7 / 149
7.似顔絵?
しおりを挟む
サエナリアの部屋を後にしたベーリュたちは、屋敷を探しまわっていた使用人の一人からまだ見つかっていないという報告を聞いた。
「やはり屋敷にはいないか。あんな書置きを残したのだ、当然だろうな(そもそも、もっと早く出て行ってもおかしくなかったかもしれん。あんな仕打ちを受けてきたのならな)」
サエナリアは別に虐待されたわけではない。ネフーミの関心がワカナにばかりに向けられて彼女自身は見てもらえなかったのだ。母親から与えられるべき愛情が妹のほうに大分偏った結果、これだけの差ができてしまったのだ。
「……失敗したな。私が仕事にかまけて家庭を見なかった結果がこれか」
ベーリュが若かったころのソノーザ家は落ち目の伯爵家だった。ベーリュが当主になった時、落ち目の立場から立て直そうと懸命に努力を重ねた。出世欲の強いベーリュは無能な父母を見捨て、血の繋がった妹すら出世のために利用した。そして、最終的に公爵にまで昇格するに至ったのだ。家族を踏み台にして成功を手にしてきたともいえる。
「今度は家族をよく見なかったせいで失敗するとは皮肉だな」
サエナリアの家出が大ごとになる前に肩をつけなくてはならない。そう考えたベーリュは側近の執事に命じる。
「すぐにサエナリアを探し出す手配を用意しろ。騎士を動かしても構わん」
「かしこまりました。では、サエナリア様の似顔絵を作成して騎士たちに配りましょう」
「似顔絵か、それなら……」
ベーリュは、妻の後ろにいるサエナリアの専属侍女に目線を移した。
「サエナリアの侍女。お前に似顔絵を頼む。できるな?」
「! はい。分かりました」
侍女は一瞬驚くが、すぐに了承した。だが、ここでネフーミが夫に疑問を口にした。
「あなた、何故使用人に似顔絵を頼むの? この娘は確かにさサエナリアの専属だったみたいだけど、それだけでしょう?」
「ああ、確かに専属侍女だ。だが、長女を蔑ろにしてきたお前や姉の名前も覚えていない娘よりもましだとは思わんか?」
夫に蔑むような目で見られたネフーミは俯いて口を閉じた。
◇
「お嬢様のお顔は………このようになります」
「「え?」」
侍女が書いた似顔絵を見たベーリュとネフーミは、一瞬だけ戸惑ったが少しだけ思い出したといった感じでつぶやいた。
「………そうか、そうだったな。私に似たのだったな」
「ああ、確かにこんな顔だったわ………」
夫婦が見た『似顔絵のサエナリア』は父親と同じ黒目で茶髪だった。妹と違って美しいというわけでも、逆に醜いというわけでもないような地味で特徴のない顔つきをしていた。
……二人は長女の似顔絵を見ても「本当に妹と比べればたいして可愛くない」と感じている。その様子が分かるほど微妙な顔つきになっている公爵と夫人。そんな二人を眺める侍女が冷たい目をしていることにも気づかない。その目には怒りすら感じられなくもない。
「ねえ! もうなんなのよ! 何で今更見なくなった女のために騒いでんのよ! お菓子はまだあ!?」
いつまでもほったらかしとなっているワカナは癇癪を起していた。周りの使用人が諫めても喚き散らしている。
「………お前は実の姉のがいなくなって心配だと思わないのか?」
ベーリュが底冷えるほど冷めた声でワカナに声を掛けてやるが、酷い返答が来る。
「何でこの私がいない女の心配をしなくちゃいけないのよ! 馬鹿じゃないの?」
「父親の私にもこれか。相当ひどいな………」
父親に平然と歯向かうワカナの姿に、ベーリュは今まで娘たちの教育を妻に任せっきりでいたことを心底後悔した。
「やはり屋敷にはいないか。あんな書置きを残したのだ、当然だろうな(そもそも、もっと早く出て行ってもおかしくなかったかもしれん。あんな仕打ちを受けてきたのならな)」
サエナリアは別に虐待されたわけではない。ネフーミの関心がワカナにばかりに向けられて彼女自身は見てもらえなかったのだ。母親から与えられるべき愛情が妹のほうに大分偏った結果、これだけの差ができてしまったのだ。
「……失敗したな。私が仕事にかまけて家庭を見なかった結果がこれか」
ベーリュが若かったころのソノーザ家は落ち目の伯爵家だった。ベーリュが当主になった時、落ち目の立場から立て直そうと懸命に努力を重ねた。出世欲の強いベーリュは無能な父母を見捨て、血の繋がった妹すら出世のために利用した。そして、最終的に公爵にまで昇格するに至ったのだ。家族を踏み台にして成功を手にしてきたともいえる。
「今度は家族をよく見なかったせいで失敗するとは皮肉だな」
サエナリアの家出が大ごとになる前に肩をつけなくてはならない。そう考えたベーリュは側近の執事に命じる。
「すぐにサエナリアを探し出す手配を用意しろ。騎士を動かしても構わん」
「かしこまりました。では、サエナリア様の似顔絵を作成して騎士たちに配りましょう」
「似顔絵か、それなら……」
ベーリュは、妻の後ろにいるサエナリアの専属侍女に目線を移した。
「サエナリアの侍女。お前に似顔絵を頼む。できるな?」
「! はい。分かりました」
侍女は一瞬驚くが、すぐに了承した。だが、ここでネフーミが夫に疑問を口にした。
「あなた、何故使用人に似顔絵を頼むの? この娘は確かにさサエナリアの専属だったみたいだけど、それだけでしょう?」
「ああ、確かに専属侍女だ。だが、長女を蔑ろにしてきたお前や姉の名前も覚えていない娘よりもましだとは思わんか?」
夫に蔑むような目で見られたネフーミは俯いて口を閉じた。
◇
「お嬢様のお顔は………このようになります」
「「え?」」
侍女が書いた似顔絵を見たベーリュとネフーミは、一瞬だけ戸惑ったが少しだけ思い出したといった感じでつぶやいた。
「………そうか、そうだったな。私に似たのだったな」
「ああ、確かにこんな顔だったわ………」
夫婦が見た『似顔絵のサエナリア』は父親と同じ黒目で茶髪だった。妹と違って美しいというわけでも、逆に醜いというわけでもないような地味で特徴のない顔つきをしていた。
……二人は長女の似顔絵を見ても「本当に妹と比べればたいして可愛くない」と感じている。その様子が分かるほど微妙な顔つきになっている公爵と夫人。そんな二人を眺める侍女が冷たい目をしていることにも気づかない。その目には怒りすら感じられなくもない。
「ねえ! もうなんなのよ! 何で今更見なくなった女のために騒いでんのよ! お菓子はまだあ!?」
いつまでもほったらかしとなっているワカナは癇癪を起していた。周りの使用人が諫めても喚き散らしている。
「………お前は実の姉のがいなくなって心配だと思わないのか?」
ベーリュが底冷えるほど冷めた声でワカナに声を掛けてやるが、酷い返答が来る。
「何でこの私がいない女の心配をしなくちゃいけないのよ! 馬鹿じゃないの?」
「父親の私にもこれか。相当ひどいな………」
父親に平然と歯向かうワカナの姿に、ベーリュは今まで娘たちの教育を妻に任せっきりでいたことを心底後悔した。
136
あなたにおすすめの小説
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
邪魔者はどちらでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
レモンズ侯爵家の長女である私は、幼い頃に母が私を捨てて駆け落ちしたということで、父や継母、連れ子の弟と腹違いの妹に使用人扱いされていた。
私の境遇に同情してくれる使用人が多く、メゲずに私なりに楽しい日々を過ごしていた。
ある日、そんな私に婚約者ができる。
相手は遊び人で有名な侯爵家の次男だった。
初顔合わせの日、婚約者になったボルバー・ズラン侯爵令息は、彼の恋人だという隣国の公爵夫人を連れてきた。
そこで、私は第二王子のセナ殿下と出会う。
その日から、私の生活は一変して――
※過去作の改稿版になります。
※ラブコメパートとシリアスパートが混在します。
※独特の異世界の世界観で、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~
Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。
第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、
公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。
その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が……
そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で──
そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた!
理由は分からないけれど、やり直せるというのなら……
同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい!
そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。
だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて───
あれ?
知らないわよ、こんなの……聞いてない!
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる