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「シャルロッテ、君のためにも婚約は続けたほうがいい」
帰りの馬車の中、ハインリヒは悪びれる様子もなく平然と言い放った。
シャルロッテは思わず息を止めて、目を見張る。そして信じられないと言うように彼の顔を見た。
「最初に言っておくけど、彼女とは遊びの関係で、僕の本命は君だけだ」と、彼はにこりと微笑む。
「……」
彼女はなんと答えれば良いか分からなかった。まだ、さっきの二人の様子が頭の中に鮮明に動いていて、目眩がしてきた。
だが、彼は彼女の沈黙を肯定と捉えたのか、一方的に話を続ける。
「僕はあんな頭の悪い尻軽女なんて相手にしないよ。だから、安心して?」
「……」
シャルロッテは返事をしない。
しばらく沈黙が続いて、ハインリヒはうんざりしたように深く息を吐いた。
「婚約の継続は、君のためを思って言っているんだよ? 婚約者に捨てられた令嬢なんて、家門の恥だ。君は修道院送りか、老貴族の後妻になるしかない。そんなの、嫌だろう?」
その瞬間、シャルロッテのもやついた頭の中が、急に冴える感覚がした。
(何を言っているの、この人は……)
再び、眼前の婚約者の顔を見やる。
そこには、素晴らしい殿方の姿はなく、ただ顔だけの良い軽薄な男がだらしなく座っていた。
彼女は、やっと気付いたのだ。
(ハインリヒ様の『君のため』は、本当は『自分のため』だったのね)
ならば。
(わたくしも、もう『自分のため』に生きていいわよね……?)
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