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第1話 追放された村人リオ
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「お前、邪魔なんだよ。もうついてくるな。」
その一言で、リオのすべてが崩れた。
長い旅を共にした仲間たちは誰一人として、彼を庇おうとはしなかった。
勇者アルトの冷たい視線。聖女リアすらも俯いたまま何も言わない。
村人として生まれ、ひたすら努力してきた結果が、これだった。
「俺は……ただ、みんなの役に立ちたかっただけなのに。」
リオは手にした木の杖を握りしめる。魔法は使えない。剣術も並以下。唯一のスキル〈採取〉は、草や鉱石を拾う程度しかできない凡庸なもの。戦闘では何の役にも立てなかった。
それでも、孤児として育った彼にとって、この勇者パーティーは初めて得た「居場所」だったのだ。
アルトが冷ややかに言い放つ。
「お前が足を引っ張るから、魔王討伐が進まないんだ。村にでも帰って、畑でも耕してろ。」
リオは言葉を失った。誰も否定しない現実。リアすら、視線を逸らしている。
「……わかった。ありがとう、今まで世話になった。」
かすれた声でそう言って、リオは背を向けた。
彼の背中に、仲間たちの誰も「待って」とは言わなかった。
冷たい風が吹く。森の木々がざわめく中、リオは一人歩き続けた。
手足は泥にまみれ、心は凍りつくように沈んでいった。
――なぜ、こんなにも無力なんだろう。
努力しても、結果が出ない。
必死に這い上がってきたのに、結局、自分は「何者にもなれなかった」。
夜が訪れ、リオは焚き火を起こすこともできず、折れた木々の下で小さく丸まる。
その時、かすかな鳴き声が聞こえた。
「……にゃあ。」
振り返ると、白い子猫が立っていた。森の中で見たこともないほど真っ白で、瞳は金色に輝いている。
「こんなところに猫……?どこかの飼い猫か?」
リオが手を伸ばすと、猫は少しだけ首を傾げて、ふわりと彼のひざに飛び乗った。
そして、驚くほど澄んだ声で言葉を発した。
「やっと会えたにゃ、リオ。」
「……え?」
あまりに自然に話すものだから、リオは錯覚かと思った。
だが、猫は確かに口を動かしていた。
「信じられないかにゃ。でも、リオはずっと私を見てきたでしょ。あの時、森で助けてくれたのはあなただにゃ。」
ふと、幼い日の記憶がよみがえる。
幼いリオが、森の中で怪我をした白い猫を助けたことがあった。
「……あの時の……?」
「そう。私はシリス。神界の使いにゃ。ほんとうはもう少し早く迎えに行くはずだったけど、あなた、人間たちに囲まれちゃって、手を出せなかったにゃ。」
「神界……の、使い……?待って、何を言ってるんだ?」
子猫――シリスは尻尾をふわりと動かす。
その瞬間、リオの足元に淡い紋章のような光が広がった。
温かい風が吹き、身体の中で何かが弾けるように目覚めた感覚。
「リオ、あなたは選ばれている。生まれつき神々の祝福を受けた存在にゃ。けど、あなた自身が信じていなかったから、力は眠っていたにゃ。」
「俺が……選ばれている?」
信じられない。これまで何をしてもダメだった自分が――まさかそんな存在だなんて。
だが、身体の内側が確かに熱く輝いている。
「どうして今、それを教えるんだ?」
シリスは小さく笑うように喉を鳴らした。
「追放された今のあなたなら、きっと受け入れられると思ったにゃ。あなたの中には、大地と生命を司る“創世の力”が眠っているにゃ。」
「創世の、力……?」
リオが口にした瞬間、周囲の植物が一斉に芽吹き始めた。
枯れていた木々に緑が戻り、地面から花が咲き誇る。
自分の意思で何かをしたわけでもない。ただ存在するだけで、世界が変わる。
それが、リオの本来の力だった。
「これが……俺の、スキル……?」
「違うにゃ。スキルなんて、人間が後から作ったシステムにゃ。あなたの力はもっと根源的なもの。神々がかつて創った“始まりの魔術”に繋がるにゃ。」
リオは言葉を失った。
自分がそんな存在だなんて、到底受け入れられない。
けれど、確かに実感として胸の奥が震えている。温もりと、力強さと――希望が、芽吹いていた。
「……俺に、何ができる?」
「あなたが望むなら、すべてを救えるにゃ。けど、同時にすべてを壊すこともできる。」
シリスの言葉は真剣だった。
リオはしばし黙り込み、やがて静かに立ち上がった。
「俺は……誰かを傷つけたいとは思わない。でも、俺を見下したあいつらに、いつか後悔させてやりたい。」
その目には、炎が宿っていた。
弱者ではない。追放された“最弱”の村人が、今、初めて自分の力を知ったのだ。
シリスは微笑んだ。
「その想い、忘れないでにゃ。あなたの旅は、これから本当の意味で始まるにゃ。」
月が雲間から顔を出す。
白い光がリオの背中を照らし、森全体を銀色に染め上げた。
その中心に立つ青年の瞳は、もはや迷いを知らなかった。
「ありがとう、シリス。俺、やってみるよ。」
風が吹く。夜の闇が少しずつ溶けていく。
森の奥で、新たな生命の鼓動が響いた。足元の草花が彼の歩みを祝福するかのように揺れている。
いつかこの力が、世界を変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。
ただ静かに、運命の歯車が回り始めた。
続く
その一言で、リオのすべてが崩れた。
長い旅を共にした仲間たちは誰一人として、彼を庇おうとはしなかった。
勇者アルトの冷たい視線。聖女リアすらも俯いたまま何も言わない。
村人として生まれ、ひたすら努力してきた結果が、これだった。
「俺は……ただ、みんなの役に立ちたかっただけなのに。」
リオは手にした木の杖を握りしめる。魔法は使えない。剣術も並以下。唯一のスキル〈採取〉は、草や鉱石を拾う程度しかできない凡庸なもの。戦闘では何の役にも立てなかった。
それでも、孤児として育った彼にとって、この勇者パーティーは初めて得た「居場所」だったのだ。
アルトが冷ややかに言い放つ。
「お前が足を引っ張るから、魔王討伐が進まないんだ。村にでも帰って、畑でも耕してろ。」
リオは言葉を失った。誰も否定しない現実。リアすら、視線を逸らしている。
「……わかった。ありがとう、今まで世話になった。」
かすれた声でそう言って、リオは背を向けた。
彼の背中に、仲間たちの誰も「待って」とは言わなかった。
冷たい風が吹く。森の木々がざわめく中、リオは一人歩き続けた。
手足は泥にまみれ、心は凍りつくように沈んでいった。
――なぜ、こんなにも無力なんだろう。
努力しても、結果が出ない。
必死に這い上がってきたのに、結局、自分は「何者にもなれなかった」。
夜が訪れ、リオは焚き火を起こすこともできず、折れた木々の下で小さく丸まる。
その時、かすかな鳴き声が聞こえた。
「……にゃあ。」
振り返ると、白い子猫が立っていた。森の中で見たこともないほど真っ白で、瞳は金色に輝いている。
「こんなところに猫……?どこかの飼い猫か?」
リオが手を伸ばすと、猫は少しだけ首を傾げて、ふわりと彼のひざに飛び乗った。
そして、驚くほど澄んだ声で言葉を発した。
「やっと会えたにゃ、リオ。」
「……え?」
あまりに自然に話すものだから、リオは錯覚かと思った。
だが、猫は確かに口を動かしていた。
「信じられないかにゃ。でも、リオはずっと私を見てきたでしょ。あの時、森で助けてくれたのはあなただにゃ。」
ふと、幼い日の記憶がよみがえる。
幼いリオが、森の中で怪我をした白い猫を助けたことがあった。
「……あの時の……?」
「そう。私はシリス。神界の使いにゃ。ほんとうはもう少し早く迎えに行くはずだったけど、あなた、人間たちに囲まれちゃって、手を出せなかったにゃ。」
「神界……の、使い……?待って、何を言ってるんだ?」
子猫――シリスは尻尾をふわりと動かす。
その瞬間、リオの足元に淡い紋章のような光が広がった。
温かい風が吹き、身体の中で何かが弾けるように目覚めた感覚。
「リオ、あなたは選ばれている。生まれつき神々の祝福を受けた存在にゃ。けど、あなた自身が信じていなかったから、力は眠っていたにゃ。」
「俺が……選ばれている?」
信じられない。これまで何をしてもダメだった自分が――まさかそんな存在だなんて。
だが、身体の内側が確かに熱く輝いている。
「どうして今、それを教えるんだ?」
シリスは小さく笑うように喉を鳴らした。
「追放された今のあなたなら、きっと受け入れられると思ったにゃ。あなたの中には、大地と生命を司る“創世の力”が眠っているにゃ。」
「創世の、力……?」
リオが口にした瞬間、周囲の植物が一斉に芽吹き始めた。
枯れていた木々に緑が戻り、地面から花が咲き誇る。
自分の意思で何かをしたわけでもない。ただ存在するだけで、世界が変わる。
それが、リオの本来の力だった。
「これが……俺の、スキル……?」
「違うにゃ。スキルなんて、人間が後から作ったシステムにゃ。あなたの力はもっと根源的なもの。神々がかつて創った“始まりの魔術”に繋がるにゃ。」
リオは言葉を失った。
自分がそんな存在だなんて、到底受け入れられない。
けれど、確かに実感として胸の奥が震えている。温もりと、力強さと――希望が、芽吹いていた。
「……俺に、何ができる?」
「あなたが望むなら、すべてを救えるにゃ。けど、同時にすべてを壊すこともできる。」
シリスの言葉は真剣だった。
リオはしばし黙り込み、やがて静かに立ち上がった。
「俺は……誰かを傷つけたいとは思わない。でも、俺を見下したあいつらに、いつか後悔させてやりたい。」
その目には、炎が宿っていた。
弱者ではない。追放された“最弱”の村人が、今、初めて自分の力を知ったのだ。
シリスは微笑んだ。
「その想い、忘れないでにゃ。あなたの旅は、これから本当の意味で始まるにゃ。」
月が雲間から顔を出す。
白い光がリオの背中を照らし、森全体を銀色に染め上げた。
その中心に立つ青年の瞳は、もはや迷いを知らなかった。
「ありがとう、シリス。俺、やってみるよ。」
風が吹く。夜の闇が少しずつ溶けていく。
森の奥で、新たな生命の鼓動が響いた。足元の草花が彼の歩みを祝福するかのように揺れている。
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ただ静かに、運命の歯車が回り始めた。
続く
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