虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

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第43話 閑話3 ~システィーナとルヴィス~(別視点)

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 システィーナの姿は、城の屋上にあった。
 風が、システィーナの髪と、体を覆う長い上着を揺らしていく。

「夜空はどこも変わらんのぅ」

 そう呟くと、システィーナは首を少し後ろに向け、艶やかな口角を上げた。

「なぁ、ルヴィスとやら」
「気づいておられましたか……お邪魔であれば去ろうと思っていたのですが……」
「よい。丁度わしも、話し相手が欲しかったところじゃ」

 手に持った扇で口元を隠しながら、システィーナは艶やかに笑った。肌が見える面積が少なくはなったが、彼女が持つ妖艶な美しさは健在だ。
 システィーナは、国賓としてしばらくルミテリス王国に滞在することとなった。

「……クロラヴィア王国のシィとやらの正体が気になって、このまま国に帰っても夜しか寝れん」

 と謎の言い訳をしたことで、残ることになったのだ。
 レイも、フェンレア王国やその周辺諸国についての情報が欲しかったことと、

「……確かに、シィの正体が気になって、昼寝が出来ないのは辛いな、システィーナ殿」

 という、こちらもまた謎の納得をして、二つ返事で了承した形となった。
 そのやりとりを隣で聞いていたルヴィスが、こめかみを押さえたのは言うまでも無い。

 ルヴィスはゆっくりと歩みを勧めると、システィーナの隣に立った。二人の視線が、王都からさらに向こうに向けられる。

 クロラヴィア王国がある方へ――

「向き合わねばならんじゃろうな。クロラヴィア王国と。とんでもないことが起こる気がするのじゃ」
「やはりシスティーナ様もそう思われますか。陛下も同じことを仰っておられました」

 そう返答しながら、ルヴィスは先ほどまでかわしていたレイとのやりとりを思い出していた。

「『クロラヴィア王国への疑問を、これ以上先送りにするのは危険だ。今から真剣に向き合わなければ、取り返しの付かないことが起こる』と」
「やはり、レイ王も同じことを考えておったか。流石、わしが見込んだ男じゃな」

 薄く笑みを浮かべるシスティーナ。そんな彼女を、ルヴィスは不思議そうに見つめる。

「でも何故システィーナ様はそう思われたのですか? ちなみにレイ陛下は……」
「どうせあの男のことじゃ。『勘』じゃろ?」
「そ、その通りですが……」

 何で分かったの、こわっ……という心の声を若干表に出しながら、ルヴィスは頷いた。
 それを見て、システィーナが笑うと、腰に手をやって豊かな胸の膨らみを強調するように反らした。

「わしも『勘』じゃからのう!」
「は、はぁ……そ、そうですか……」

 システィーナの根拠に期待していたのだろう。親友と同じ理由を告げられ、ルヴィスは明らかに肩を落とした。
 だがシスティーナは気分を害した様子なく、口元を扇で隠しながら、目を細める。

「まあ、レイ王もわしと同じように、最終的な決断や判断を、自身の勘に委ねる種類の人間じゃからのう。じゃが――」

 深緑の瞳が鋭くなった。

「意外と侮れんもんじゃぞ? 身の危険をいち早く察知する本能的な機能じゃからのぅ。それにわしは、フェンレア王国の星詠みの一人として、国の未来を占っておるしな」
「星詠み……ですか。占いを政治に組み込んでおられるんですね」
「これでも、国一じゃと評判じゃぞ?」

 鋭い光を放っていたシスティーナの瞳が緩み、いたずらっ子のようにウィンクした。

 ルヴィスは理論的な思考をするため、占いは信じていない。様々なデータを見て、判断をするのが合理的かつ正しいと思っている。
 だが、システィーナの話を聞いた後も、彼女に対して胡散臭さは感じられなかった。

 国のトップとして、聖女として、統治者として自信に満ちあふれている。システィーナが女王として、どれだけの困難を乗り越えてきたのかがその横顔から伝わってきた。

 レイと同じように――

(なるほど……確かに、同じ種類の人間だな)

 システィーナの表情とレイの表情が被り、思わず口元が緩んでしまった。
 だがすぐさま、緩んだ唇に力を込める。

「ならば……システィーナ様はこの先をどう詠まれますか?」

 姿を見せないクロラヴィア王国の守護獣シィ。
 禁忌によって聖女にされ、生命力を捧げさせられている女性たち。
 セレスティアルが本物の聖女だと気づいていながら、それを告げること無く投獄された神官長ネルロ。

 不穏な事実を頭の中で並べながら、ルヴィスが訊ねる。
 システィーナは空を見上げ、瞳を閉じた。言葉を紡ぎ出す唇は、僅かに震えているように見えた。

「……視えぬ。だからこそ、気味が悪いんじゃ」
「そう、ですか……クロラヴィア王国に行けば……全てが明らかになるのでしょうか」
「そうかもしれん。じゃが、間違いなくセレスティアルも巻き込むことになるじゃろう。それはレイ王も承知しておるのか?」

 セレスティアルの境遇については、システィーナたちに軽く説明をしている。とはいえ、クロラヴィア王国の聖女だったが、素質を疑われ、結局追放されたことだけにとどめ、クロラヴィア王国に複数聖女がいる件については話していない。

 そのため、

「何故その王太子ってやつ、聖女を追放したんだ? アホなのかな? それとも馬鹿なのかな!?」

 と、聖女を大切に思っているルゥナが、疑問と怒りを露わにしていたが。

「まあ……陛下はその件については反対されていますね……何とかセレスティアル様には内密に動きたいと思っているようですが……」
「ま、無理じゃろうな。あの男に隠し事は」
「ですよねぇ……」

 二人ほぼ同時にため息をついた。

「ま、考えておっても埒があかぬ。わしらに協力出来ることがあれば、何でも言うが良い」
「ありがとうございます。とても心強いです」
「そうかそうか。わしに惚れても良いんじゃぞ?」
「それは遠慮しておきます」
「何じゃ、全く……主君が主君なら、家臣も家臣じゃな!」
「空気が読めないあの方と一緒にしないでください」
「ま、確かに、お主は空気が読めるからのぅ。失礼したな」

 上品な女性の笑い声が響き、ルヴィスもつられて笑った。だがやがて二人の笑い声が消え、目の前に広がる王都の光へと視線が移った。
 システィーナがポツリと呟く。

「賑やかじゃな」
「そうですね。しかし……少し前まではこうではありませんでした」

 ルヴィスの脳裏に、皆の苦しみを象徴するかのような、数少ない街の光が過った。過去のこととはいえ、思い出すと胸の奥が苦しくなる。

「ですがセレスティアル様が現れ、全てが救われました。民も、国も――」
「レイ王も、か?」

 それを聞き、ルヴィスは小さく笑った。そして両腕を組むと、システィーナからツンッと視線を逸らした。

「それを分かっておられながら、何故あそこで私の名前を出したのですか? お陰で、ティッカには私と陛下の仲を疑われるし、大変だったのですよ?」
「あそこでレイ王の本命を告げては面白くないじゃろ?」
「……全く、意地悪な御方だ」
「褒め言葉として受け取っておくぞ、ルヴィス。それにわしが言わなくとも、セレスティアルも近いうちにレイ王の気持ちに気づくじゃろうて。それまでは傍観者として、二人の恋愛模様を楽しませてもらうぞい」
「楽しませて貰うって……うちの国王の恋愛を娯楽にしないでください。こちらはルミテリス王家の存続がかかっているんですよ……」
「なぁに、案ずるな、ルヴィス」

 システィーナは呆れたように扇で肩を叩きながら、カラカラと笑った。

「あれほどのドデカい恋愛熱量を向けられいるのに気づかず、お主との関係を信じ続ける鈍感がいるなら、この目で見てみたいものじゃて」
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