【短編】『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました

あまぞらりゅう

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 その日以来、シャルロッテは変わった。

 相変わらずハインリヒとの婚約は継続してはいたが、以前のように頻繁に顔を合わせなくなった。
 彼は後ろめたい気持ちがあるのか好都合なのか、公式の場以外は婚約者とは距離を置くようになっていた。

 今もローゼ男爵令嬢との関係は続いているようだが、それはもうシャルロッテにとってはどうでもいいことだった。


 シャルロッテは、まずハインリヒに押し付けられていたドレスを捨てた。
 古臭くて野暮ったいドレス。装飾過剰で古典的なそれは、すらりとして背丈のある彼女にはどれも似合わなかった。

「シャルロッテがイメチェンを決意して良かったわ。私、あのダサいドレスは正直どうかと思っていたのよね」

 流行のドレスを見ようと、王都の有名なブティックに親友のディアナ伯爵令嬢と足を運んだ。センスが良いと評判の彼女に、色々教わりながら新しいドレスを選んだ。
 そのあと、カフェでそう言われたのだ。

 シャルロッテは一拍だけキョトンとした表情を見せて、

「わたくしもよ」

 と、プッと吹き出した。

 それから二人で糸が切れたみたいにケラケラと笑い合った。

 その後しばらくして、シャルロッテはディアナとともに、王都で令嬢たちの流行の中心になった。
 たまに婚約者と同席する際は、敢えて古臭いドレスを着てハインリヒの顔を立てた。
 だが、その裏では「公爵令息はセンスがダサいし、婚約者に無理強いをする最低な男」だと、令嬢たちから嘲笑されるようになっていた。


 次にシャルロッテは、ハインリヒから止められていた学問に打ち込んだ。
 彼女は土魔法の使い手で、それを活かした土壌や植物の研究を以前からやりたいと思っていた。

 一度だけ、彼に土魔法を見せながらその夢を語ったことがある。
 しかし彼は、

「なんだい? その田舎の令嬢みたいな泥まみれの魔法は」

 と、一笑に付すだけでそれっきり相手にしなかった。
 あまつさえ、

「人前でその魔法は使わないほうがいい。侯爵令嬢の高貴なイメージが崩れるよ。これは君のためを思って言っているんだ」

 などと、いつもの口癖を言って、彼女の向学心の芽をへし折った。

 実は、シャルロッテはそれでも諦めきれず、屋敷内で密かに研究を続けていた。しかし一人では行き詰まってしまい、ずっと困っていた。

 でも、もう己のために生きようと決意した彼女は、図書館や研究室に出入りするようになった。魔法の才も手伝い、目覚ましく成果を上げた。

 それらの研究を論文にまとめ、それがエドゥアルト王太子の目に留まり――……。

「この素晴らしい論文を書いたのは令嬢か?」

 彼女は王太子直属の研究チームに勧誘された。


 シャルロッテは新しい世界を見つけ出し、一方ハインリヒは何も変わらないままだった。


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