ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

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第5章 第3話

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 アナスタシア=朝倉レインが、千のコスモの会の教祖の娘であるということはわかった。
 だが、彼女たちがいくら教団の幹部クラスの者だろうと、教祖逮捕に直接貢献した一条はともかく、間接的にしか関与していなかっただろうタカミの存在を知っているはずがなかった。
 ショウゴの名前は先ほどのアリステラの放送で出されてはいたが、彼女たちが一体自分に何の用があるというのだろう。
 このマンションを訪ねてきた一条の姿を見られたのだろうか。

 エレベーターを降りた1階には部屋はなく、ホテルのロビーのようになっている。
 壁は一面強化ガラスのマジックミラーになっており、外からは中を伺い知ることはできないが、中からは外の景色を眺めることができる。
 降り続ける雨が視界を邪魔しているが、マンションの前には綺麗な公園があった。
 テーブルやソファーがあったため、ショウゴはそこでアンナという女性の話を聞くことにした。

「このマンションの最上階であなたと同居している雨野タカミさんについてお話ししておきたいことがあるのです。
 いえ、雨野さんというよりは、我が教祖、つまりはアナスタシア様のお父様が指示された13年前の首相暗殺テロ未遂事件について、と言った方がいいでしょうか」

 ショウゴは警戒した。
 雨合羽もガンベルトも身に付けてはいなかったが、服の下の腹部、シャツに隠れるようにしてジーンズに拳銃を一丁隠し持っていたのは正解だったかもしれない。
 彼女は知っているのだ。
 教祖の逮捕にタカミが関与していることを。

 このアンナという女性は一体何者なのだろう。彼女の名もコスモネームというやつなのだろうか。
 長女や次女、三女ということなら、顔や背格好が似ているのも説明がつく。
 アナスタシアの教団での立ち位置がわからないから何とも言えないが、姉が妹を様付けで呼び、妹が姉を侍女のように扱うだろうか。

「その前にひとつだけいいですか。
 あなたは?
 なぜ、彼女と、アナスタシアさんと同じ顔をしているんです?」

 ひとつだけ、と言いながら、ふたつも質問してしまった。
 だからだろうか、

「私はアナスタシア様に仕えるメイド兼ボディーガード。
 名は鳳アンナ(おおとり あんな)と申します」

 顔が似ていることについては彼女は答えなかった。言いたくないか、言えない事情があるのだろう。
 整形によって顔を変えたのか、生まれつき顔が似ていたか。そのどちらかだろう。

 だが名前を知ることはできた。アンナという名前はコスモネームではないらしい。
 彼女はアナスタシアのボディーガードというよりは、いざというときの影武者なのかもしれない。

 アナスタシアは、確かギリシア語で「目覚めた女」や「復活した女」を意味する名前だ。
 ロシアの最後の皇帝の第四皇女の名前が、確か「アナスタシア・ニコラエヴナ」だった。世界史で習ったか、テレビか何かでその悲運な生涯が特集されているのを観たかした気がする。
 同じ四女だからアナスタシアというコスモネームを与えられたのだとしたら、至高神の化身である教祖様も随分と単純にお名付けになられたものだ。

 皇女アナスタシアが17歳で殺害された2年後に、自分がアナスタシアである自称した王族偽装者がいたはずだった。
 名前はアンナ・アンダーソン。
 鳳アンナはあくまで朝倉レインの影武者であり、アナスタシアを自称することはないだろうが、彼女にはコスモネームなど必要なかったということだろう。

「先ほどの放送、アリステラという超古代文明ですか、あれをご覧になりましたか?」

 アンナのその問いに嘘をつく理由はなかった。すでに彼女には自分が大和ショウゴであることや、4年前の出来事についても知られていたからだ。だから黙って頷いた。

「お気持ち、お察し致します」

 ユワのことを言っているのだろう。それ以上ユワの話題に触れないのは、彼女なりの優しさだったろうし、

「我が教祖・朝倉現人があの当時、首相暗殺を幹部ら数人に指示したのは、小久保ハルミ女史が発見した千年細胞が大きく関わっているのです」

 本題が別にあったからだった。
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