【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

文字の大きさ
46 / 141
第2章 新天地編

第46話 リンゴ農家シラユッキ

しおりを挟む
 遊牧民の族長代理テンソによる新天地の話が終わり、詳細は後日改めてということで解散した。

 俺は団長ゼロを動かしてテンソを追いかけていた。

「テンソ殿!」

「これはゼロ様。……私の話を聞いて軽蔑しましたか?」

「いえそんな。一つの考えとしてなんとか飲み込めてはいます。ただ、言っておきたいことがあります。マルクト王国に永住するという考えはないのでしょうか? 私の率いる聖騎士団を使えば残りの人達をこちらへ連れて来ることもできるはずです」

「聖騎士様の強さはここ数日でたくさんの人々から聞いて存じております。ですからきっと我々の仲間達も無事にこちらへ連れて来られるのでしょう。ですが、我々の身分はどうなるのでしょう? いきなり貴族にすれば庶民の者達から反感を買うでしょうし、平民にしたとして仕事を奪われる者が出てきて不平不満が噴出するでしょう。そうなれば最悪、血を見ることになりますよ」

「そんなこと我ら聖騎士団がさせませんよ」

「そうですね。聖騎士様がいれば全てを解決できます。ですが、逆に言えば何もさせて貰えないのです。巨獣を倒して功を立てることも、暴動や革命なんてもってのほか。この国は雁字搦がんじがらめで新参者や貧困者に未来がないのです」

「それは……」

「光り輝く英雄は色濃い影を作るものです。貴方がたは我々には眩しすぎる。……理解していただけませんか?」

 言いたいことは分かる。俺の弁は強者側の意見であり、何も持たない弱者からすれば詭弁にしか聞こえないだろう。

 何を言うべきか迷っていると、テンソが再び話し始めた。

「ここまで言っておいて図々しいお願いなのですが、新天地カーナに行くのを手伝っていただけませんか? 聖騎士様の力があれば生存確率はかなり上がるはずです。私は誰も死なせたくありません。聖騎士様もそうでしょう?」

 ずるい言い方だな。自分達と貧民達の命を人質に俺を引き込もうとしている。そう言われたら断りにくい。

「……考えておきます」

 まだ考えのまとまらない俺はそれだけを言い残し、その場を離れた。

 翌日。国中が新天地の話で持ち切りになっていた。どこに行ってもその話題を振られるので俺は辟易していた。

「あーくそ」

 一方で俺は“黄金血路おうごんけつろ”という新天地カーナまでの道筋が描かれた地図の信憑性を確かめるため鎧兵を派遣していた。だが、道中の巨獣にやられて砂漠にすらたどり着けずにいた。

 運も実力もないのはそうだが、何よりモチベーションが湧かない。新天地が存在するかも分からず、存在していてもそこに住む予定のない俺からしたら頑張る意味がない。死にに行く奴らのために調査する必要がどこにある。そういう気持ちが先立って全く集中できないのだ。

 自宅のソファに体を埋める。

 俺はどうすべきだろうか。やはり護衛について行くのが一番いいのだろう。でも巨獣と戦いながら彼らを守りきる自信はない。そうなると待つのは誰かしらの死。俺か、民か。そんなの嫌だ。

 かと言って、ついて行かなくても誰かが死ぬ可能性は高い。死の知らせを聞いて、俺のことだからきっと言い訳をしながら後悔するのだろう。

 はぁ……テンソさんが考えを変えてくれたらなぁ。ダメだダメだ。やっぱり責任逃れしたいだけだな。俺は嫌な奴だよ。

「あーあ、どうすんだこれ」

 どうしようもなくなり、ソファにもたれて天井を仰ぎ見ていると電子音が鳴った。魔法のモニターを見ると、農作業を手伝っていた団長ゼロのところにリンゴ農家のシラユッキが来ていた。

「らららー、ごきげんようゼロ様ー」

 二十五歳のシラユッキさんは、いつもの黒髪ロングをポニーテールにしていた。執事マニアである彼女は、相変わらず遥か後方に七人の執事を連れている。

「こんにちは、シラユッキさん」

「新天地のお話ききましたわー。何かと大変でしょう?」

「そうですね。色々とごたついています」

「実は私も新天地へ向かおうと思っていますわ」

 その言葉に俺は眉根を寄せた。

「……え? なぜです? シラユッキさんも現状に何か不満があるのですか?」

 彼女は平民ではあるが、自身の作るリンゴのお陰でパトロンが多くついており裕福な生活を送っているはずだ。現に執事もたくさん雇っているしな。

「いえ、毎日リンゴのお世話ができて幸せな日々ですわー。ですけど外の世界への憧れもありますの。外へ行って色んな景色やものを見て見聞を広げたいですわ。それに農業の知識があれば新天地の発展に役立つと思いますの」

 探究心や冒険心は皆持つものだし分からなくもない。だけど。

「それは今の安全な生活を捨ててでも行うべきことなんですか?」

「おっしゃりたいことは分かりますわ。ですけど、少し棘のある言い方をすれば、この国もずっと安全ではないでしょう?」

 確かに今は俺がワンオペで守っているが、一歩間違えば簡単に滅んでしまう危うい状況だ。

「ですから新天地カーナの開拓を進めて、人類の領土を増やしておいた方がいいと思いますわ。そうしてマルクト王国と共に成長していけば、もしかしたら巨獣に対して有効な打開策が見つかるかも知れませんの」

 夢物語だな。それが叶うのに何十年、何百年かかるか分からない。

「過酷な旅になりますよ。特に女性には」

「あらー、農家の娘を舐めてはいけませんわよ? こう見えて体力はありますわ。それに執事もついていますし」

 え、アイツらも連れて行くのか。

 後ろの方に控えている七人の執事を見る。テンプレ執事ネームのセバスチャンと名付けたくなるようなかしこまった奴らが並んでいる。

 意外と強いかもだけど、巨獣にはワンパンされるだろうな。

 その後、少し雑談してシラユッキさんは優しくほほえみ、リンゴを俺に渡して執事と共に去っていった。

 新天地、そんなに魅力的か? ……分からない。やはり俺だけでは迷いが消えない。今の心持ちのままではどの選択をしても失敗に終わるだろう。覚悟を決めるため誰かに背中を押して欲しい。

 ちょっと相談してみるか。

 俺は、今一番信頼できる人物の元へ鎧兵を向かわせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根立真先
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...