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第2話 白猫が喋った日
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夜が明けた。
リオは森の中でまぶしい朝日に目を細めながら、昨日の出来事を思い返していた。
言葉を話す白猫、神々の使い、自分が“創世の力”を持つ存在だという告白。
どこか夢のようでいて、確かな現実。目の前には、丸くなって眠る白猫――いや、神の使いであるシリスの姿がある。
小鳥のさえずりが響く中、リオは立ち上がり、森の奥を見渡した。
いつもは不気味に感じていた木々が、今ではどこか優しく見える。
足元の草は露に濡れ、彼が歩くたびに、まるで彼の存在を喜ぶように光を放った。
その様子を見て、リオは苦笑するしかなかった。
「……どうやら、本当に変わっちゃったみたいだな。」
「にゃぁ~……朝ごはん、もう少し寝かせてにゃ。」
シリスが眠たげに片目を開けながら、恨めしそうにリオを見上げた。
「お前……神の使いとか言ってたわりには、普通の猫みたいだな。」
「神様だって食べるし寝るにゃ。ただ、人より少し可愛いってだけにゃ。」
「そういう自覚あるのかよ……」
リオが思わず吹き出すと、シリスも小さく笑ったように見えた。彼女の毛並みは朝日にきらめき、まるで小さな太陽のようだ。
「さて、シリス。俺、これからどうすればいいんだ?神の加護とか言われても、何をすればいいか分からない。」
「簡単にゃ。まず、自分の力を理解すること。次に、それを人のために使うかどうか、決めることにゃ。」
「人のために使う……」
リオは唇を噛む。
思い浮かぶのは昨日の出来事。勇者アルトの冷酷な視線、リアの沈黙、仲間たちの嘲笑。
どうしても、許せない感情が胸の奥で渦を巻いていた。
「正直、今は人を助けようって気になれない。」
「それでいいにゃ。無理して“いい人”を演じる必要はないにゃ。」
「……お前、結構ドライなんだな。」
「神は公平でいるものにゃ。善も悪も、結果として同じ“力の使い方”にすぎない。問題は、“心がどこを向いているか”にゃ。」
リオは少し考えたあと、小さく頷いた。
「じゃあ、まずは『俺が生きる』ために使ってみるか。」
「にゃっ、それはとてもいいことにゃ!生きるっていうのは、神々が一番尊ぶ願いにゃ。」
そう言ってシリスはリオの肩にぴょんと飛び乗った。
その瞬間、彼の視界がわずかに揺れ、同時に大量の“情報”が頭に流れ込んでくる。
森の木々の年輪、地下に眠る鉱石の輝き、小動物の鼓動――
まるで世界の“命の地図”を見ているような感覚だった。
「これが……俺の感覚?」
「そうにゃ。世界はあなたの“呼吸”で動いている。あなたが触れた瞬間、命は反応するにゃ。」
震えるような感動を覚えた。こんなにも美しい世界が、これまで自分には見えていなかったのだ。
「こんな力があれば……いや、でも使い方を間違えたら危険か。」
「だからこそ、学ぶ必要があるにゃ。ほら、あそこを見て。」
シリスが前足で指した方向、森の奥に一匹のウルフが倒れていた。
体には深い傷があり、呼吸も荒い。普通なら助からないほどの重症だ。
「殺すか、救うか。どちらも試練にゃ。」
「試練……ね。」
リオはウルフに近づいた。恐怖はなかった。ただ、不思議なくらい穏やかだった。
右手をかざす。すると手のひらから淡い光が溢れ出す。
次の瞬間、ウルフの傷口がゆっくりと閉じていった。
骨が戻り、血が止まり、瞳に生気が宿る。
そんな奇跡のような光景が、彼の手のひらひとつで起きていた。
「……すごい。俺、これ……」
「あなたは“再生”を司る存在にゃ。死も、腐敗も、あなたの前じゃ意味を持たない。」
「まるで、神様みたいだな。」
ウルフは立ち上がると、リオに頭を下げた。
まるで感謝を示しているように。
「もう大丈夫だ。行け。」
リオが優しく声をかけると、ウルフは森の奥へ静かに姿を消した。
その後ろ姿を見送る彼の胸の中には、確かに満足感があった。
けれど同時に、奇妙な“力への畏れ”も感じていた。
「これだけのことができるのに、どうして今まで……」
「あなたの心がまだ弱かったからにゃ。人を信じていたでしょ?仲間を、希望を。だから、力が必要なかった。」
「皮肉な話だな。裏切られて、ようやく強くなれるなんてさ。」
昼が過ぎ、陽が少し傾いた頃。リオはシリスと共に森を抜けて、見知らぬ村の外れに辿り着いた。
そこには朽ちかけた水車小屋と、静かな川が流れている。
疲れを癒やすために腰を下ろし、水面に映る自分の顔を見た。
「……なんか、昨日より目つきが変わった気がする。」
「魂が覚醒したからにゃ。もう“村人A”じゃないにゃ。」
「はは、タイトルみたいだな。」
ふと、彼の耳に助けを呼ぶ悲鳴が届いた。
「お願い!誰か助けて!」
村の方からだ。
リオは反射的に立ち上がり、声のする方向へ駆け出した。
すると、三人のごろつきが一人の少女を囲んでいるのが見えた。
少女は年端もいかない村娘で、腕には籠一つ。ごろつきたちは剣を抜き、笑いながら迫っている。
「やめろ。その子から離れろ。」
リオの声が森に響いた。
「なんだお前?ただの旅人か?邪魔すんなよ。」
「警告はした。やめないなら――」
彼の足元の地面が淡く光った。
すると、ごろつきたちの足元から蔦のような根が伸び、たちまち三人を絡め取った。
束縛され、動けない男たちは目を剥く。
「な、なんだこれ!魔法だと!?」「そんな詠唱、一言もしてねぇのに――!」
「俺にも、よくわからない。でも、これが“俺”だ。」
リオが手を軽く動かすと、蔦はほどけ、男たちは逃げ去っていった。転げるように村の奥へ消えていく。
リオは少女に近づいた。
「大丈夫か?」
「は、はい……助けてくださって、ありがとうございます……!」
彼女は震えながらも、リオの手を握った。温かい光が彼女を包み、傷や汚れがみるみる癒えていく。
「……ありがとう。あなた、冒険者様ですか?」
「いや、ただの旅人だよ。」
その笑顔を見て、リオは初めて安らぎを感じた。
助けられる誰かがいる。そのために力を使うのは、悪くないと思えた。
けれどその背後で、村の陰から一人の男が彼を鋭く睨んでいた。
鎧をまとった、見覚えのある人物――勇者アルトの部下のひとりだった。
「やはりここにいたか……リオ。」
男は低く呟くと、村の奥へ引き返していった。
新たな運命の火種が、静かに燃え始める。
その夜、リオは焚き火の前でシリスに尋ねた。
「なぁシリス。俺はこれからどうなるんだと思う?」
「簡単にゃ。この世界は、これからあなたを中心に回り始めるにゃ。」
リオは苦笑しながら夜空を見上げた。
満天の星が、どこまでも輝いていた。
彼の胸に、見えない確信が宿る。
――もう、二度と誰にも負けやしない。
続く
リオは森の中でまぶしい朝日に目を細めながら、昨日の出来事を思い返していた。
言葉を話す白猫、神々の使い、自分が“創世の力”を持つ存在だという告白。
どこか夢のようでいて、確かな現実。目の前には、丸くなって眠る白猫――いや、神の使いであるシリスの姿がある。
小鳥のさえずりが響く中、リオは立ち上がり、森の奥を見渡した。
いつもは不気味に感じていた木々が、今ではどこか優しく見える。
足元の草は露に濡れ、彼が歩くたびに、まるで彼の存在を喜ぶように光を放った。
その様子を見て、リオは苦笑するしかなかった。
「……どうやら、本当に変わっちゃったみたいだな。」
「にゃぁ~……朝ごはん、もう少し寝かせてにゃ。」
シリスが眠たげに片目を開けながら、恨めしそうにリオを見上げた。
「お前……神の使いとか言ってたわりには、普通の猫みたいだな。」
「神様だって食べるし寝るにゃ。ただ、人より少し可愛いってだけにゃ。」
「そういう自覚あるのかよ……」
リオが思わず吹き出すと、シリスも小さく笑ったように見えた。彼女の毛並みは朝日にきらめき、まるで小さな太陽のようだ。
「さて、シリス。俺、これからどうすればいいんだ?神の加護とか言われても、何をすればいいか分からない。」
「簡単にゃ。まず、自分の力を理解すること。次に、それを人のために使うかどうか、決めることにゃ。」
「人のために使う……」
リオは唇を噛む。
思い浮かぶのは昨日の出来事。勇者アルトの冷酷な視線、リアの沈黙、仲間たちの嘲笑。
どうしても、許せない感情が胸の奥で渦を巻いていた。
「正直、今は人を助けようって気になれない。」
「それでいいにゃ。無理して“いい人”を演じる必要はないにゃ。」
「……お前、結構ドライなんだな。」
「神は公平でいるものにゃ。善も悪も、結果として同じ“力の使い方”にすぎない。問題は、“心がどこを向いているか”にゃ。」
リオは少し考えたあと、小さく頷いた。
「じゃあ、まずは『俺が生きる』ために使ってみるか。」
「にゃっ、それはとてもいいことにゃ!生きるっていうのは、神々が一番尊ぶ願いにゃ。」
そう言ってシリスはリオの肩にぴょんと飛び乗った。
その瞬間、彼の視界がわずかに揺れ、同時に大量の“情報”が頭に流れ込んでくる。
森の木々の年輪、地下に眠る鉱石の輝き、小動物の鼓動――
まるで世界の“命の地図”を見ているような感覚だった。
「これが……俺の感覚?」
「そうにゃ。世界はあなたの“呼吸”で動いている。あなたが触れた瞬間、命は反応するにゃ。」
震えるような感動を覚えた。こんなにも美しい世界が、これまで自分には見えていなかったのだ。
「こんな力があれば……いや、でも使い方を間違えたら危険か。」
「だからこそ、学ぶ必要があるにゃ。ほら、あそこを見て。」
シリスが前足で指した方向、森の奥に一匹のウルフが倒れていた。
体には深い傷があり、呼吸も荒い。普通なら助からないほどの重症だ。
「殺すか、救うか。どちらも試練にゃ。」
「試練……ね。」
リオはウルフに近づいた。恐怖はなかった。ただ、不思議なくらい穏やかだった。
右手をかざす。すると手のひらから淡い光が溢れ出す。
次の瞬間、ウルフの傷口がゆっくりと閉じていった。
骨が戻り、血が止まり、瞳に生気が宿る。
そんな奇跡のような光景が、彼の手のひらひとつで起きていた。
「……すごい。俺、これ……」
「あなたは“再生”を司る存在にゃ。死も、腐敗も、あなたの前じゃ意味を持たない。」
「まるで、神様みたいだな。」
ウルフは立ち上がると、リオに頭を下げた。
まるで感謝を示しているように。
「もう大丈夫だ。行け。」
リオが優しく声をかけると、ウルフは森の奥へ静かに姿を消した。
その後ろ姿を見送る彼の胸の中には、確かに満足感があった。
けれど同時に、奇妙な“力への畏れ”も感じていた。
「これだけのことができるのに、どうして今まで……」
「あなたの心がまだ弱かったからにゃ。人を信じていたでしょ?仲間を、希望を。だから、力が必要なかった。」
「皮肉な話だな。裏切られて、ようやく強くなれるなんてさ。」
昼が過ぎ、陽が少し傾いた頃。リオはシリスと共に森を抜けて、見知らぬ村の外れに辿り着いた。
そこには朽ちかけた水車小屋と、静かな川が流れている。
疲れを癒やすために腰を下ろし、水面に映る自分の顔を見た。
「……なんか、昨日より目つきが変わった気がする。」
「魂が覚醒したからにゃ。もう“村人A”じゃないにゃ。」
「はは、タイトルみたいだな。」
ふと、彼の耳に助けを呼ぶ悲鳴が届いた。
「お願い!誰か助けて!」
村の方からだ。
リオは反射的に立ち上がり、声のする方向へ駆け出した。
すると、三人のごろつきが一人の少女を囲んでいるのが見えた。
少女は年端もいかない村娘で、腕には籠一つ。ごろつきたちは剣を抜き、笑いながら迫っている。
「やめろ。その子から離れろ。」
リオの声が森に響いた。
「なんだお前?ただの旅人か?邪魔すんなよ。」
「警告はした。やめないなら――」
彼の足元の地面が淡く光った。
すると、ごろつきたちの足元から蔦のような根が伸び、たちまち三人を絡め取った。
束縛され、動けない男たちは目を剥く。
「な、なんだこれ!魔法だと!?」「そんな詠唱、一言もしてねぇのに――!」
「俺にも、よくわからない。でも、これが“俺”だ。」
リオが手を軽く動かすと、蔦はほどけ、男たちは逃げ去っていった。転げるように村の奥へ消えていく。
リオは少女に近づいた。
「大丈夫か?」
「は、はい……助けてくださって、ありがとうございます……!」
彼女は震えながらも、リオの手を握った。温かい光が彼女を包み、傷や汚れがみるみる癒えていく。
「……ありがとう。あなた、冒険者様ですか?」
「いや、ただの旅人だよ。」
その笑顔を見て、リオは初めて安らぎを感じた。
助けられる誰かがいる。そのために力を使うのは、悪くないと思えた。
けれどその背後で、村の陰から一人の男が彼を鋭く睨んでいた。
鎧をまとった、見覚えのある人物――勇者アルトの部下のひとりだった。
「やはりここにいたか……リオ。」
男は低く呟くと、村の奥へ引き返していった。
新たな運命の火種が、静かに燃え始める。
その夜、リオは焚き火の前でシリスに尋ねた。
「なぁシリス。俺はこれからどうなるんだと思う?」
「簡単にゃ。この世界は、これからあなたを中心に回り始めるにゃ。」
リオは苦笑しながら夜空を見上げた。
満天の星が、どこまでも輝いていた。
彼の胸に、見えない確信が宿る。
――もう、二度と誰にも負けやしない。
続く
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