裕福な家に生まれ、文武に優れた青年だと聞く。
その美貌は常に令嬢達の視線を釘付けにし、明るく華やかな彼には男女問わず多くの取り巻きがいる。
(それでも満足しないなんて。人の欲とは恐ろしいわ)
「どうしてもと仰るなら、仕方ありませんわ」
そう言うと、セイルの表情が更に明るくなる。
「国家機密を教えて……いや、私と婚約してくれるのか?」
本心が隠しきれていないが、ジェシカは指摘せずに柔らかな笑みでやり過ごす。
「国家機密を知ること。それには男爵家を継ぐことが前提となります」
国家機密を知ることができるのは、フェルディ男爵家の正統な跡継ぎただ一人だけと決まっている。
夫になるだけでは条件を満たさない。家族であっても例外ではないのだ。
「君と婚約するだけでは駄目なのか?」
問い返すセイルの声には戸惑いが滲む。
「伴侶にも伝えてはならないという決まりなのです」
ジェシカが淡々と告げると、セイルは眉間に深い皺を寄せる。
考え込む彼を、ジェシカは静かな眼差しで見つめていた。
(美味しい紅茶も甘いお菓子も貴族の特権。けれど私は、そんなものはいらない)
ティーカップを置き、ぼんやりと考える。
1
あなたにおすすめの小説
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
婚約者が裏でこっそり姫と付き合っていました!? ~あの時離れておいて良かったと思います、後悔はありません~
四季
恋愛
婚約者が裏でこっそり姫と付き合っていました!?
あの時離れておいて良かったと思います、後悔はありません。
私に婚約者がいたらしい
来栖りんご
恋愛
学園に通っている公爵家令嬢のアリスは親友であるソフィアと話をしていた。ソフィアが言うには私に婚約者がいると言う。しかし私には婚約者がいる覚えがないのだが…。遂に婚約者と屋敷での生活が始まったが私に回復魔法が使えることが発覚し、トラブルに巻き込まれていく。
【完結】見えるのは私だけ?〜真実の愛が見えたなら〜
白崎りか
恋愛
「これは政略結婚だ。おまえを愛することはない」
初めて会った婚約者は、膝の上に女をのせていた。
男爵家の者達はみな、彼女が見えていないふりをする。
どうやら、男爵の愛人が幽霊のふりをして、私に嫌がらせをしているようだ。
「なんだ? まさかまた、幽霊がいるなんて言うんじゃないだろうな?」
私は「うそつき令嬢」と呼ばれている。
幼い頃に「幽霊が見える」と王妃に言ってしまったからだ。
婚約者も、愛人も、召使たちも。みんな私のことが気に入らないのね。
いいわ。最後までこの茶番劇に付き合ってあげる。
だって、私には見えるのだから。
※小説家になろう様にも投稿しています。
だってお顔がとてもよろしいので
喜楽直人
恋愛
領地に銀山が発見されたことで叙爵されたラートン男爵家に、ハーバー伯爵家から強引な婿入りの話がきたのは爵位を得てすぐ、半年ほど前のことだった。
しかし、その婚約は次男であったユリウスには不本意なものであったようで、婚約者であるセリーンをまったく顧みることはなかった。
ついには、他の令嬢との間に子供ができたとセリーンは告げられてしまう。
それでもついセリーンは思ってしまうのだ。
「あぁ、私の婚約者は、どんな下種顔をしていてもお顔がいい」と。
その言葉、今さらですか?あなたが落ちぶれても、もう助けてあげる理由はありません
reva
恋愛
「君は、地味すぎるんだ」――そう言って、辺境伯子息の婚約者はわたしを捨てた。
彼が選んだのは、華やかで社交界の華と謳われる侯爵令嬢。
絶望の淵にいたわたしは、道で倒れていた旅人を助ける。
彼の正体は、なんと隣国の皇帝だった。
「君の優しさに心を奪われた」優しく微笑む彼に求婚され、わたしは皇妃として新たな人生を歩み始める。
一方、元婚約者は選んだ姫に裏切られ、すべてを失う。
助けを乞う彼に、わたしは冷たく言い放つ。
「あなたを助ける義理はありません」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる