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第2章 第3話
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少年は、マヨリ宛に書き置きを残し、タカミのマンションに移動しようと提案した。
タカミも妹の友人だった女の子たちならば、喜んで同居人として迎えてくれるだろう。
しかし、リンは首を大きく横に振った。
「わたしね、変なの。昨日から雨が怖いの」
この雨の中、何十分も歩いてそのマンションまで行くのは無理かな、とリンは悲しそうに笑った。
道路の水たまりもこわいのだという。
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに。
本当は行きたいの。あなたとも、あの子のお兄さんとももっとお話したいし」
だが、どうしても無理なのだという。
「この街は雨が止まないから、わたし、ここでマヨリを待ってる」
少年は、リンの意思を尊重することにした。
そうせざるを得なかった。
野犬にかまれたこと、雨がこわいという彼女の言葉から、少年は気づいてしまったからだ。
彼女はおそらく狂犬病に感染している。
水に恐怖心を抱くというのは、狂犬病の症状のひとつだった。
リンにこれから待っているのは、精神の錯乱だ。
ガソリンが残っている車を探したりなどして、タカミのマンションに連れていけば、タカミや自分が噛みつかれ、狂犬病に感染する可能性があった。
それに彼女はもう、長くは生きられない。
医療機関が機能していない今となっては、ワクチンを手に入れることはもはや不可能だ。
生きていくには必須の水を飲むことすら恐怖となった彼女は、数日のうちに脱水症状を起こして死ぬだろう。
少年はリンの安全のためにと伝えて、無理矢理こじ開けられていたシャッターを半分ほど下ろした。
本当は全部下ろし、彼女を隔離すべきだったが、無理矢理こじ開けられたシャッターは、半分しか下ろすことができなかった。
少年にはリンを見捨てることしかできなかったが、この数日間そんな彼女のことがずっと気がかりだった。
マヨリは帰ってきただろうか。
また暴徒に襲われたりしていないだろうか。
リンがマヨリを待つ薬局に少年が足を運ぶと、シャッターがまたこじ開けられていた。
そこには裸にされたリンが頭から血を流して転がっており、一目で強姦され殺されたのだとわかった。
リンの死体は片腕が切り取られており、
「なんだ、お前?」
暴徒の男がその腕を食らっていた。
その姿はおぞましく、もはや同じ人間とは思えなかった。
いや、人であることをやめたのが暴徒なのだ。
「お前も食いたいのか?」
と、尋ねてきた暴徒に、
(そんなにうまいのか?)
少年は、言葉にならない声で男に尋ねた。
「あぁ? 何言ってんのかわかんねーよ。お前、頭いっちゃてんのか?」
暴徒が立ち上がった瞬間、少年は素早く拳銃を取り出すと、その四肢を次々に撃ち抜いた。
壊れたおもちゃのように、暴徒にその場に崩れ落ちた。
「いってぇ!! てめえ、何しやがる!!」
出血多量になるような急所は外したが、もう歩くことはもちろん、這って動くことすらできないだろう。
「食う気か? 俺を食う気なのか!?」
先ほどまで自分の方が立場が上だと思っていた暴徒は、途端に命乞いを始めた。
普段なら一発で頭を仕留める少年が四肢を撃ち抜いたのにはちゃんと意味があった。
暴徒を薬局から引きずりだし、雨水の水溜まりの中に放り投げた。
降り止むことのない雨が、身動きのとれない暴徒の全身をあっという間に濡らした。
リンを強姦し、その肉を食らったこの男は、十中八九狂犬病ウィルスに感染している。
狂犬病ウィルスは数日で脳に侵入し発病するだろう。
狂犬病は風邪などと違いウィルスが神経を伝い脳に向かうため、血液中の白血球などの人体の免疫システムでは発病を逃れることはできない。
ワクチンしか、その病から逃れるすべはない。
「なんだよ、お前!一体何がしたいんだよ!!」
少年は、リンの死体と切り取られかじられた腕を抱きかかえて、その場を後にしようとした。
「ハハッ!
俺なんかより、そのメスガキの方がいいってか!!
悪いな、俺が先に食っちまってよ!!!
最高だったぜ、そのガキの体はよぉ!!!!」
少年は暴徒を見下ろし、
(水に怯えながら死んでいけ)
声にならない声で、そう吐き捨てた。
マヨリを探そう。
必ず見つけて、一緒にリンを弔ってあげなくちゃ。
だが、マヨリももう生きてはいないだろう。
だとしても、ふたりがずっと一緒にいられるようにしてあげなきゃ。
少年はそう思いながら、夜の雨の中を歩いていった。
タカミも妹の友人だった女の子たちならば、喜んで同居人として迎えてくれるだろう。
しかし、リンは首を大きく横に振った。
「わたしね、変なの。昨日から雨が怖いの」
この雨の中、何十分も歩いてそのマンションまで行くのは無理かな、とリンは悲しそうに笑った。
道路の水たまりもこわいのだという。
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに。
本当は行きたいの。あなたとも、あの子のお兄さんとももっとお話したいし」
だが、どうしても無理なのだという。
「この街は雨が止まないから、わたし、ここでマヨリを待ってる」
少年は、リンの意思を尊重することにした。
そうせざるを得なかった。
野犬にかまれたこと、雨がこわいという彼女の言葉から、少年は気づいてしまったからだ。
彼女はおそらく狂犬病に感染している。
水に恐怖心を抱くというのは、狂犬病の症状のひとつだった。
リンにこれから待っているのは、精神の錯乱だ。
ガソリンが残っている車を探したりなどして、タカミのマンションに連れていけば、タカミや自分が噛みつかれ、狂犬病に感染する可能性があった。
それに彼女はもう、長くは生きられない。
医療機関が機能していない今となっては、ワクチンを手に入れることはもはや不可能だ。
生きていくには必須の水を飲むことすら恐怖となった彼女は、数日のうちに脱水症状を起こして死ぬだろう。
少年はリンの安全のためにと伝えて、無理矢理こじ開けられていたシャッターを半分ほど下ろした。
本当は全部下ろし、彼女を隔離すべきだったが、無理矢理こじ開けられたシャッターは、半分しか下ろすことができなかった。
少年にはリンを見捨てることしかできなかったが、この数日間そんな彼女のことがずっと気がかりだった。
マヨリは帰ってきただろうか。
また暴徒に襲われたりしていないだろうか。
リンがマヨリを待つ薬局に少年が足を運ぶと、シャッターがまたこじ開けられていた。
そこには裸にされたリンが頭から血を流して転がっており、一目で強姦され殺されたのだとわかった。
リンの死体は片腕が切り取られており、
「なんだ、お前?」
暴徒の男がその腕を食らっていた。
その姿はおぞましく、もはや同じ人間とは思えなかった。
いや、人であることをやめたのが暴徒なのだ。
「お前も食いたいのか?」
と、尋ねてきた暴徒に、
(そんなにうまいのか?)
少年は、言葉にならない声で男に尋ねた。
「あぁ? 何言ってんのかわかんねーよ。お前、頭いっちゃてんのか?」
暴徒が立ち上がった瞬間、少年は素早く拳銃を取り出すと、その四肢を次々に撃ち抜いた。
壊れたおもちゃのように、暴徒にその場に崩れ落ちた。
「いってぇ!! てめえ、何しやがる!!」
出血多量になるような急所は外したが、もう歩くことはもちろん、這って動くことすらできないだろう。
「食う気か? 俺を食う気なのか!?」
先ほどまで自分の方が立場が上だと思っていた暴徒は、途端に命乞いを始めた。
普段なら一発で頭を仕留める少年が四肢を撃ち抜いたのにはちゃんと意味があった。
暴徒を薬局から引きずりだし、雨水の水溜まりの中に放り投げた。
降り止むことのない雨が、身動きのとれない暴徒の全身をあっという間に濡らした。
リンを強姦し、その肉を食らったこの男は、十中八九狂犬病ウィルスに感染している。
狂犬病ウィルスは数日で脳に侵入し発病するだろう。
狂犬病は風邪などと違いウィルスが神経を伝い脳に向かうため、血液中の白血球などの人体の免疫システムでは発病を逃れることはできない。
ワクチンしか、その病から逃れるすべはない。
「なんだよ、お前!一体何がしたいんだよ!!」
少年は、リンの死体と切り取られかじられた腕を抱きかかえて、その場を後にしようとした。
「ハハッ!
俺なんかより、そのメスガキの方がいいってか!!
悪いな、俺が先に食っちまってよ!!!
最高だったぜ、そのガキの体はよぉ!!!!」
少年は暴徒を見下ろし、
(水に怯えながら死んでいけ)
声にならない声で、そう吐き捨てた。
マヨリを探そう。
必ず見つけて、一緒にリンを弔ってあげなくちゃ。
だが、マヨリももう生きてはいないだろう。
だとしても、ふたりがずっと一緒にいられるようにしてあげなきゃ。
少年はそう思いながら、夜の雨の中を歩いていった。
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