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第2章 新天地編
第44話 捻くれ者オレンジャ
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遊牧民族ポリネーターを神樹に迎え入れた翌日。女王への報告や諸々の手続きが終わり、彼らの要望である交易品の売買やサーカスを行っていいことになった。
ここまでスムーズに事が運んだのは聖騎士団という前例がいるお陰だろう。俺の時は一ヶ月もかかったのによぉ。感謝しろよな! ぷんぷん!
北西の王国外。俺は団長ゼロと何体かの鎧兵を操ってサーカスの設営を手伝っていた。
準備が整い、族長代理でコウモリ似の男テンソが簡素なステージに上がる。
「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。これから皆様と親睦を深めたく、ちょっとした余興を行いたいと思います。もちろんお代はいただきません。ただ、ほんの少しだけ皆様の笑顔をいただくことになるかもしれませんがご了承ください」
笑いが巻き起こる。ヤジを飛ばす人間もおらず、和やかな雰囲気で一安心だ。
「それではさっそく始めましょうか。……奇妙奇天烈、奇々怪々、されど万民を魅了する我ら遊牧民ポリネーターの妙技、とくとご覧あれ」
恭しい挨拶が終わり、サーカスが始まった。
連続バク転。組み体操。ナイフ投げ。リングやボールを投げてのジャグリング。さらに巨獣の素材で作られたトランポリンでのパフォーマンス。
そのどれもがクオリティが高く、お金を払ってもいいと思えるものだった。
すごいねぇ。今度俺も鎧兵でやってみるか。失敗して大惨事になるだろうけど。
「ひゅー、やるじゃん!」
口笛を吹き、一際大きな声を出しているのは貧民街に住む成人手前くらいの青年オレンジャだ。明るめの短髪赤毛に右眼の眼帯、少し体が筋肉質なのが特徴。
オレンジャがこちらを向く。
「うお、お前は鎧野郎! 何でいるんだよ!」
今頃気付くなよ。
「サーカスを見たくてね」
「ふん、いいよなぁ聖騎士どもはよ。突っ立ってるだけで金が貰えるんだからよぉ」
「これでも常に気を張っていて疲れるんだぞ。お前みたいなのがいつ暴れ出すか分からないからな」
「んだぁテメェ、いつものようにボコボコにしてやろうかぁ?」
いつもボコボコにしてるのは俺なんだけどな。オレンジャは聖騎士を見るとところ構わず突っかかってくるヤンチャな男だ。今のところ百パーセント俺が勝っている。
「やめておこう。笑われるのはサーカス団員だけで充分だ」
「おおん? なんかバカにしてんな? ……ふん、いつもなら殴り掛かるところだが、今日は気分がいいから辞めといてやるよ。シュッシュッ!」
と言ってシャドーボクシングを始めた。シュッシュッ、ってかわいいなぁ。でもそういうのはオッサンになる前に卒業しとけよ。じゃないと人前で恥かくぞ。
そうこうしていると、一段落ついた族長代理テンソがこちらに向かってきた。
「ゼロ様、楽しんでいただけましたか?」
「ええ、とても。あのような技はどこで修得したのでしょう?」
「巨獣と戦うために体を鍛えていて、その延長線上で会得したものですよ」
「なるほど、合理的で素晴らしい」
「話は変わりますが、我々が正式に入国を許可されるまでどれくらい掛かるのでしょうか?」
彼らは神樹の上には居られるものの、まだ王都に入ることを許されていないのだ。
「早ければ三日もあれば入国できるでしょう。ただ、監視が付きますし、貴族街や王城は出入りできないと思います」
それを聞いてもテンソはニコニコしている。
「分かりました。楽しみにしておきます。……それと、もう一つ。この国に貧困層が集まる場所ってありますか?」
「それなら王都北西にある四番街ですね」
「では正式に入国が許されたら、そこでもサーカスをさせていただいてもよろしいですか?」
「私の一存では決められませんが恐らく二つ返事で許可が降りるでしょう。この技術の高さならどこでも歓迎されると思います」
俺が納得するように頷いていると、オレンジャが会話に割り込んできた。
「んだぁ? オレら貧乏人に媚び売ってどうすんだよ? なけなしの金品巻き上げようってか?」
「そういう邪な考えはないですよ。ただお礼がしたいのと……ここだけの話、貴方がたにとってとてもいいお話があるんです」
うーん? 怪しいな。
「ケッ、金でもくれんのかよ」
「場合によってはそれよりも価値があるものですよ」
「ハッ、きな臭ぇな」
「当日をお楽しみに。ゼロ様もよろしければ来てくださいね」
不敵に笑うテンソ。金よりも価値があるもの? うーん、思い付かないなぁ。俺も行って問題ないみたいだしヤバいことはしないと思うが一応警戒しとくか。
ここまでスムーズに事が運んだのは聖騎士団という前例がいるお陰だろう。俺の時は一ヶ月もかかったのによぉ。感謝しろよな! ぷんぷん!
北西の王国外。俺は団長ゼロと何体かの鎧兵を操ってサーカスの設営を手伝っていた。
準備が整い、族長代理でコウモリ似の男テンソが簡素なステージに上がる。
「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。これから皆様と親睦を深めたく、ちょっとした余興を行いたいと思います。もちろんお代はいただきません。ただ、ほんの少しだけ皆様の笑顔をいただくことになるかもしれませんがご了承ください」
笑いが巻き起こる。ヤジを飛ばす人間もおらず、和やかな雰囲気で一安心だ。
「それではさっそく始めましょうか。……奇妙奇天烈、奇々怪々、されど万民を魅了する我ら遊牧民ポリネーターの妙技、とくとご覧あれ」
恭しい挨拶が終わり、サーカスが始まった。
連続バク転。組み体操。ナイフ投げ。リングやボールを投げてのジャグリング。さらに巨獣の素材で作られたトランポリンでのパフォーマンス。
そのどれもがクオリティが高く、お金を払ってもいいと思えるものだった。
すごいねぇ。今度俺も鎧兵でやってみるか。失敗して大惨事になるだろうけど。
「ひゅー、やるじゃん!」
口笛を吹き、一際大きな声を出しているのは貧民街に住む成人手前くらいの青年オレンジャだ。明るめの短髪赤毛に右眼の眼帯、少し体が筋肉質なのが特徴。
オレンジャがこちらを向く。
「うお、お前は鎧野郎! 何でいるんだよ!」
今頃気付くなよ。
「サーカスを見たくてね」
「ふん、いいよなぁ聖騎士どもはよ。突っ立ってるだけで金が貰えるんだからよぉ」
「これでも常に気を張っていて疲れるんだぞ。お前みたいなのがいつ暴れ出すか分からないからな」
「んだぁテメェ、いつものようにボコボコにしてやろうかぁ?」
いつもボコボコにしてるのは俺なんだけどな。オレンジャは聖騎士を見るとところ構わず突っかかってくるヤンチャな男だ。今のところ百パーセント俺が勝っている。
「やめておこう。笑われるのはサーカス団員だけで充分だ」
「おおん? なんかバカにしてんな? ……ふん、いつもなら殴り掛かるところだが、今日は気分がいいから辞めといてやるよ。シュッシュッ!」
と言ってシャドーボクシングを始めた。シュッシュッ、ってかわいいなぁ。でもそういうのはオッサンになる前に卒業しとけよ。じゃないと人前で恥かくぞ。
そうこうしていると、一段落ついた族長代理テンソがこちらに向かってきた。
「ゼロ様、楽しんでいただけましたか?」
「ええ、とても。あのような技はどこで修得したのでしょう?」
「巨獣と戦うために体を鍛えていて、その延長線上で会得したものですよ」
「なるほど、合理的で素晴らしい」
「話は変わりますが、我々が正式に入国を許可されるまでどれくらい掛かるのでしょうか?」
彼らは神樹の上には居られるものの、まだ王都に入ることを許されていないのだ。
「早ければ三日もあれば入国できるでしょう。ただ、監視が付きますし、貴族街や王城は出入りできないと思います」
それを聞いてもテンソはニコニコしている。
「分かりました。楽しみにしておきます。……それと、もう一つ。この国に貧困層が集まる場所ってありますか?」
「それなら王都北西にある四番街ですね」
「では正式に入国が許されたら、そこでもサーカスをさせていただいてもよろしいですか?」
「私の一存では決められませんが恐らく二つ返事で許可が降りるでしょう。この技術の高さならどこでも歓迎されると思います」
俺が納得するように頷いていると、オレンジャが会話に割り込んできた。
「んだぁ? オレら貧乏人に媚び売ってどうすんだよ? なけなしの金品巻き上げようってか?」
「そういう邪な考えはないですよ。ただお礼がしたいのと……ここだけの話、貴方がたにとってとてもいいお話があるんです」
うーん? 怪しいな。
「ケッ、金でもくれんのかよ」
「場合によってはそれよりも価値があるものですよ」
「ハッ、きな臭ぇな」
「当日をお楽しみに。ゼロ様もよろしければ来てくださいね」
不敵に笑うテンソ。金よりも価値があるもの? うーん、思い付かないなぁ。俺も行って問題ないみたいだしヤバいことはしないと思うが一応警戒しとくか。
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