ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

文字の大きさ
11 / 123

第2章 第3話

しおりを挟む
 少年は、マヨリ宛に書き置きを残し、タカミのマンションに移動しようと提案した。
 タカミも妹の友人だった女の子たちならば、喜んで同居人として迎えてくれるだろう。
 しかし、リンは首を大きく横に振った。

「わたしね、変なの。昨日から雨が怖いの」

 この雨の中、何十分も歩いてそのマンションまで行くのは無理かな、とリンは悲しそうに笑った。
 道路の水たまりもこわいのだという。

「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに。
 本当は行きたいの。あなたとも、あの子のお兄さんとももっとお話したいし」

 だが、どうしても無理なのだという。

「この街は雨が止まないから、わたし、ここでマヨリを待ってる」

 少年は、リンの意思を尊重することにした。
 そうせざるを得なかった。
 野犬にかまれたこと、雨がこわいという彼女の言葉から、少年は気づいてしまったからだ。

 彼女はおそらく狂犬病に感染している。

 水に恐怖心を抱くというのは、狂犬病の症状のひとつだった。
 リンにこれから待っているのは、精神の錯乱だ。
 ガソリンが残っている車を探したりなどして、タカミのマンションに連れていけば、タカミや自分が噛みつかれ、狂犬病に感染する可能性があった。

 それに彼女はもう、長くは生きられない。
 医療機関が機能していない今となっては、ワクチンを手に入れることはもはや不可能だ。
 生きていくには必須の水を飲むことすら恐怖となった彼女は、数日のうちに脱水症状を起こして死ぬだろう。

 少年はリンの安全のためにと伝えて、無理矢理こじ開けられていたシャッターを半分ほど下ろした。
 本当は全部下ろし、彼女を隔離すべきだったが、無理矢理こじ開けられたシャッターは、半分しか下ろすことができなかった。

 少年にはリンを見捨てることしかできなかったが、この数日間そんな彼女のことがずっと気がかりだった。
 マヨリは帰ってきただろうか。
 また暴徒に襲われたりしていないだろうか。

 リンがマヨリを待つ薬局に少年が足を運ぶと、シャッターがまたこじ開けられていた。
 そこには裸にされたリンが頭から血を流して転がっており、一目で強姦され殺されたのだとわかった。
 リンの死体は片腕が切り取られており、

「なんだ、お前?」

 暴徒の男がその腕を食らっていた。
 その姿はおぞましく、もはや同じ人間とは思えなかった。
 いや、人であることをやめたのが暴徒なのだ。

「お前も食いたいのか?」

 と、尋ねてきた暴徒に、

(そんなにうまいのか?)

 少年は、言葉にならない声で男に尋ねた。

「あぁ? 何言ってんのかわかんねーよ。お前、頭いっちゃてんのか?」

 暴徒が立ち上がった瞬間、少年は素早く拳銃を取り出すと、その四肢を次々に撃ち抜いた。
 壊れたおもちゃのように、暴徒にその場に崩れ落ちた。

「いってぇ!! てめえ、何しやがる!!」

 出血多量になるような急所は外したが、もう歩くことはもちろん、這って動くことすらできないだろう。

「食う気か? 俺を食う気なのか!?」

 先ほどまで自分の方が立場が上だと思っていた暴徒は、途端に命乞いを始めた。
 普段なら一発で頭を仕留める少年が四肢を撃ち抜いたのにはちゃんと意味があった。

 暴徒を薬局から引きずりだし、雨水の水溜まりの中に放り投げた。
 降り止むことのない雨が、身動きのとれない暴徒の全身をあっという間に濡らした。

 リンを強姦し、その肉を食らったこの男は、十中八九狂犬病ウィルスに感染している。
 狂犬病ウィルスは数日で脳に侵入し発病するだろう。

 狂犬病は風邪などと違いウィルスが神経を伝い脳に向かうため、血液中の白血球などの人体の免疫システムでは発病を逃れることはできない。
 ワクチンしか、その病から逃れるすべはない。

「なんだよ、お前!一体何がしたいんだよ!!」

 少年は、リンの死体と切り取られかじられた腕を抱きかかえて、その場を後にしようとした。

「ハハッ!
 俺なんかより、そのメスガキの方がいいってか!!
 悪いな、俺が先に食っちまってよ!!!
 最高だったぜ、そのガキの体はよぉ!!!!」

 少年は暴徒を見下ろし、

(水に怯えながら死んでいけ)

 声にならない声で、そう吐き捨てた。


 マヨリを探そう。
 必ず見つけて、一緒にリンを弔ってあげなくちゃ。

 だが、マヨリももう生きてはいないだろう。

 だとしても、ふたりがずっと一緒にいられるようにしてあげなきゃ。

 少年はそう思いながら、夜の雨の中を歩いていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

処理中です...