4 / 7
4
しおりを挟む
「皆様、国王にご連絡をしてください」
ジェシカが高らかに叫ぶと、どこからか黒衣の男が数名現れた。
フードを目深に被っているので、顔は全く見えない。
「本日ただいまを持って、男爵家当主の座が移行したことを見届けました」
黒衣の一人がジェシカの前に進み出て、低く静かな声で告げる。
「なんと…やはり秘密組織を所有していたのか!」
セイルが驚愕の声を上げるが、ジェシカは首を振った。
「いいえ。この方は王家から派遣されている影ですよ。わたくしの監視役です」
「では国家機密とは、莫大な隠し財産か? もしや、精霊の恩寵は事実だったのか?」
夢物語を期待するセイルに、ジェシカは冷徹に言い放った。
「そんなのおとぎ話です」
「では一体……」
問いかけは最後まで続かなかった。ジェシカが静かに手を上げて制したからだ。
「これから新たな当主セイル・フェルディ男爵に、国家機密をお伝えいたします」
ジェシカは冷たく、そしておぞましい真実を静かに語り始めた。
王家がまだ貴族達を御しきれず、血なまぐさい争いが続いていた時代に遡る。
当時の宰相は、王族の暗殺を試みる勢力に対抗するため、一つの残酷なアイデアを思いついた。
「王族を狙う敵の標的を、別の貴族にすり替えればいい」
王族の影武者は多くいたが、完璧な替え玉は少ない。それに似ているという事は、つまり王族の血が流れていると言う事でもある。
ただでさえ数を減らしている王族を、替え玉として遣い潰すのは得策ではない。
かといってそっくりの赤の他人を探したところで限りがある。
そこで白羽の矢が立ったのが、子だくさんで親戚も多くいるフェルディ男爵家だ。男爵位と言っても平民のような貧しい生活をしてた彼らに、生け贄として選ばれたことを拒否する権利など存在しなかった。
以来、フェルディ男爵家は「国家機密を保持している」という名目で、国庫からの潤沢な補助金と王族からの過度な庇護を受けることとなる。
特別なものを持たない男爵家が機密を持つ。その異様な状況は宰相の思惑通り、貴族社会に勝手に噂を広めた。
外国に隠し財産があるだとか、王家の影をも凌ぐ暗殺集団を抱えているだとか。
精霊から加護や魔術を与えられたなどという、おとぎ話のような噂まで、真実のように広められた。
貴族たちは男爵家を懐柔しようと群がり、同時に排除しようとも動いた。
宰相の目論見は当たり、国家機密を託された一族は次々に暗殺された。
毒殺、刺殺、事故に見せかけた殺しは日常茶飯事。誘拐され、国家機密を吐くまで拷問された末に殺された者も少なくない。
薔薇の甘い香りが漂うガゼボに似つかわしくない、国家の血なまぐさい裏の歴史をジェシカは感情を殺したまま語り続ける。
「――国家機密なんてないんですもの、答えられません。お陰で残った直系はわたくし一人。受け継いだのは先祖が散々飲まされた毒くらいですね。そのせいで体が弱くて、両親も早くに病で亡くなりました」
淡々と話しながらも、言葉の端々に一族の受けた理不尽への恨みが滲む。
先祖達が飲まされた毒は、一族の血を蝕み続けている。この平和な時代になっても、母体を通じてジェシカにも残ったのだ。
母が病死して程なく、父は気が弱ってそのまま亡くなった。
「これが我が男爵家の全てです。申し訳ございません、当主はあなたでしたね」
ジェシカは静かにセイルを見つめる。真実を聞いた彼は信じられないといった様子で呆然としていた。
ジェシカが高らかに叫ぶと、どこからか黒衣の男が数名現れた。
フードを目深に被っているので、顔は全く見えない。
「本日ただいまを持って、男爵家当主の座が移行したことを見届けました」
黒衣の一人がジェシカの前に進み出て、低く静かな声で告げる。
「なんと…やはり秘密組織を所有していたのか!」
セイルが驚愕の声を上げるが、ジェシカは首を振った。
「いいえ。この方は王家から派遣されている影ですよ。わたくしの監視役です」
「では国家機密とは、莫大な隠し財産か? もしや、精霊の恩寵は事実だったのか?」
夢物語を期待するセイルに、ジェシカは冷徹に言い放った。
「そんなのおとぎ話です」
「では一体……」
問いかけは最後まで続かなかった。ジェシカが静かに手を上げて制したからだ。
「これから新たな当主セイル・フェルディ男爵に、国家機密をお伝えいたします」
ジェシカは冷たく、そしておぞましい真実を静かに語り始めた。
王家がまだ貴族達を御しきれず、血なまぐさい争いが続いていた時代に遡る。
当時の宰相は、王族の暗殺を試みる勢力に対抗するため、一つの残酷なアイデアを思いついた。
「王族を狙う敵の標的を、別の貴族にすり替えればいい」
王族の影武者は多くいたが、完璧な替え玉は少ない。それに似ているという事は、つまり王族の血が流れていると言う事でもある。
ただでさえ数を減らしている王族を、替え玉として遣い潰すのは得策ではない。
かといってそっくりの赤の他人を探したところで限りがある。
そこで白羽の矢が立ったのが、子だくさんで親戚も多くいるフェルディ男爵家だ。男爵位と言っても平民のような貧しい生活をしてた彼らに、生け贄として選ばれたことを拒否する権利など存在しなかった。
以来、フェルディ男爵家は「国家機密を保持している」という名目で、国庫からの潤沢な補助金と王族からの過度な庇護を受けることとなる。
特別なものを持たない男爵家が機密を持つ。その異様な状況は宰相の思惑通り、貴族社会に勝手に噂を広めた。
外国に隠し財産があるだとか、王家の影をも凌ぐ暗殺集団を抱えているだとか。
精霊から加護や魔術を与えられたなどという、おとぎ話のような噂まで、真実のように広められた。
貴族たちは男爵家を懐柔しようと群がり、同時に排除しようとも動いた。
宰相の目論見は当たり、国家機密を託された一族は次々に暗殺された。
毒殺、刺殺、事故に見せかけた殺しは日常茶飯事。誘拐され、国家機密を吐くまで拷問された末に殺された者も少なくない。
薔薇の甘い香りが漂うガゼボに似つかわしくない、国家の血なまぐさい裏の歴史をジェシカは感情を殺したまま語り続ける。
「――国家機密なんてないんですもの、答えられません。お陰で残った直系はわたくし一人。受け継いだのは先祖が散々飲まされた毒くらいですね。そのせいで体が弱くて、両親も早くに病で亡くなりました」
淡々と話しながらも、言葉の端々に一族の受けた理不尽への恨みが滲む。
先祖達が飲まされた毒は、一族の血を蝕み続けている。この平和な時代になっても、母体を通じてジェシカにも残ったのだ。
母が病死して程なく、父は気が弱ってそのまま亡くなった。
「これが我が男爵家の全てです。申し訳ございません、当主はあなたでしたね」
ジェシカは静かにセイルを見つめる。真実を聞いた彼は信じられないといった様子で呆然としていた。
85
あなたにおすすめの小説
真実の愛に目覚めた伯爵令嬢と公爵子息
藤森フクロウ
恋愛
女伯爵であった母のエチェカリーナが亡くなり、父は愛人を本宅に呼んで異母姉妹が中心となっていく。
どんどん居場所がなくなり落ち込むベアトリーゼはその日、運命の人に出会った。
内気な少女が、好きな人に出会って成長し強くなっていく話。
シリアスは添え物で、初恋にパワフルに突き進むとある令嬢の話。女子力(物理)。
サクッと呼んで、息抜きにすかっとしたい人向け。
純愛のつもりですが、何故か電車やバスなどの公共施設や職場では読まないことをお薦めしますというお言葉を頂きました。
転生要素は薄味で、ヒロインは尽くす系の一途です。
一日一話ずつ更新で、主人公視点が終わった後で別視点が入る予定です。
そっちはクロードの婚約裏話ルートです。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
婚約破棄ですか、では死にますね【完結】
砂礫レキ
恋愛
自分を物語の主役だと思い込んでいる夢見がちな妹、アンジェラの社交界デビューの日。
私伯爵令嬢エレオノーラはなぜか婚約者のギースに絶縁宣言をされていた。
場所は舞踏会場、周囲が困惑する中芝居がかった喋りでギースはどんどん墓穴を掘っていく。
氷の女である私より花の妖精のようなアンジェラと永遠の愛を誓いたいと。
そして肝心のアンジェラはうっとりと得意げな顔をしていた。まるで王子に愛を誓われる姫君のように。
私が冷たいのではなく二人の脳みそが茹っているだけでは?
婚約破棄は承ります。但し、今夜の主役は奪わせて貰うわよアンジェラ。
双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた
今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。
二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。
それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。
しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。
調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる