175 / 266
161 魔王と転移者
しおりを挟む
まぶしさに閉じていた瞳を開くと、真っ白な空間にいた。
俺とその隣にいる妻を、ノアがじっと見つめている。
「……ノア?」
不審に思って声をかけると、ノアは複雑そうな顔をして微笑んだ。
そして「次の世界に行く前に、ちょっと準備が必要なんだ」と言い、ぱちんと指を鳴らす。
すると俺たちの服装がいつの間にか変わっていた。
冒険者風の動きやすい服装だったのが、黒をベースとした軍服のようなものになっている。
さらにトレンチコートまで黒で、襟もとにはボリュームのあるファーがついていた。
妻もおそろいのデザインだが、ズボンの丈が異様に短く、黒のニーハイブーツと合わせて絶対領域とやらがあらわになっている。
漫画やアニメなんかで出てくる軍服少女そのものだ。
「わあ!新しい服もかわいい!大人っぽい!」
妻はにこにことはしゃいでご機嫌そうにしている。
くるくる回ると、トレンチコートの裾が膨らみ、スカートのように見えた。
「な、なんでこんな格好……」
少しコスプレをしているかのような気分になって、気恥ずかしくなる。
ノアはクスクス笑って「二人とも、似合ってるよ」と言った。
そんなノアの服装も、黒がベースのものに変わっていた。
ノアの場合、軍服ではなく、貴族のお坊ちゃんが着ていそうな質感の良いスーツだった。
黒いリボンタイには、ノアの瞳と同じ色の青い宝石のついたブローチが飾られている。
「ノアくんもかわいい!」
「ありがとう」
妻の誉め言葉に、ノアが微笑んで答える。
そして自分のリボンタイと同じデザインの首輪をコトラにつけた。
コトラは嫌がることなく、じっとノアを見つめている。
ノアは首輪をつけ終わると満足そうな顔をして、話を始めた。
「次に行く世界にも、魔王がいるんだ」
「……魔王、どこの世界にもいるな……」
「ふふ、いない世界もあるよ」
俺のぼやきに、ノアが苦笑して答える。
こうも行く先々の世界に魔王が存在していると、なんだか特別感が薄れるように思えてならない。
「それで?また転移者は魔王討伐を依頼されているのか?」
「……いや」
「違うのか?」
「うん。勇者はいることにはいるんだけど、向こうの世界の住人なんだ。勇者パーティーのほかのメンバーも、全員転移者ではない」
珍しいパターンだ。
そう思いつつ、話の続きに耳を傾ける。
「転移者は……魔王城にいるんだよね」
困ったように、ノアが笑った。
俺は衝撃の事実に、口をぽかんと開けて固まる。
すると妻が「魔王に捕まっちゃったの?」と問いかけた。
しかしノアは、首を横に振って否定する。
「じゃあ、魔王の仲間になったの?」
妻の言葉に、ノアは小さく頷いた。
まさかの連続に、俺は口をパクパクさせる。
確かに、たまにラノベの設定なんかで見かけるけど、実際に魔王に手を貸す転移者がいるとは……。
そして改めて、黒で統一された服装を見て納得する。
魔王といえば黒、というのは安直すぎる気もするが。
「つまり、今回の転移者は魔王と手を組み、人間と対立しているということか?神のねらいがよくわからないが……」
「いや、人間と対立している……とは言えないかな?」
「どういうことだ?」
ノアが言うには、魔王側には人間と敵対する意思はないらしい。
人間を襲うつもりも、人間の国の領土を狙うつもりもないと。
しかし人間たちはそれに納得しておらず「いつか攻めてくるかもしれない」という理由で、魔王の討伐を目論んでいるそうだ。
幸い魔王側の方が個々の戦闘力が圧倒的に高く、攻め入る人間たちは脅威にすらなっていない。
ただし、勇者パーティーは人間にしては戦闘力が高く、弱い個体の魔物や魔人には命の危険があるという。
加えて最近では伝説の聖剣とやらを手に入れ、魔王側では警戒が強まっているそうだ。
「聖剣があれば、魔王にも勝てるのか?」
「いや、まず無理だろうね。魔王の側近たちにさえ、手も足も出ないんじゃないかな?」
「そうなのか?伝説なのに?」
「伝説と言っても、人間にとっては攻撃力が高いだけで、魔王側にはもっと強い武器はいくらでもあるからね」
「ああ……」
ただ勇者たちがどこから攻め入ってくるかわからない状況では、魔王国の民に犠牲が出る可能性もある。
そこでやむを得ず、勇者を見つけたらとらえるよう命令が下されているという。
確保が難しければ、駆除も致し方なしと。
「駆除……」
まるで害虫か何かのようだが、魔王側からするとまさしくそうなのだろう。
しかしそうして魔王側に危害を加えようとする人間を、転移者とはいえ魔王城に置くとは、魔王は変わり者なのかもしれない。
「それで、転移者は……」
「魔王側と人間側の和解を目指しているようだね。ただ、転移者本人は魔王側に受け入れられているけど、その世界の人間は偏見強くて、難しいそうだよ」
「だろうな……」
差別や偏見の根は、想像以上に深いものだ。
それも種族が異なるとなれば、なおさらだろう。
それでも、転移者が魔王城で不遇な扱いを受けていないというのは朗報だと言える。
「それでね」
ノアは意を決したように言った。
「その魔王城にいる転移者っているのが、柚乃ちゃんなんだ」
その言葉に、俺は目を見開いた。
娘が魔王城にいる。
今から俺たちが向かう世界に、柚乃がいる。
期待と不安が入り混じって、頭が真っ白になる。
待ち望んだ再会が、すぐそこまで迫っていることに、心が震えるのを感じた。
-----------------------------------------
次回からしばらく特別編を挟んで、最後の世界での冒険が始まります。
果たして伊月たちは、柚乃と無事に再会を果たし、元の世界へ戻ることができるのか。
ぜひ最後までお楽しみください!
次回からの特別編も少し長くなりますが、こちらもお付き合いいただけるとうれしいです。
俺とその隣にいる妻を、ノアがじっと見つめている。
「……ノア?」
不審に思って声をかけると、ノアは複雑そうな顔をして微笑んだ。
そして「次の世界に行く前に、ちょっと準備が必要なんだ」と言い、ぱちんと指を鳴らす。
すると俺たちの服装がいつの間にか変わっていた。
冒険者風の動きやすい服装だったのが、黒をベースとした軍服のようなものになっている。
さらにトレンチコートまで黒で、襟もとにはボリュームのあるファーがついていた。
妻もおそろいのデザインだが、ズボンの丈が異様に短く、黒のニーハイブーツと合わせて絶対領域とやらがあらわになっている。
漫画やアニメなんかで出てくる軍服少女そのものだ。
「わあ!新しい服もかわいい!大人っぽい!」
妻はにこにことはしゃいでご機嫌そうにしている。
くるくる回ると、トレンチコートの裾が膨らみ、スカートのように見えた。
「な、なんでこんな格好……」
少しコスプレをしているかのような気分になって、気恥ずかしくなる。
ノアはクスクス笑って「二人とも、似合ってるよ」と言った。
そんなノアの服装も、黒がベースのものに変わっていた。
ノアの場合、軍服ではなく、貴族のお坊ちゃんが着ていそうな質感の良いスーツだった。
黒いリボンタイには、ノアの瞳と同じ色の青い宝石のついたブローチが飾られている。
「ノアくんもかわいい!」
「ありがとう」
妻の誉め言葉に、ノアが微笑んで答える。
そして自分のリボンタイと同じデザインの首輪をコトラにつけた。
コトラは嫌がることなく、じっとノアを見つめている。
ノアは首輪をつけ終わると満足そうな顔をして、話を始めた。
「次に行く世界にも、魔王がいるんだ」
「……魔王、どこの世界にもいるな……」
「ふふ、いない世界もあるよ」
俺のぼやきに、ノアが苦笑して答える。
こうも行く先々の世界に魔王が存在していると、なんだか特別感が薄れるように思えてならない。
「それで?また転移者は魔王討伐を依頼されているのか?」
「……いや」
「違うのか?」
「うん。勇者はいることにはいるんだけど、向こうの世界の住人なんだ。勇者パーティーのほかのメンバーも、全員転移者ではない」
珍しいパターンだ。
そう思いつつ、話の続きに耳を傾ける。
「転移者は……魔王城にいるんだよね」
困ったように、ノアが笑った。
俺は衝撃の事実に、口をぽかんと開けて固まる。
すると妻が「魔王に捕まっちゃったの?」と問いかけた。
しかしノアは、首を横に振って否定する。
「じゃあ、魔王の仲間になったの?」
妻の言葉に、ノアは小さく頷いた。
まさかの連続に、俺は口をパクパクさせる。
確かに、たまにラノベの設定なんかで見かけるけど、実際に魔王に手を貸す転移者がいるとは……。
そして改めて、黒で統一された服装を見て納得する。
魔王といえば黒、というのは安直すぎる気もするが。
「つまり、今回の転移者は魔王と手を組み、人間と対立しているということか?神のねらいがよくわからないが……」
「いや、人間と対立している……とは言えないかな?」
「どういうことだ?」
ノアが言うには、魔王側には人間と敵対する意思はないらしい。
人間を襲うつもりも、人間の国の領土を狙うつもりもないと。
しかし人間たちはそれに納得しておらず「いつか攻めてくるかもしれない」という理由で、魔王の討伐を目論んでいるそうだ。
幸い魔王側の方が個々の戦闘力が圧倒的に高く、攻め入る人間たちは脅威にすらなっていない。
ただし、勇者パーティーは人間にしては戦闘力が高く、弱い個体の魔物や魔人には命の危険があるという。
加えて最近では伝説の聖剣とやらを手に入れ、魔王側では警戒が強まっているそうだ。
「聖剣があれば、魔王にも勝てるのか?」
「いや、まず無理だろうね。魔王の側近たちにさえ、手も足も出ないんじゃないかな?」
「そうなのか?伝説なのに?」
「伝説と言っても、人間にとっては攻撃力が高いだけで、魔王側にはもっと強い武器はいくらでもあるからね」
「ああ……」
ただ勇者たちがどこから攻め入ってくるかわからない状況では、魔王国の民に犠牲が出る可能性もある。
そこでやむを得ず、勇者を見つけたらとらえるよう命令が下されているという。
確保が難しければ、駆除も致し方なしと。
「駆除……」
まるで害虫か何かのようだが、魔王側からするとまさしくそうなのだろう。
しかしそうして魔王側に危害を加えようとする人間を、転移者とはいえ魔王城に置くとは、魔王は変わり者なのかもしれない。
「それで、転移者は……」
「魔王側と人間側の和解を目指しているようだね。ただ、転移者本人は魔王側に受け入れられているけど、その世界の人間は偏見強くて、難しいそうだよ」
「だろうな……」
差別や偏見の根は、想像以上に深いものだ。
それも種族が異なるとなれば、なおさらだろう。
それでも、転移者が魔王城で不遇な扱いを受けていないというのは朗報だと言える。
「それでね」
ノアは意を決したように言った。
「その魔王城にいる転移者っているのが、柚乃ちゃんなんだ」
その言葉に、俺は目を見開いた。
娘が魔王城にいる。
今から俺たちが向かう世界に、柚乃がいる。
期待と不安が入り混じって、頭が真っ白になる。
待ち望んだ再会が、すぐそこまで迫っていることに、心が震えるのを感じた。
-----------------------------------------
次回からしばらく特別編を挟んで、最後の世界での冒険が始まります。
果たして伊月たちは、柚乃と無事に再会を果たし、元の世界へ戻ることができるのか。
ぜひ最後までお楽しみください!
次回からの特別編も少し長くなりますが、こちらもお付き合いいただけるとうれしいです。
21
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる