【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

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第2章 新天地編

第45話 新天地の魔力

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 マルクト王国王都内、四番街。ここはほぼ円形の王都内の北西にあり、丸時計でいうなら十一時くらいの方向にある貧民街だ。

 遊牧民族ポリネーターが来てから三日が経ち、俺は団長ゼロを操作して彼らの監視兼警備をしていた。

 サーカスが終わり、族長代理テンソが即席の壇上に立った。

「四番街の皆様、少しよろしいでしょうか?」

 皆がコウモリ似の男テンソに注目する。

「皆様に素敵なお話があります。“新天地”についてです」

「新天地だぁ?」

 右目に眼帯をした青年オレンジャを中心に周辺がざわつき始めた。

「我々遊牧民はずっと巨獣に怯えることのない安住の地を探していました。そんな時、ニートンという男に出会い、新天地の存在を知ったのです。半信半疑ながらも我々はワラにもすがる思いでその場所に向かいました。そして砂漠と火山を越えた先に巨獣の入ることが出来ない新天地を見つけたのです」

 貧民街の者たちは固唾を呑んでテンソの話に聞き入っている。

「ニートンはその場所を“カーナ”と呼んでいました。カーナにも神樹と同じような巨大な樹があります。神樹と同じく巨獣の嫌う毒を持ち、近付けないようになっていました。少し違うのは、葉や枝はなく、剥き出しになった木の根だけが周辺に張り巡らされており、掘り起こした切り株のような形をしていることです」

 やはり他にも神樹に似たものが存在していたか。

「人間がようやく通れるほどの根の隙間から内部に入ると、そこは天国のようでした。危険な生物はおらず、野菜や果物が実り、光る石やキノコで周囲は日の光のように明るく照らされていました」

 神樹セフィロトは幹の上部に国があるが、こちらは根の間ということなので広大な檻のような感じだろうか。

「ただ、まだまだ未開の地。人が住むには草を刈り、作物を管理し、家を建てなければなりません。そうなると欲しいのは人手。そこで皆様の手をお借りしたいのです。皆様で作りませんか? 我々だけの理想の世界を」

「でもどうやって行くんだよ? 下は巨獣だらけだぞ」

「我々がマルクト王国にたどり着いたのと同じ手法を使います。ここに来られたのは偶然ではないのです。ニートンから貰った希望の地図、“黄金血路おうごんけつろ”を使います。この地図は砂漠と火山で巨獣と極力接触しないための道筋が描かれています」

「そんな奇跡の道が存在するのか?」

「えぇ、まず砂漠の方ですが、強力な巨獣二頭の縄張りと縄張りの間を抜けます。巨獣同士互いに牽制し合うため、逆に安全な道となるのです。そして火山にも強力な巨獣が一頭いますが、満腹になると一切攻撃して来ないという性質を利用します。餌となる虫巨獣を誘導して与え、その隙に縄張り内を突っ切るのです」

 ……うーん、面白い話ではあるがやっぱりマルクト王国にいた方がいいと思う。巨獣を百パーセント避けられるわけではないだろうし、本当なのかも怪しい。少なくとも命を懸けて挑戦する価値はない。

 俺がそんなことを考えていると、近くにいた貧民街のボス豚鼻のキャロブゥが話し始めた。

「魅力的だがよぉ、マルクト王国に居た方がいいですぜ。ここだって安全だ。ポテトさん率いる聖騎士団も居るしな」

 俺と同じ意見だ。ポテトさん率いる、というところが引っ掛かるが置いておこう。

「ええ、大変魅力的な国です。ですが、本当に今の生活に満足していますか? 道が一本違えば貴族のきらびやかな生活を見せつけられる毎日。変えたくても変えられない現状。だったら我々と共に新天地へ向かいませんか? そこは王族も貴族もおらず、全てが平等な素晴らしき新世界なのです」

 そうか、だから貧民街で話すことを選んだのか。こんな与太話、富裕層に提案しても鼻で笑われてお仕舞いだっただろう。だが現状に不満を持つ者が多いであろうここなら耳を傾ける人間が少なからずいる。

 ふと、隣のオレンジャを見ると口元を緩ませ、目を輝かせていた。

「新天地……行ってみてぇ」

 ああ、やはり貧民の彼にとってこれは魅力的な話に見えるのか。この国には貧富の格差があり、平民や貧民は余程の功を立てなければ、まず貴族になれない。だからこういう一発逆転を賭けたギャンブルのようなものに魅力を感じてしまうのだろう。

「オレンジャ、悪い事は言わない。やめておいた方がいい。危険なだけで成功する可能性は低いぞ。新天地が本当にあるかも疑わしいしな」

 俺の警告を聞いても彼の目は血走ったままだ。

「るせぇ! オレは行くぜ新天地へ! こんなところでくすぶってられるかっつーの!」

 オレンジャの言葉を皮切りに次々と声が上がる。

「お、俺もだ!」
「ここに居ても苦しいだけだ。行こう!」
「どうせ死んだように生きている毎日。だったら命を懸ける価値はある!」

 湧き上がる歓声。全く賛同できない俺からしたら泥水を無理やり飲まされているような不快感しか感じない。

 その異様な雰囲気に俺の体から汗が一筋流れた。

「マズイな……」

 ここにいる大半が新天地の魔力に取り憑かれていた。
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