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第2章 第4話
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山汐リンの遺体は、雨野市を大きく囲う堤防沿いにある藤公園に埋葬した。
この藤公園には、子どもの頃一度家族で来たことがあり、真上から垂れ下がる藤の花がとてもきれいだったのを覚えていた。
だからこの場所にしたのだが、花はみんな枯れ果ててしまっていた。
誰も面倒を見る人がいなくなってしまったからだろうか。それとも雨が降りすぎてしまったせいだろうか。
こんな場所でも、暴徒に殺された多くの人々のように野ざらしにされるよりはいいだろうと少年は思った。
血や暴徒の体液で汚れたリンの顔や身体を雨で洗い、髪は手ぐしでといた。千切られた腕は、ガムテープを巻いてくっつけた。
エンバーミングのように元通りとはいかなかったし、死装束も用意することはできなかったが、精一杯生前の彼女に近づける努力はした。
スコップを探し、雨ですっかり柔らかくなった地面を少年は明け方まで掘り続けた。
その途中、翡翠色の淡い光がいくつも水溜まりから浮かび上がるのを見た。
蛍か?と思ったが、どうやらそうではないらしく、目で追いかけているうちに光は空気に溶けるように消えてしまった。
淡い光を放つ何かを見かけるようになったのは、彼の恋人がこの街で死に、一年中雨が降り続けるようになってからのことだった。だから少年は真夜中に街灯ひとつついていない街を出歩くことができた。
普段真夜中に街に出るときは、2、3時間で帰宅する。その日のように明け方まで街に出ることは稀だった。
リンの死体を埋め終わる頃には、もう朝になっていた。
マヨリのことが気になったが、早く帰らなければタカミが心配する。
少年は駆け足でマンションに戻ることにした。
返璧マヨリ(たまがえし まより)が、山汐リンが待つ駅前商店街の小さな薬局に戻ったのは、その数時間後のことだった。
彼女はリンのためにひとりで都市部を目指し、闇市で消毒液や鎮痛剤を手に入れて無事戻ってきた。
ただでさえ土地勘のない場所を暴徒から逃げ回りながらであったため、道に迷ってしまい、往復で数日もかかってしまった。
薬局の中で待っているはずのリンの姿はどこにもなかった。
薄暗い店内とはいえ、小学生のように小さな体のリンを見つけられないわけがなかった。
リンがいないかわりに(?)、店の前には腕や脚を拳銃で撃ち抜かれた半裸の男が、降り続ける雨に向かって何かをわめき散らしているだけだった。それにはひどく驚かされた。
半裸の男は支離滅裂な言葉を口にしており、ほとんど意味がわからなかったが、「雨合羽の男にやられた」という言葉だけはわかった。
雨合羽の男とは、雨野市で3年ほど前から都市伝説のように語られるようになった、食糧を手に入れるため人を狩る暴徒たちを狩る、この街の救世主のような存在だった。
真夜中にだけ現れるため、その顔を見た者はおらず、声を聞いた者もいないという。
わかっているのは、雨合羽を着ていることと、拳銃やサバイバルナイフで暴徒の命を一瞬で奪うということだけだ。
その年齢も、男かどうかさえ誰も知らなかった。
雨合羽の男にやられたということは、この半裸の男は暴徒だったということだろう。
こんなどこにでもいる普通の人が、とマヨリは思った。
子どもの頃に兄と観た、核戦争後の前世紀末を舞台にしたアニメでは、暴徒というものはモヒカン頭やトゲトゲのついたおかしな格好をしており、一目で悪者だとわかったが、現実の暴徒はそうでない人間と一目では区別がつかないのが厄介だった。
だが、この男が暴徒であるなら、なぜまだ生きているのだろうか。
雨合羽の男は暴徒の命を一瞬で確実に仕留めるのではなかったか。
なぜ四肢を撃ち抜くだけで、命を奪わずに野ざらしにしたのだろうか。
雨合羽の男を模倣する者が現れた?
けれど、拳銃で撃ち抜かれた四肢を見る限り、男は歩くどころか身動きひとつ取れないように見えた。それだけ人体を知り尽くしており、正確な射撃が可能なのは、雨合羽の男だからこそ出来たのではないだろうか。
この男はリンを襲おうとしていた?
そこにたまたま通りがかった雨合羽の男に、逆に襲われた?
だとしたら、この男はあえて雨の中野ざらしにされたということだ。
それには何か意味があるのだろう。
この藤公園には、子どもの頃一度家族で来たことがあり、真上から垂れ下がる藤の花がとてもきれいだったのを覚えていた。
だからこの場所にしたのだが、花はみんな枯れ果ててしまっていた。
誰も面倒を見る人がいなくなってしまったからだろうか。それとも雨が降りすぎてしまったせいだろうか。
こんな場所でも、暴徒に殺された多くの人々のように野ざらしにされるよりはいいだろうと少年は思った。
血や暴徒の体液で汚れたリンの顔や身体を雨で洗い、髪は手ぐしでといた。千切られた腕は、ガムテープを巻いてくっつけた。
エンバーミングのように元通りとはいかなかったし、死装束も用意することはできなかったが、精一杯生前の彼女に近づける努力はした。
スコップを探し、雨ですっかり柔らかくなった地面を少年は明け方まで掘り続けた。
その途中、翡翠色の淡い光がいくつも水溜まりから浮かび上がるのを見た。
蛍か?と思ったが、どうやらそうではないらしく、目で追いかけているうちに光は空気に溶けるように消えてしまった。
淡い光を放つ何かを見かけるようになったのは、彼の恋人がこの街で死に、一年中雨が降り続けるようになってからのことだった。だから少年は真夜中に街灯ひとつついていない街を出歩くことができた。
普段真夜中に街に出るときは、2、3時間で帰宅する。その日のように明け方まで街に出ることは稀だった。
リンの死体を埋め終わる頃には、もう朝になっていた。
マヨリのことが気になったが、早く帰らなければタカミが心配する。
少年は駆け足でマンションに戻ることにした。
返璧マヨリ(たまがえし まより)が、山汐リンが待つ駅前商店街の小さな薬局に戻ったのは、その数時間後のことだった。
彼女はリンのためにひとりで都市部を目指し、闇市で消毒液や鎮痛剤を手に入れて無事戻ってきた。
ただでさえ土地勘のない場所を暴徒から逃げ回りながらであったため、道に迷ってしまい、往復で数日もかかってしまった。
薬局の中で待っているはずのリンの姿はどこにもなかった。
薄暗い店内とはいえ、小学生のように小さな体のリンを見つけられないわけがなかった。
リンがいないかわりに(?)、店の前には腕や脚を拳銃で撃ち抜かれた半裸の男が、降り続ける雨に向かって何かをわめき散らしているだけだった。それにはひどく驚かされた。
半裸の男は支離滅裂な言葉を口にしており、ほとんど意味がわからなかったが、「雨合羽の男にやられた」という言葉だけはわかった。
雨合羽の男とは、雨野市で3年ほど前から都市伝説のように語られるようになった、食糧を手に入れるため人を狩る暴徒たちを狩る、この街の救世主のような存在だった。
真夜中にだけ現れるため、その顔を見た者はおらず、声を聞いた者もいないという。
わかっているのは、雨合羽を着ていることと、拳銃やサバイバルナイフで暴徒の命を一瞬で奪うということだけだ。
その年齢も、男かどうかさえ誰も知らなかった。
雨合羽の男にやられたということは、この半裸の男は暴徒だったということだろう。
こんなどこにでもいる普通の人が、とマヨリは思った。
子どもの頃に兄と観た、核戦争後の前世紀末を舞台にしたアニメでは、暴徒というものはモヒカン頭やトゲトゲのついたおかしな格好をしており、一目で悪者だとわかったが、現実の暴徒はそうでない人間と一目では区別がつかないのが厄介だった。
だが、この男が暴徒であるなら、なぜまだ生きているのだろうか。
雨合羽の男は暴徒の命を一瞬で確実に仕留めるのではなかったか。
なぜ四肢を撃ち抜くだけで、命を奪わずに野ざらしにしたのだろうか。
雨合羽の男を模倣する者が現れた?
けれど、拳銃で撃ち抜かれた四肢を見る限り、男は歩くどころか身動きひとつ取れないように見えた。それだけ人体を知り尽くしており、正確な射撃が可能なのは、雨合羽の男だからこそ出来たのではないだろうか。
この男はリンを襲おうとしていた?
そこにたまたま通りがかった雨合羽の男に、逆に襲われた?
だとしたら、この男はあえて雨の中野ざらしにされたということだ。
それには何か意味があるのだろう。
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