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第6章 第5話
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「パスワード、たぶんこれじゃないかな」
機械のすぐそばに、英数字が9文字メモされた付箋があった。"Ya1TaHa0t"
パスワードを忘れてしまい、必要に迫られたときに使えないのも問題だが、機械のそばにそのメモを置いておくくらいなら、そもそもパスワードを設定する意味がなかった。
まぁ、そのおかげで、すんなりと記録映像が見られそうなのだから、ここは素直に感謝しておくべきだろう。
「上にいたときに、轟音が2回聞こえたんだけど、1回目のあたりからかな?」
1回目の轟音は、30分ほど前のことだ。
タカミの問いに、ショウゴはまた悩ましげな表情を浮かべた。
「もう少し前からかな?」
「俺とこの人たちが3人でエレベーターから降りてきたところから。
あ、でも、これには音声は入ってないのか」
彼らは3人で何か話をした。
その会話の内容も、この1階ロビーで起きたことに関係がある。
だが、その会話から何もかも、ショウゴにはうまく説明ができない、ということか。
機械のすぐそばには有線式のヘッドフォンが置かれていた。タカミは試しにモニターに繋いでみることにした。
かすかだが声が聞こえたので音量を上げてみると、どうやら音もしっかりと録れているようだった。
モニターだけでは音声を聞くことができない仕様らしく、ヘッドフォンが必要なのが玉に瑕だったが、
「声、大丈夫そうだよ」
タカミがそう告げると、ショウゴは嬉しいのか悲しいのかよくわからない顔をして、ゲーミングチェアで眠る女性をお姫様にするように抱き上げた。
「部屋、先に戻っています。この人もタカミさんの部屋に運んでいいですか」
嬉しいわけはなかった。悲しいに決まっている。
ふたりとも、つらい体験をしたばかりなのだ。
巨漢の暴徒はともかく、ショウゴが抱き上げた女性は姉か妹を亡くしたばかりだった。
ショウゴが言い出したこととはいえ、ついさっき目の当たりにしたばかりのふたりの人間の死を、すぐに映像で観るのは心苦しいだろう。
タカミは「いいよ」とだけ答えたが、部屋からハッキングした方が良かったなと思った。
それにしても「タカミさんの部屋」か。
4年も一緒に暮らしても、ショウゴにとってはまだ自分は居候で、「ぼくたちの部屋」ではないのだ。
そうなることは、もうないのかもしれない。
それが少し寂しかった。
管理人室にひとり残されたタカミは、ゲーミングチェアに深く座り、監視カメラの映像の確認を始めた。
エレベーターから降りてきた3人は、小さなテーブルを挟んでソファーに腰を下ろし、会話を始めた。
今はもう見る陰もないほどに散乱してしまったロビーが、一時間程まではこんなに綺麗だったのかと思うと不思議だった。
『このマンションの最上階であなたと同居している雨野タカミさんについてお話ししておきたいことがあるのです』
喋っているのは、どちらの女性なのだろう。同じ背格好に瓜二つの顔、髪型、服装までふたりは同じで見分けがつかなかった。
『いえ、雨野さんというよりは、我が教祖、つまりはアナスタシア様のお父様が指示された13年前の首相暗殺テロ未遂事件について、と言った方がいいでしょうか』
我が教祖、アナスタシア、13年前の首相暗殺テロ未遂事件……
ショウゴが説明しづらいはずだった。
彼女たちは、ショウゴがまだ幼い頃、タカミと一条がテロを未然に防いだカルト教団の教祖の娘たちだったのだ。
おそらくこれは会話の途中なのだろう。乗り合わせたエレベーターの中で会話が始まり、長くなりそうだから場所をロビーに移したのだ。
監視カメラの映像をエレベーターのものに切り替え、少しだけ巻き戻してみると、
『千のコスモの会をご存知ですね?』
『こちらのお方は、戸籍上のご本名は朝倉麗音様。麗しい音と書いてレイン様とお読みします』
やはりそうだった。アナスタシアは確か教祖の三女か四女の名前だった。
13年前、まだ小学校になったばかりのアナスタシアが教祖を連行しようとする警察官にしがみつき、「お父様は何も悪いことはしてない」と、泣き叫んでいた映像を見たのを思い出した。
『アナスタシア様というお名前は、この世界を創造した劣悪で傲慢な神とは異なり、正しき千の宇宙(コスモ)を創造された善なる至高神(アイコーン)の化身であるレイン様のお父上、朝倉現人(あさくら あらひと)様から頂かれたコスモネーム』
13年前のことが、つい先日のことのように思い返される台詞だった。
機械のすぐそばに、英数字が9文字メモされた付箋があった。"Ya1TaHa0t"
パスワードを忘れてしまい、必要に迫られたときに使えないのも問題だが、機械のそばにそのメモを置いておくくらいなら、そもそもパスワードを設定する意味がなかった。
まぁ、そのおかげで、すんなりと記録映像が見られそうなのだから、ここは素直に感謝しておくべきだろう。
「上にいたときに、轟音が2回聞こえたんだけど、1回目のあたりからかな?」
1回目の轟音は、30分ほど前のことだ。
タカミの問いに、ショウゴはまた悩ましげな表情を浮かべた。
「もう少し前からかな?」
「俺とこの人たちが3人でエレベーターから降りてきたところから。
あ、でも、これには音声は入ってないのか」
彼らは3人で何か話をした。
その会話の内容も、この1階ロビーで起きたことに関係がある。
だが、その会話から何もかも、ショウゴにはうまく説明ができない、ということか。
機械のすぐそばには有線式のヘッドフォンが置かれていた。タカミは試しにモニターに繋いでみることにした。
かすかだが声が聞こえたので音量を上げてみると、どうやら音もしっかりと録れているようだった。
モニターだけでは音声を聞くことができない仕様らしく、ヘッドフォンが必要なのが玉に瑕だったが、
「声、大丈夫そうだよ」
タカミがそう告げると、ショウゴは嬉しいのか悲しいのかよくわからない顔をして、ゲーミングチェアで眠る女性をお姫様にするように抱き上げた。
「部屋、先に戻っています。この人もタカミさんの部屋に運んでいいですか」
嬉しいわけはなかった。悲しいに決まっている。
ふたりとも、つらい体験をしたばかりなのだ。
巨漢の暴徒はともかく、ショウゴが抱き上げた女性は姉か妹を亡くしたばかりだった。
ショウゴが言い出したこととはいえ、ついさっき目の当たりにしたばかりのふたりの人間の死を、すぐに映像で観るのは心苦しいだろう。
タカミは「いいよ」とだけ答えたが、部屋からハッキングした方が良かったなと思った。
それにしても「タカミさんの部屋」か。
4年も一緒に暮らしても、ショウゴにとってはまだ自分は居候で、「ぼくたちの部屋」ではないのだ。
そうなることは、もうないのかもしれない。
それが少し寂しかった。
管理人室にひとり残されたタカミは、ゲーミングチェアに深く座り、監視カメラの映像の確認を始めた。
エレベーターから降りてきた3人は、小さなテーブルを挟んでソファーに腰を下ろし、会話を始めた。
今はもう見る陰もないほどに散乱してしまったロビーが、一時間程まではこんなに綺麗だったのかと思うと不思議だった。
『このマンションの最上階であなたと同居している雨野タカミさんについてお話ししておきたいことがあるのです』
喋っているのは、どちらの女性なのだろう。同じ背格好に瓜二つの顔、髪型、服装までふたりは同じで見分けがつかなかった。
『いえ、雨野さんというよりは、我が教祖、つまりはアナスタシア様のお父様が指示された13年前の首相暗殺テロ未遂事件について、と言った方がいいでしょうか』
我が教祖、アナスタシア、13年前の首相暗殺テロ未遂事件……
ショウゴが説明しづらいはずだった。
彼女たちは、ショウゴがまだ幼い頃、タカミと一条がテロを未然に防いだカルト教団の教祖の娘たちだったのだ。
おそらくこれは会話の途中なのだろう。乗り合わせたエレベーターの中で会話が始まり、長くなりそうだから場所をロビーに移したのだ。
監視カメラの映像をエレベーターのものに切り替え、少しだけ巻き戻してみると、
『千のコスモの会をご存知ですね?』
『こちらのお方は、戸籍上のご本名は朝倉麗音様。麗しい音と書いてレイン様とお読みします』
やはりそうだった。アナスタシアは確か教祖の三女か四女の名前だった。
13年前、まだ小学校になったばかりのアナスタシアが教祖を連行しようとする警察官にしがみつき、「お父様は何も悪いことはしてない」と、泣き叫んでいた映像を見たのを思い出した。
『アナスタシア様というお名前は、この世界を創造した劣悪で傲慢な神とは異なり、正しき千の宇宙(コスモ)を創造された善なる至高神(アイコーン)の化身であるレイン様のお父上、朝倉現人(あさくら あらひと)様から頂かれたコスモネーム』
13年前のことが、つい先日のことのように思い返される台詞だった。
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