【短編】『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました

あまぞらりゅう

文字の大きさ
6 / 10

6






「シャルロッテ、君のためにも婚約は続けたほうがいい」

 帰りの馬車の中、ハインリヒは悪びれる様子もなく平然と言い放った。
 シャルロッテは思わず息を止めて、目を見張る。そして信じられないと言うように彼の顔を見た。

「最初に言っておくけど、彼女とは遊びの関係で、僕の本命は君だけだ」と、彼はにこりと微笑む。

「……」

 彼女はなんと答えれば良いか分からなかった。まだ、さっきの二人の様子が頭の中に鮮明に動いていて、目眩がしてきた。

 だが、彼は彼女の沈黙を肯定と捉えたのか、一方的に話を続ける。

「僕はあんな頭の悪い尻軽女なんて相手にしないよ。だから、安心して?」

「……」

 シャルロッテは返事をしない。
 しばらく沈黙が続いて、ハインリヒはうんざりしたように深く息を吐いた。

「婚約の継続は、君のためを思って言っているんだよ? 婚約者に捨てられた令嬢なんて、家門の恥だ。君は修道院送りか、老貴族の後妻になるしかない。そんなの、嫌だろう?」

 その瞬間、シャルロッテのもやついた頭の中が、急に冴える感覚がした。

(何を言っているの、この人は……)

 再び、眼前の婚約者の顔を見やる。
 そこには、素晴らしい殿方の姿はなく、ただ顔だけの良い軽薄な男がだらしなく座っていた。

 彼女は、やっと気付いたのだ。

(ハインリヒ様の『君のため』は、本当は『自分のため』だったのね)

 ならば。

(わたくしも、もう『自分のため』に生きていいわよね……?)


あなたにおすすめの小説

婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。

松ノ木るな
恋愛
 ハルネス侯爵家令嬢シルヴィアは、将来を嘱望された魔道の研究員。  不運なことに、親に決められた婚約者は無類の女好きであった。  研究で忙しい彼女は、女遊びもほどほどであれば目をつむるつもりであったが……  挙式一月前というのに、婚約者が口の軽い彼女を作ってしまった。 「これは三人で、あくまで平和的に、話し合いですね。修羅場は私が制してみせます」   ※7千字の短いお話です。

あなたでなくても

月樹《つき》
恋愛
ストラルド侯爵家の三男フェラルドとアリストラ公爵家の跡取り娘ローズマリーの婚約は王命によるものだ。 王命に逆らう事は許されない。例え他に真実の愛を育む人がいたとしても…。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

もうお別れしましょう!これであなたとはもう二度と会うこともないでしょう!

睡蓮
恋愛
ガーフ男爵はエリアスに対して思いを告げ、二人は婚約関係となった。しかし、ガーフはその後幼馴染であるルミナの事ばかりを気にかけるようになり、エリアスの事を放っておいてしまう。その後ルミナにたぶらかされる形でガーフはエリアスに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしそれから間もなくして、ガーフはエリアスに対して一通の手紙を送る。そこには、頼むから自分と復縁してほしい旨の言葉が記載されており…。

飽きたと捨てられましたので

編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。 計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。 横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。 ※7000文字前後、全5話のショートショートです。 ※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

拝啓、婚約破棄して従妹と結婚をなされたかつての婚約者様へ、私が豚だったのはもう一年も前の事ですよ?

北城らんまる
恋愛
ランドム子爵家のご令嬢ロゼッティは、ある日婚約破棄されてしまう。それはロゼッティ自身が地味で、不細工で、太っていたから。彼は新しい婚約者として、叔父の娘であるノエルと結婚すると言い始めた。 ロゼッティはこれを機に、叔父家族に乗っ取られてしまったランドム家を出ることを決意する。 豚と呼ばれるほど太っていたのは一年も前の話。かつて交流のあった侯爵の家に温かく迎えられ、ロゼッティは幸せに暮らす。 一方、婚約者や叔父家族は破滅へと向かっていた── ※なろうにも投稿済

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)