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特別編(15)夢
……ああ、またか。
曖昧な意識を手繰り寄せながら、大和亮介は心の中で毒づいた。
これで何度目だろう。
夢の中で目を覚ますと、テレビが一台置いてあるだけの空虚な空間に、亮介は座り込んでいる。
今時珍しいブラウン管のテレビの中には、現実世界ではいくら探しても手掛かりさえ掴めない最愛の妻、奈央の姿が映し出されている。
亮介もはじめのうちは、夢の中だけでも奈央の姿を見られてうれしかった。
自分の声が届かなくても、元気そうな妻の姿をみるだけで安心できた。
しかし「ただ見ていることしかできない」状態は、次第に亮介の心を蝕んでいった。
画面の中の奈央は、聖女と呼ばれ、まるで映画や漫画のように困った人々を救っていた。
亮介はファンタジー系には疎く、詳しいことはわからなかったが、どうやら奈央がいる世界には魔法というものが存在しているようだった。
テレビの中の奈央は、亮介の知る彼女とは別人のように思えた。
しかし画面が切り替わり、一人部屋の中で声を押し殺して泣く奈央の姿を見るたび、亮介は胸が張り裂けそうな思いになる。
届かないとわかっていても、亮介は何度もテレビに縋りついては奈央の名前を呼んだ。
しかし案の定、彼の声は空虚な空間の中にむなしく響くだけだった。
そんな日々を繰り返すうち、亮介は夢を見るたび、ぼんやりとテレビを眺めることしかできなくなっていた。
その場にうなだれ、絶望的な気持ちで画面の中に映る奈央の姿に時折視線を向ける。
何もできない無力感。
そばにいてやれないもどかしさ。
亮介は頬を伝う涙をぬぐうこともなく、ただ悔しさに唇を噛み、拳を握り締めるしかなかった。
かみしめた唇に血がにじむこともあったが、目が覚めたら無傷のまま。
安全な場所で黙って奈央を見ていることしかできない自分を、亮介は心の底から恨んだ。
以前夢の中で出会った「異世界の神」と名乗る男は、奈央を聖女として召喚したと亮介に告げた。
しかしそれ以降は、一度も亮介の前に姿を現すことはなく、亮介はただ画面越しに奈央の姿を見るばかりだった。
ただ、その日の夢はなんだかいつもと様子が違った。
またいつものように絶望しながら画面を眺めていた亮介は、視線の先に奈央の姿がないことに驚いた。
テレビに映っているのは、見知らぬ人間たちばかり。
中年男性が1人。
高校生くらいの男の子が3人、女の子が1人。
そして小学生くらいの男の子が1人。
おまけに黒猫までいる。
「……誰だ、こいつら……?」
そうつぶやいた亮介は、画面をじっと見つめる。
そしてそのうちの一人に、既視感を覚えた。
どこかで見たことがあるような、でも初めて見るような少年。
必死で記憶を手繰り寄せた亮介は、一人の中年男性を思い浮かべた。
その男は、以前一度だけ、異世界転移被害者の会の会合に参加していた。
娘が異世界転移したと話していた男だ。
それから、彼が本当に異世界へ渡り、転移者たちのもとを回っているという眉唾物の話を亮介は耳にした。
実際、彼に救われてこの世界へ戻ってきたと証言する子どもからも話を聞いたことがある。
正直半信半疑ではあったが、亮介は自称帰還者である少年少女が、男が若返っていたと語っていたことを思い出した。
「……まじで瀬野さんなのかよ!」
瀬野伊月。
いかにも気の弱そうな、でも人の良さそうな男だと思ったことを亮介はよく覚えていた。
その彼が、今画面の中でまじめな顔をして何かを見ている。
その視線の先は一体何なのか。
淡い期待を胸に、亮介は食い入るように画面を見つめていた。
曖昧な意識を手繰り寄せながら、大和亮介は心の中で毒づいた。
これで何度目だろう。
夢の中で目を覚ますと、テレビが一台置いてあるだけの空虚な空間に、亮介は座り込んでいる。
今時珍しいブラウン管のテレビの中には、現実世界ではいくら探しても手掛かりさえ掴めない最愛の妻、奈央の姿が映し出されている。
亮介もはじめのうちは、夢の中だけでも奈央の姿を見られてうれしかった。
自分の声が届かなくても、元気そうな妻の姿をみるだけで安心できた。
しかし「ただ見ていることしかできない」状態は、次第に亮介の心を蝕んでいった。
画面の中の奈央は、聖女と呼ばれ、まるで映画や漫画のように困った人々を救っていた。
亮介はファンタジー系には疎く、詳しいことはわからなかったが、どうやら奈央がいる世界には魔法というものが存在しているようだった。
テレビの中の奈央は、亮介の知る彼女とは別人のように思えた。
しかし画面が切り替わり、一人部屋の中で声を押し殺して泣く奈央の姿を見るたび、亮介は胸が張り裂けそうな思いになる。
届かないとわかっていても、亮介は何度もテレビに縋りついては奈央の名前を呼んだ。
しかし案の定、彼の声は空虚な空間の中にむなしく響くだけだった。
そんな日々を繰り返すうち、亮介は夢を見るたび、ぼんやりとテレビを眺めることしかできなくなっていた。
その場にうなだれ、絶望的な気持ちで画面の中に映る奈央の姿に時折視線を向ける。
何もできない無力感。
そばにいてやれないもどかしさ。
亮介は頬を伝う涙をぬぐうこともなく、ただ悔しさに唇を噛み、拳を握り締めるしかなかった。
かみしめた唇に血がにじむこともあったが、目が覚めたら無傷のまま。
安全な場所で黙って奈央を見ていることしかできない自分を、亮介は心の底から恨んだ。
以前夢の中で出会った「異世界の神」と名乗る男は、奈央を聖女として召喚したと亮介に告げた。
しかしそれ以降は、一度も亮介の前に姿を現すことはなく、亮介はただ画面越しに奈央の姿を見るばかりだった。
ただ、その日の夢はなんだかいつもと様子が違った。
またいつものように絶望しながら画面を眺めていた亮介は、視線の先に奈央の姿がないことに驚いた。
テレビに映っているのは、見知らぬ人間たちばかり。
中年男性が1人。
高校生くらいの男の子が3人、女の子が1人。
そして小学生くらいの男の子が1人。
おまけに黒猫までいる。
「……誰だ、こいつら……?」
そうつぶやいた亮介は、画面をじっと見つめる。
そしてそのうちの一人に、既視感を覚えた。
どこかで見たことがあるような、でも初めて見るような少年。
必死で記憶を手繰り寄せた亮介は、一人の中年男性を思い浮かべた。
その男は、以前一度だけ、異世界転移被害者の会の会合に参加していた。
娘が異世界転移したと話していた男だ。
それから、彼が本当に異世界へ渡り、転移者たちのもとを回っているという眉唾物の話を亮介は耳にした。
実際、彼に救われてこの世界へ戻ってきたと証言する子どもからも話を聞いたことがある。
正直半信半疑ではあったが、亮介は自称帰還者である少年少女が、男が若返っていたと語っていたことを思い出した。
「……まじで瀬野さんなのかよ!」
瀬野伊月。
いかにも気の弱そうな、でも人の良さそうな男だと思ったことを亮介はよく覚えていた。
その彼が、今画面の中でまじめな顔をして何かを見ている。
その視線の先は一体何なのか。
淡い期待を胸に、亮介は食い入るように画面を見つめていた。
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